#7 正しさの定義
「はあ……予測が間違ってたのか?今日はあいつらが出てくるなんて聞いてなかったが」
ジークがぼやく。横のベルーシュがため息をつき、こめかみを揉んだ。
「分かりません。確かに予兆があると言われましたが、C地点と聞かされました。ずいぶん場所がズレています」
「奴らも予想外っぽかったな。転送陣の不具合か?」
「おそらく。少ないですが、過去に同様の事例があります」
「運が悪かったな。それでお前はどうして出てきた?ベルーシュから指示は受けてただろ」
話の矛先がルカに向く。急展開に唖然としていたルカは、急いで弁明という名の言い訳をする。
「資料が飛ばされてしまって、つい。ごめんなさい」
非があるかはさておき、あの場の均衡を崩したのは間違いなくルカだ。大人しく謝ると、ジークは頭をかいた。
「謝るな。記憶のないお前を連れてきてんのは俺たちの都合だからしょうがないだろう」
「でもあの人たち……」
怒ってました、とうつむくルカを見て、2人は顔を見合わせた。
「あなたに怒っていた訳ではありません。彼らは僕たちに怒っているんです」
「そうだな。エスクーニャの奴らは倫理観にうるさいからな。記憶もない、身元も分からんお前を戦場に引っ張ってきてるのが許せないんだろう」
確かに、ルカも立場が違えばそう思っていたかも分からない。
「でも僕、そんなに分かり易いんでしょうか」
少なくともこの場では記憶のないことを敵方に知られるような言動はしていない。そう告げるとベルーシュは考え込んだ。
「確かにそうですが……僕たちの情報、つまり大罪人の情報はほぼ全て知られているはずですから。あなたは急に現れた存在なので、ある意味わかり易いかも知れませんね」
「そうだな。うちにも一般兵はいるが、大罪人にくっついて回るとなると立場は上だ。そんで資料を持って隠れてたんだから、何かがあるってのは分かりそうだ」
「情報が知られているって、大丈夫なんですか?」
例えば術解の詳細が知られているのはまずいのではなかろうか。
「ここ数年は大罪人はほとんど入れ替わってませんから、戦っているうちに大体は知られてしまうんです。知られて困る情報はまだ伝わっていないので、大丈夫でしょう」
法王さんの名前とか、と続けたベルーシュの言葉をジークが引き継ぐ。
「基本的に、殺されたくない大罪人の顔と名前は秘匿扱いだ。法王さんは防衛の要だからな」
「なるほど。あの、ずっと聞きたかった事があるんですけど」
「何だ?」
「皆さん当たり前に言ってるんですが、生き返るって何ですか?」
「そうだったな、お前全部忘れてんだったな」
ジークは苦笑いをして一言謝り、続けた。
「大罪人の中に、〝審判〟って奴がいる。何ページだったかな」
「47ページあたりかと」
「その〝審判〟の術解を見てみろ」
言われた通りページを開き、術解の欄を見る。
「えっと、効果は再生。代償は寿命。……寿命!?」
「文字通りの再生だからな。腕が吹き飛んでも治る」
「腕が吹き飛んでも治る!!?」
「そんで、死んでも生き返る」
「死んでも生き返る!!!?」
「代償は重くなるらしいから死にまくる訳には行かないがな」
常識外の効果におののくルカを見て、ジークは愉快そうに笑う。
「〝審判〟の情報は何一つ向こうに知られていない。知らせちゃいけないんだ。お前も気をつけろよ」
「はい……」
軍部に戻った後、ジークは報告に行くと言ってベルーシュと別れた。ルカは迷ったが、報告についていくことにした。
「あ、そういえば」
「どうした?」
「この、ベルーシュさんの術解にある、代償が集中ってどういうことですか?」
「ああ、それはな」
瞬間、ルカの体を浮遊感が襲った。ジークの声が消え、周りの景色が変わる。
「え、ジークさん……?」
漏れた声は空気に溶けていった。暗くて分からないが、おそらくどこかの部屋の中にいる。手探りで電気のスイッチを探そうと一歩踏み出し、床にある何かに躓いて見事に転んだ。
「いたた……」
ぶつけた足を抱えていると、突然電気が点いた。顔を上げれば、眼帯をした男が壁際に立っている。
男はルカを見つめた後、無表情のまま口を開いた。
「記録人だな」
分からないことだらけのルカは、なんとか小さな肯定の返事をした。




