「私、おしとやか?」
「かっこいい外套にしてください!」
エルシアが答えるより早く、リリアが身を乗り出した。
「他に、こだわりは?」
「色は暗めがいいです!」
「サイズは?」
「膝上、くらいです!」
坊主頭でベストを着たおっちゃんが、ヘルメットを勢い良く被った。
「おっしゃ!」
おっちゃんはキリッと表情を引き締め、リリアに親指を立てる。
リリアも、おっちゃんに親指を立てて返す。
「え、えっ……?」
エルシアが口を開く前に、全てのやり取りが終わった。
リリアが満面の笑みでエルシアを見る。
「完成がとても楽しみですね」
エルシアは戸惑いながらも、小さく微笑んだ。
「う、うん。たのしみー……」
ちらりと、リリアの腕の中にいるネムと目が合った。
ネムは、鼻をふすっと鳴らした。
洞窟を抜けてから数日。
二人は山麓の村「ファルネ」へ辿り着いていた。
もともとは、エルシアがフード付きの外套を一着ほしいと言ったのが始まりだった。
仕上がりまで少しかかるというので、その間は村を見て回ることに。
ある日、二人が向かったのは雑貨屋だった。
もちろん地図を買うために。
もはやリリアには、恒例の買い物になっている。
雑貨屋の店主がリリアに地図を渡すと、
隣に立つエルシアの方を見た。
「そういや、結構前にもあんたみたいな耳の長い子が来てたねぇ」
エルシアは少し眉を上げた後、目元を和らげた。
リリア達は雑貨屋を出ると、夕食をとることにした。
「リリア、そっちじゃないよ?」
「え?でも、あっちから料理の煙が……」
エルシアはリリアが行こうとしていた方向を見てみると、確かに煙が出ている。
「そっちは、工ぼ……」
エルシアが言い終わる前に、リリアが口を開く。
「し、知ってたよ?外套たのしみ〜」
リリアは、さっと顔をそらした。
その拍子に、黒いリボンがふわりと揺れた。
そのあとエルシアに手を引かれ、リリアは無事に夕食へ辿り着いた。
ファルネ村で数日を過ごしたリリアたちは今日、仕上がった外套を受け取りに工房へ来ていた。
エルシアが、外套をそっと羽織る。
深い青灰色の外套が肩を包み、裾は膝下でふわりと揺れる。
外套の隙間から、生成り色のチュニックがやわらかく覗いていた。
足元は濃茶の編み上げブーツ。腰には小さなポーチ。
木製の小盾と護身杖を合わせると、柔らかな雰囲気の中に、少しだけ凛々しさが混じった。
エルシアがおそるおそるフードを被る。
少し長い耳が、ちょんと出た。
目を輝かせたリリアは、エルシアを頭から足元までじっくり眺めた。
それから、わずかに口を開く。
「とてもかっこいいですよ、エルシア」
リリアは外套の肌触りを確かめたり、フードの深さを確認する。
リリアにフードを深めにずらされて、エルシアの顔が目元まで隠れた。
エルシアが、口元をもごもごさせている。
「でもリリア……ちょっと恥ずかしくなってきた」
リリアがエルシアの両肩に手を乗せた。
「……最高です! おしとやかなエルシアが着ると、もっとかっこいいです」
エルシアは困ったように笑う。
「お、おしとやか……そういえばリリア、武器はどうするの?」
リリアが口を開けたまま固まる。
おっちゃんがリリアに声をかけた。
「剣が欲しいなら、そうだな……湖にある水鉱石を採ってきたらいい」
リリアはおっちゃんの方へ顔だけ向け、少し首をかしげる。
「水鉱石?」
リリアがポーチに手を入れて、取り出した地図を受付の上に広げる。
エルシアも、横から地図を覗き込んだ。
おっちゃんが、地図に指先を乗せる。
「この辺りの、湖の浅瀬の方で採れる。
鋼に混ぜると、軽くて粘りのある刃になるぞ」
(軽い?なるほど。それならわたしでも……)
エルシアがフードを後ろへずらして、地図に顔を寄せているリリアに声をかける。
「次は、ここにするの?」
「はい。えっと……そのあとに向かう街は、どこにしましょうか?」
リリアとエルシアが並んで地図に視線を落としている。
見かねたおっちゃんが、知っている街を教えてくれた。
「加工できる腕のいい鍛冶屋なら、交易都市ベルクスに向かうといいぞ」
「わかりました。おっちゃん、ありがとうございます!」
リリアは頭を下げてお礼を言ったあと、柔らかく微笑んだ。
その横顔を見ていたエルシアと、おっちゃんの目が合う。
「ずるいよね……」
「あ、あぁ……」
その時のネムは、足元で外套の裾を前足でぱしぱし叩いていた。
おっちゃんが表情を引き締める。
「気をつけてな!」
「ありがとうございました」
エルシアがお礼を言ってから、リリア達は工房をあとにした。




