久保若葉
家に帰ってから、私はソファに転がっているお姉ちゃんを問い詰めた。
「お姉ちゃん。私の友達に変なこと言わないでよ」
「名前を聞かなかっただけいいでしょ?」
「そう言うんじゃなくてさ……」
私は少し言葉に詰まる。
「はいはい。いいからお風呂に入りなさい」
「まず、卓くんに謝罪のメールを……あ」
「口かるっ」
お姉ちゃんは体を起こす。
「歩果は重要なことじゃない限り、口は軽いよね。つまり、お友達を軽んじてるのかな?」
私に近づいて、少し背が高いくせに見下ろす。
「そんなんじゃないから……」
「謝罪パーティーなら、この若葉ちゃんに任せなさい」
「パーティーしないから……お姉ちゃんが先にお風呂入りなよ」
「はいはい」
そう言って着替えを取りに部屋に戻っていく姉。
「あ、歩果」
ちょうどいい文面を思いついたのに。
「なにー?」
「直接会えるんだから、口で言いなさいよー」
「……はぁ?」
そう言って脱衣所に消えていくお姉ちゃん。
「あー……」
お姉ちゃん。人との別れを知ってるんだった。
『私、好きに生きよ』
そんな言葉を思い出した。
*
翌日の通学路で卓くんと合流する。
「おはよ。久保さん」
いつもの笑顔で挨拶してくる。
「ねぇ、卓くん」
「ん?」
「お姉ちゃんがいたじゃん?」
「え、うん。どうしたの?」
「ごめんね。うちの姉が」
「いやいや。大丈夫だよ。面白い人だったし」
面白い?あの姉が?
「僕さ、一人っ子なんだ。だから、あぁ言う雰囲気がいいなって」
「……ふーん」
私は少し黙り込む。
「でも、それは人次第じゃないの?」
「ん?」
「いい関係を持てるかは、自分次第かもしれないよ」
私は少し意味を深めて言った。
「ねぇ、卓くん」
「……ん?」
「私のお姉ちゃんね、昔はあぁ言う雰囲気じゃなかったの」
「……え?」
そう、昔のお姉ちゃんは真面目で勉強ができる。ある種の私の憧れだった。ただ、運が悪かっただけ。
お姉ちゃんの過去を、通学中に洗いざらい話した。
「……そうだったんだ」
「だから、許してあげて。お姉ちゃんの行動を」
「それだと、憐れな人みたいだね。でも、僕はそう思いたくはないな……」
卓くんって優しいんだ。やっぱり、彼は怖くない。お姉ちゃんは言い過ぎなんだな。




