たぬき寝入り
「ねぇ、あれ。寝てると思う?」
久保さんはソファで寝てる若葉さんを指す。
ゲームをしに来たけど、若葉さんが寝てるんじゃゲームはできないかな。
「んー。若葉さん、睡眠時間短そうなイメージあるけど」
「あー。何時に寝てるのか、見たことないもん。拓くん、確認してみてよ」
「え、なんで僕なの」
「拓くんの方が、お姉ちゃんは笑って許してくれるから」
「どういうこと?」
仕方なく、僕は若葉さんの正面に回る。
「お……」
ニヤニヤしてない若葉さん、初めて見た。ドキッとしちゃった。
急いで久保さんのところに戻る。
「寝てたよ」
「たぬき寝入りなんじゃない?お姉ちゃんって、意外とポーカーフェイスなんだよね」
「いつもニヤニヤしてるのに?」
「そのニヤニヤが崩れないの」
久保さんは寝ていると思われる若葉さんを見る。
「でも、寝てるとしてお姉ちゃんも寝るんだね」
「人間だもん」
「それが答えか。で、お姉ちゃんの寝顔は?」
「え……」
んー。どう言えばいいんだろう。
「なんか、もう少し光があったら良い絵になるみたいな」
「なにそれ」
久保さんも、そろりそろりと若葉さんに近づく。
「うぇ」
いそいそと戻ってきた。
「美涼ちゃんみたい……いや、私たち親戚なんだけど」
「……どうしようか」
「本当に寝てるっぽいから、部屋行こ」
「そうだね」
満場一致で部屋に行くことになった。
帰る頃になると、若葉さんがポキポキと指を鳴らしていた。
「お姉ちゃん、寝てたの?」
「んー?」
久保さんが尋ねる。
「寝てないよ」
「寝てたよ」
「さぁー……」
なんか、いつもの若葉さんと違うな。
寝ぼけてるのかな?
「でも、寝ぼけてるのかなー……ちょっと目の端が白く見える」
僕の背筋がゾッとする。
「若葉さん……それ、白内障じゃないですか?」
「白内障……」
若葉さんは何かを思い出したらしい。ソファから立つ。変わらず、身長差はある。
「ああ、悪い悪い。嘘だ嘘」
普段の若葉さんに戻った。
「白内障……ねぇ。なぁ歩果」
「え?え……」
「お前は忘れてるのか。ま、いっか」
「あ……」
久保さんは何かを思い出したらしい。
若葉は、物置を作り変えた部屋に戻ってベッドに転がる。
「はぁ〜〜〜」
祖父の葬式の時の祖母の言葉が蘇る。
『あの人、やっぱりアホなのよね。白内障だって言ってるのに外に出て……段差に気づかず』
枕に顔を埋める。
「は〜〜」
スマホを取って電話をかける。絵優若葉の文字があった。
『若葉?もう少しで撮影だから手っ取り早くしてくれる?』
「結婚しよう」
『まだ言ってんの?いや、私も忙しいんだー。だから、仕事のオファーがなくなったらね』
※次回予告は、次の話が頭の中にある場合のみ書かれます




