風邪引き
むくりと布団から起き上がる。
「…………ダルイな」
風邪かな?でも、そんなのなかったはずだけど……もしかして、引き始めかな?だったら、風邪薬を飲んでおかないと。
ダルい体で階段を降りると、そこには母親がいた。
「あれ、今日は休みなの?」
「そ。今週はシフトが少なめなの」
「…………そっか」
「ところでさ、風邪薬ない?ちょっと怠い」
「え?ごめん。切らしちゃってる……無理しないほうがいいよ」
昔から、ごめんが口癖だな。
僕は休むと言う選択に少し迷う。
「うーーーん……そうだね。久保さんには申し訳ないけど……」
「その名前、久しぶりに聞いたかも」
「え?」
母のその言葉に、僕は驚く。
「小学校からでしょ?なんで呼び方変えないの?」
「…………まだ、呼び捨てするような領域じゃない気がするから。久保さんも『卓くん』って呼んでるし」
「ふーん。変だね。あぁ、そうだった。風邪気味なんだってね。欠席の連絡はしといてね」
「はーい」
食欲はあったので、朝食を食べてから久保さんにメールを打つ。
『ごめん。体調が悪くて休む』
送信してすぐに既読と返信がつく。
『もしかして昨日、お風呂でお姉ちゃんが滝行って言って水シャワー浴びたからかな?』
うん、それじゃないから安心して。
リビングに戻る。
「じゃあ、お粥を作っておくから」
「いや、それはいけないよ」
母の言葉をさえぎる。
「お粥は風邪の食事って言われてるけど、あまり噛まないから実は逆効果。家にあるものなら、ゆで卵とか豆腐とかの高タンパクなものがいいよ」
「…………」
母は少し黙り込む。雑学を身につけさせてしまったのを、自分のせいなのだと思っているのだろう。
「何回読んでんの?雑学の本」
「大体、8周はしてる」
「…………」
「別に、ママさんのせいじゃないよ」
僕は母親を、ママさんと呼んでいる。
「僕がこう言う知識を身につけたのは、単に興味があっただけだし、暇つぶしにちょうどいいかなって」
「……ごめんね。仕事ばっかりで暇を出しちゃって……」
「謝ることじゃないよ」
「ほんっと。グレないね。我が家の一人息子は……」
切り替えたかのように、母は控えめに笑った。
翌日、すっかり風邪は治った。念の為にマスクを付ける。息苦しさを覚えていると、久保さんに会った。
「あ、おはよ。卓くん」
「うん。おはよう」
「……やっぱり、この間お姉ちゃんが滝行したから?」
「お姉さんは風邪ひいたの?」
「それがね、ひかなかったの。メンタルじゃなくて免疫力も鬼」
なにそれ、と笑った。
風邪なんて引いたら、こんな話はできないよな。だから、休みたくなかったのかもしれない。
*
数日前の久保家
「歩果。私は修行をしたのだ。水のみで頭から体まで洗ったぞー」
「お姉ちゃん、風邪ひいちゃうから服着てよ。あと、髪もよく拭いて。垂れてるから」
「ワハハ。世は自然乾燥の時代。電子機器など不要なのだー!」
そう言って頭を振る。
「わ、水飛ぶから……!」




