#8 邂逅
眼帯の男は感情のない目でルカを見下ろしている。何が起きたか理解できず、かといってどうしたらいいかも分からずルカは沈黙した。
(もしかして機械帝国の転送陣が発動した?)
突然の転移としか思えない現象について、ルカが思い当たるのはそれだけ。しかし戦場で見たときと違い、陣の模様や光などの先触れは皆無だった。それに仮にここが敵国なのだとして、どうやって帰ればよいのか。ぐるぐる考えを巡らせると、男は口を開いた。
「……やはり同時発動は不可能だったか。失敗だな」
ますます訳が分からない。何やら考え込んでいる男を前にして、ルカの混乱は深まるばかりだ。その時、ルカはあることを思い出した。
(この人、僕のことを記録人と呼んだ)
戦場で会った予言者の振る舞いをみるに、彼らはルカが記録人という立場にあることは知らないだろう。つまりここは大罪人たちの国であり、目の前の彼は軍の関係者だ。ひとまず安心したルカだったが、視線を感じて顔をあげる。
(でも結局、この人は誰なんだろう)
そして自分はどうしてここにいるのだろう。振り出しに戻ったルカの思考に、男が口を挟んだ。
「記録人、お前は先ほどまでどこにいた?」
「ジークさんと一緒に廊下にいました……」
具体的な名称を言えるほど、ルカはこの建物に馴染んでいない。複雑な構造であることを抜きにしても、基本的に大きい建物は記憶喪失の人間に優しくない。
「そうか」
男の一言と同時に、ルカを浮遊感が襲った。声を上げる間もなく景色が変わる。
「邪魔をしたな」
最後にもう一度男の声が耳に届いて、意味を理解したときには、ルカは誰かの隣に移動していた。着地の衝撃を受けた両足を慣らしながら横を見ると、そこには驚いた顔のジークが立っていた。
「驚いた、無事だったか」
「帰って早々、災難だったね」
ジーク以外の聞き覚えのある声に周りを見れば、もう1人大罪人がいた。落ち着いてみればここは会議室であり、おそらく既に報告を終わらせていたのだろうジークと、戦場に赴く前に会った〝皇帝〟リデルが駄弁っていたらしい。
「ジークさん……」
「半泣きだな、何があった」
「僕にも分かんないです……」
唯一の手がかりである眼帯の男について話すと、目の前の2人はぎょっとしたように目を剥いた。
「リデル、俺は思うんだが……知らないというのは一種の幸せだな」
「俺もそう思う」
頷いたリデルはおもむろにルカの肩に手を置き、心底気の毒そうな声で言った。
「お前、よく無傷で帰ったな」
「そんなに怖い人だったんですか!!?」




