久保さんは寒がり
「寒い寒い……」
久保さんはブルブルと身震いさせている。移動教室で廊下に出たせいで、10秒に一回はこう言っている。
「何言ってんの?登校してる時は手袋に耳当てにマフラー。ブレザーの上にはウィンドブレイカー。下にはベストを着てる徹底的な防寒なのに?」
「知ってる?女の子にはスカートがあるんだよ」
「あー……」
地味に男が踏み込めない領域に足を踏み入れてしまった。
「おかしいよ。なんでお姉ちゃんはタイツ履かなかったんだろ。しかも、防寒具さえつけてなかったんだよ。おかしいよ」
頻繁にお姉さんが話に出てくるから、仲は良好なのがわかる。
ちなみに、この前の薬局の件については言ってない。なんか、責められそうだから。
*
「おねえちゃーん」
私は防寒の方法を聞くために、お姉ちゃんのいるリビングに入る。
「……なにしてんの?」
そこには、床にうつ伏せで少し背中を反らせて平泳ぎをしているお姉ちゃんがいた。
「床水泳だ。歩果もやる?」
「部屋でやりなよ。そういうの」
お姉ちゃんは疲れたのか、うつ伏せ寝の姿勢に戻る。
「で、なに聞きにきたの?」
今度は、ゴロンと仰向けになって私を見上げる。
「お姉ちゃんって、どうやって防寒してんの?」
「防寒?あいにく、そう言うのはしてないんだよね」
「え?」
「なんだろうね。寒いのが嫌いじゃないんだよね。前世が雪だからかな」
アハハと笑うお姉ちゃん。
「お姉ちゃん。水は循環してるんだよ。だから、前世が雪なんてありえないんだよ」
「あれ?水の循環が借り物みたいな言葉だねー」
ずっと前に言ってた卓くんの雑学の言葉だった。
「ほら、歩果っていつも起きるの遅いじゃん?」
「そうだね。寒すぎて」
いつも、起きてはしばらくは「寒いよ〜」って布団から出ない。うん、ちょっとだよ。10分くらい。
「確かにね。私だって寒いよ。でもね、暖房にさえ当たらなければね、意外と生活できるもんだよ」
「そうかなー……」
「モノは試しだ。今日から私と一緒に寝て私と同じ朝のメカニズムで動こうじゃないか」
疑ってる私に、お姉ちゃんが衝撃的な提案をした。
「いや、いいよ。参考にならないかもだし」
「おいおい。それは失礼じゃないかな?」
お姉ちゃんがガバリと起き上がる。
「若葉式の健康法だ。義務教育9年間無遅刻無欠席だったからな?」
「高校は含んでないんだね」
「まぁ、インフルだ。私も免疫力が……」
健康法とか言っときながら、すぐにマイナスな面を出してくる。
「それに、これを実践すればたちまち胸が」
「いくらで教えてくれる?」
チーターのような速さでお姉ちゃんに飛びつく。
「大きくなる……わけがない。発育の段階が違うから」
「ぶっ飛ばしたくなった」




