#6 相対
戦場の死角に入るように隠れたルカは、そっと瓦礫の隙間から覗き込んだ。転送陣が大きいぶん時間がかかっているのだろうか、敵らしい影はまだ現れない。
「そうだ、資料になにか書いてないかな」
目次を開き、急いで文字を追う。すると51ページに目当ての情報があった。
「機械帝国、エスケーニャについて……」
流し読みをしながらもう1枚ページをめくると、顔写真と名前らしい一覧が目に入った。
「敵兵通称『予言者』について?」
パッと見ればベルーシュたちの紹介……つまり大罪人の紹介ページに似ているが、こちらの方が簡潔にまとめられている。というか何人かは名前も顔も空白になっている。空白の欄を含めて22人の情報が記されていた。
奇しくも大罪人と同じ数だなあと考えながら、ルカは目を滑らせる。ふと顔を上げればちょうど転送が終わったらしく、陣が消えると同時に人間が現れた。全部で2人、金髪の青年と赤髪の青年だった。
「さてさて、今日の見回り……うん?」
金髪の男が大きく伸びをした瞬間、頭の横を炎が飛んだ。ジークの魔法だ。ギリギリで避けたらしい相手は、もう1人と共に後ろへ下がる。
「どうしてあっちの奴らがいるの?」
「それはこちらの台詞ですが」
互いに攻撃の機をうかがっているのだろう、相手の意を探る口撃が飛び交っている。棘のある言葉を聞き流しながら、ルカは資料に視線を戻す。
「えっと、喋ってる金髪の人が……予言者No.6、シトリン。なんで予言者って呼ぶんだろう?もう1人の人が……うわっ!?」
手のなかの紙束が宙を舞った。ページをめくる勢いが強すぎたのか、資料の1ページはルカの手を離れ、そのまま4人のほうへ落ちていく。
「あっ、待って!」
慌ててルカは紙を追う。瓦礫の影を出てから、ベルーシュの「隠れて」という言葉を破ったことに気付く。
全員の視線がルカに集まった。罪人の2人は「しまった」と言いたげに顔をゆがめ、何故か予言者の2人も固まっている。数秒の沈黙の後、金髪の彼、シトリンが震えた声をひねり出した。
「ずいぶんと……良い趣味だね。さすが罪人の国だ。僕らのとこのイカれた学者でもこうはしないだろうに!」
その声には確かに怒りが混ざっている。ルカはシトリンがどうして怒るのかが分からず、とりあえず謝った。
「ご、ごめんなさい」
ルカの謝罪を聞いたシトリンは大きく舌打ちをした。
「帰るよ、気分が悪い。君も文句はないだろう」
君、と呼びかけられたもう1人の赤髪の予言者も我に返ったように肯定した。シトリンがパチンと指を鳴らす。たちまち彼らの足元に赤い転送陣が展開された。
「君らのとこの上司……『世界』とかいうふざけた男に言っておくといい。僕らは、君たちの行いを許しはしないとね」
もはや怒鳴っていると言っていい雰囲気の彼に、ずっと黙ったままだったジークが口を開く。
「そっくりそのまま同じ言葉を返そう。先に手を出したのはどちらか、よく考えることだな」
来たときとはうって変わって、この転送陣はもう起動している。彼らが険悪になった理由が分からず、ルカは見ている他ない。ただ、自分が姿を見せたことが何らかの引き金になったという事は明らかだった。陣の中の赤髪の予言者と目が合う。
「……!」
一瞬、彼がルカに何かを訴える様に手を伸ばしたのが見えた。
「え?」
慌てて駆け寄った時には、既に彼らは消えていた。
・機械帝国エスケーニャ
土地に魔力がなく、機械工学が発展した国。国民は魔法が使えず、主に錬金術などと組み合わせた機械を使って生活している。




