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魔の森の隠れ家カフェ ~元社畜の錬金術師、最強の素材で最高の一杯を淹れる~  作者: 藍沢エイジ


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第6話:奈落のダンジョン・ピクニックと、地殻変動級の蒸し焼き(スチーム)

「……うん、いい湿気だ。ここなら最高のキノコが育ってる」


タクミがやってきたのは、Sランクダンジョン『絶望のアギト』の最深部――地下50階層にある『嘆きの地底湖』だ。 ここは人類史上、誰一人として到達した記録のない「絶対不可侵領域」。 天井までは高さ数百メートル、広さは東京ドーム数個分。薄暗い燐光苔りんこうごけだけが照らす広大な空間には、吸い込んだ瞬間に肺が溶ける猛毒の紫霧が充満している。


だが、タクミは【絶対環境適応】のおかげで、「ちょっとミストサウナみたいで肌にいいな」程度にしか感じておらず、鼻歌交じりに湖畔の『ポイズン・デス・マッシュ』をカゴいっぱいに摘み取っていた。


ズズズズズ……ッ!!


その時、地底湖の水面が爆発したかのように盛り上がった。 現れたのは、小山ほどもある巨大な甲殻類――この階層の絶対王者ボス、『アダマンタイト・クラブ』だ。 オリハルコンをも砕く巨大なハサミ、魔法を弾く究極硬度の甲羅。全長15メートルの怪物が、縄張りを荒らす羽虫タクミを見下ろし、咆哮を上げた。


「ギシャアアアアアッ!!(我が眠りを妨げる者は誰だ!!)」


しかし、タクミの反応は冷ややかだった。 彼は【絶対鑑定】でカニの脚(太さだけでドラム缶サイズ)を凝視する。


『極上の身質。繊維の一本一本に凝縮された海神の恵み。加熱すると殻の中で旨味スープが循環し、身は舌の上で雪のように解ける』


「……すごい。こんな秘境で、活きのいい『タラバ』が向こうから来てくれるなんて」


タクミの目が、主婦のタイムセール・モードに切り替わった。 彼はリュックから『携帯用魔導コンロ』を取り出すと、錬金術師らしい合理的な(狂った)調理プランを立てた。


(焼くにはデカすぎる。茹でるには鍋がない。……なら、ここを鍋にすればいい)


「悪いけど、じっとしててね。【空間固定ロック】」


タクミが指を鳴らすと、カニの周囲の空間がガチリと音を立てて凝固した。 最強のボスが、身動き一つ取れなくなる。 次にタクミは、カニを中心とした半径20メートルの空間に【球体真空結界ドーム】を展開した。


「よし、これで密閉完了。あとは……」


彼は結界の内部に、大量の『精霊の水』と『超高純度・岩塩』を転送。 そして、魔導コンロの火力を最大出力(ドラゴンブレス級)に設定し、結界内へと放り込んだ。


「【錬金術・環境操作】――『超高圧・蒸気調理プレッシャー・スチーム』!」


ボッ!! 結界の内部だけで、水が一瞬にして数千度の過熱水蒸気へと変わる。 逃げ場のない超高圧の熱気が、アダマンタイトの硬い殻を透過し、内部の身を一気に、かつふっくらと蒸し上げていく。


結界の外にいるタクミは、涼しい顔で腕時計を見ていた。 「圧力鍋と同じ原理だから、3分でいいかな」


結界の中ではカニが断末魔を上げる暇もなく真っ赤に染まり、物理法則を超えた速度で「料理」へと変換されていく。自分自身が蒸し焼きになる心配などない。彼は神の視点で鍋(結界)の外から見守るだけだ。


「はい、出来上がり」


パチン、と指を鳴らして結界を解除する。 その瞬間。


ズドォォォォン!!


解放された超高圧蒸気が爆風となってダンジョン全体を揺るがし、地上まで届くほどの局地的な大地震を引き起こした。 白煙と共に、芳醇すぎる磯の香りが地底湖全体に爆発的に広がる。


「いただきます」


タクミはまだ湯気を立てる巨大な脚の一本を、素手で「パキッ」とへし折った。 殻を剥くと、そこには白と赤のコントラストが美しい、プリップリの身が詰まっている。


「――っ!!」


弾力のある身を歯が捉えた瞬間、閉じ込められていた熱いジュースが迸る。 それは、深海の冷たさと厳しさが育てた、純粋無垢な甘み。 カニ味噌の濃厚なコクと、潮騒のような塩気が絡み合い、飲み込んだ後も幸福な余韻が脳を痺れさせる。


「……美味い。やっぱり、ピクニックの醍醐味は現地調達だな」


タクミは満足げに頷くと、残りの巨大なカニ(総重量20トン)を【無限収納インベントリ】に放り込んだ。 「これ、店に持ち帰ったらアイリスさんも喜ぶかな。ちょっと大きいけど」


一方その頃、地上にある冒険者ギルド本部は大パニックに陥っていた。

「Sランクダンジョン最深部で、計測不能のエネルギー反応を検知!」 「古代竜の復活か!? それとも魔王の再臨か!?」 「ただちに総員退避命令を出せ!!」


王都を揺るがす「原因不明の大災害(カニの蒸し上がり)」に、人類が震え上がる中。 当の本人は、「いいお土産ができた」とホクホク顔で帰路につくのであった。

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