ミニ喧嘩
「久保さん」
「ふしーーー」
絶賛、三毛ネコのぬいぐるみを震わせて威嚇されている。でも、顔がグデーンってしてるからあまり怖くはないな。
時は数分前に遡る。
若葉さんにもらったお菓子を僕が食べちゃったから。いや、正確には久保さんが食べたかったお菓子を、僕が食べちゃったから。
ちなみに、何やら高そうなお菓子。
事前に「これ私が食べたいから食べないで」って言われてたのに……疲れてたのかな?いや、それは免罪符にすらならないか。
で、食べちゃった。
「え、拓くん……それ、私が食べたいって言ったよね」
「え、あ、ごめん」
そうして、久保さんはベッドに座り込んじゃった。
「久保さん」
「しゃーー」
シマエナガのぬいぐるみで殺意マックスの威嚇。だから、威圧感がないんだって。
これだと、今までのプロセスも通じないか。
「……食べちゃったのは」
「しゃーー」
「ごめんね」
「しゃー」
「謝っても、戻ってこないのは知ってる」
「しゃーー」
「だから、謝ることしかできない」
「ふしーーー、わあああ」
そう叫ぶように、シマエナガのぬいぐるみを投げる久保さん。
僕は少し体を倒して、ぬいぐるみをキャッチする。
「食べたかったの。ちゃんと言ったよね。なんで拓くんは食べちゃうの?」
「ごめん……記憶が抜けちゃって」
「なにそれ」
久保さんはクマのぬいぐるみを掴む。
「ちょっと、ぬいぐるみがかわいそうだから」
「言える立場か」
クマは投げられて、僕の顔に当たる。
すると、ガチャリとドアが開く。
「私の貰い物は美味いかー……あ?何やってんだお前ら」
入ってきた若葉さんは、ぬいぐるみを抱えている僕を見る。
「なんだ拓。歩果よりぬいぐるみが好きになったか?」
「違いますよ…………僕が久保さんが食べたかった味のお菓子を食べちゃって……」
「はーん。ま、食べ物の恨みは怖いよな。若菜のお菓子がこんな争いを生むとはな」
「え?」
「いいや。私が入る話じゃない。お前らで話しあえ」
そう言って若葉さんは久保さんの部屋を出て行った。
「……ねぇ久保さん」
「しゃーーー」
威嚇……再燃しちゃった。
「続きだけど、記憶が抜けてたのは本当にごめん……」
「ぐるるるるる」
「それで……んー」
うまく言葉が出てこない。
「拓くんも言うんでしょ?『まだいっぱいあるから』って。お姉ちゃんも昔、そうだった。私が食べたかったポテチ、お姉ちゃんが食べてた。でも『まだ売ってるから。買うから』って。そう言う問題じゃないの」
今度は三毛ネコのぬいぐるみを投げそうだったけど、踏みとどまった。
「…………」
後で聞いたけど、三毛ネコのぬいぐるみは猫アレルギーの自分に、若葉さんがあげたものだったらしい。
「久保さん、ごめんね。何回も言うけど、謝ったってお菓子が戻ってくるわけじゃないし、久保さんも許してくれない」
「…………」
「なら、僕に何か出来ることはない?食べたものは戻らないけど、僕に出来ることはある」
「…………明日の帰り、アイス買って」
「うん」
「許す」
久保さんはベッドから降りて、僕の隣に来てくれたと思ったけど、ぬいぐるみを回収しただけだった。
もしかして、アイス買ったら許してくれるの?




