表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔の森の隠れ家カフェ ~元社畜の錬金術師、最強の素材で最高の一杯を淹れる~  作者: 藍沢エイジ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/50

第49話:神狩り完了と、「管理神」の来店

ズズォォォォォンッ……!!


魔の森の少し開けた空き地(※先ほどの戦闘で木々が消し飛んでできたクレーター)に、二つの巨大な影が墜落し、もうもうと土煙を上げていた。

かつて天界で最強を誇った『武神』の黄金の鎧は、見る影もなくボロボロに砕け散っている。その隣では、冷徹だった『秩序の神』の仮面が完全に割れ、白目を剥いてピクピクと痙攣していた。


『あ、あぁ……。馬鹿な……我ら最高神が、下界の虫けら……いや、ただの喫茶店の常連客ごときに……完全に、敗北するとは……』

這いつくばったまま、武神が血の混じった声で呻く。

その周囲を囲むように、マオ、シャルロット、アイリス、セラフィナ、バルガンの五人が、全く息一つ乱さずに立ち並んでいた。


「ふん。口ほどにもない連中だったな。準備運動ウォーミングアップにもなりゃしねえ」

マオが拳の土を払いながら、退屈そうに首を鳴らす。

「本当に。さあ、皆様。これ以上遅くなると、マスターがせっかく焼いてくださったホットサンドが冷めてしまいますわ。中に入りましょう」

シャルロットが優雅に踵を返そうとした、その時だった。


『ま、待て待て待てェェーッ!! 早まらないでくれェッ!!』


突如、上空から「待った」をかけるような、焦りに満ちたしわがれ声が響き渡った。

雲の隙間から、穏やかで神聖な光の柱が降り注ぐ。そこに現れたのは、白い長い髭を蓄え、杖をついた小柄な老人だった。


『か、管理神様……!?』

地面に倒れ伏していた武神と秩序の神が、その老人の姿を見るなり、震える声で叫んだ。

無理もない。彼ら最高神ですら頭の上がらない、この世界そのものを創り出し、ことわりを敷いた文字通りの「創造主」が、なぜか大慌てで下界に降りてきたのだから。


「ハァ、ハァ……。ワシが少し昼寝をして目を離していた隙に、お前たち、なんて馬鹿なことをしてくれたんじゃ!」

管理神の老人は、武神たちの頭を杖でボカッ! ボカッ! と容赦なく殴りつけた。

「この世界の『管理』を任せておいたというのに、よりにもよってあのタクミの店に喧嘩を売るとは……! 命がいくつあっても足りんぞ!」


「……おい、爺さん。あんた、こいつらの親玉か?」

マオが凄みのある声で睨みつけると、世界の創造主たる老人は、ビクッと肩を揺らしてペコペコと頭を下げ始めた。

「ひぃっ! ま、魔王殿、それに各界の王族の方々! 今回はワシの部下が本当に、本当に申し訳ないことをした! どうか、彼らの消滅だけは勘弁してやってくだされ!」


『か、管理神様!? なぜ貴方様が、下界の者などに頭を……!?』

「黙れポンコツ共! お前たち、自分が誰を相手にしていたか分かっておらんのか! この者たちはな、あのタクミの作った『神話級の料理』を毎日食べ、規格外のアーティファクトで茶を飲み続けた結果、すでにステータスが神の領域を遥かに突破しておるんじゃ! お前らごときが勝てるわけがなかろうが!」

『なっ……!?』

「それに、あの店はな……ワシが直接『世界の進化のため』に力を与えた、特例中の特例チートマスターの店なんじゃよ! それを浄化しようだなんて、とんだお笑い種じゃ!」


第一話でタクミを過労死から救い、この世界に転生させた張本人。

彼こそが、この事態を招いた一番の元凶スポンサーであった。


「……なるほど。マスターのスポンサーというわけか。まあいい、俺たちはマスターの店で平穏に過ごせればそれでいい。これ以上手出しをしないというなら、見逃してやる」

マオが腕を組んで鼻を鳴らすと、シャルロットたちも剣を収めた。


神々の間で、気まずくも圧倒的な敗北感が漂う。

世界を統べる神々が、たかだか一軒の喫茶店に完全降伏した歴史的瞬間だった。


ガチャリ。


その極限の緊張状態を打ち破るように、喫茶『止まり木』の勝手口の扉が開いた。

「おーい、皆さん! プロレスごっこは終わりましたかー?」

エプロン姿の俺、タクミは、湯気を立てる大きな木のプレートを抱えて、ニコニコと顔を出した。

外の冷たい空気の中に、暴力的なまでの香ばしさが一気に放たれる。


カリッと黄金色に焼けた食パンの表面で、焦がしバターがジュワリと音を立てている。

パンの断面からは、熱々にとろけた濃厚なチーズと、溢れ出す『フォレスト・エンペラーボア(森の皇帝猪)』の極上の肉汁が絡み合い、食欲を直接殴りつけてくるような圧倒的な匂いが漂っていた。


「わあ、いい匂いですわ! マスター、今戻ります!」

シャルロットたちが一瞬で笑顔になり、店へと駆け寄ってくる。


「ん?」

俺はプレートを持ったまま、クレーターの中で土下座している老人と、ボロボロになって倒れている二人の大男(武神と秩序の神)を見て、首を傾げた。

「おや、そちらの方々は……? ああ、プロレスごっこのやりすぎで怪我をしちゃったんですか。それに、そっちのお爺さんは、新しく来たレフェリーの人かな?」

俺はまじまじと老人の顔を見つめる。

「……あれ? どこかでお会いしたような……。ああ、確か、俺が倒れた時に夢の中で会ったお爺さん!」

「お、おおっ! タクミよ、久しぶりじゃな! 元気に店をやっておるようで何よりじゃ!」

管理神の老人が、愛想笑いを浮かべながら冷や汗を拭う。俺にとっては、あの過労死の瀬戸際で優しい言葉をかけてくれた恩人だ。


「お久しぶりです! いやあ、あの時はお世話になりました。お爺さんのおかげで、毎日最高の食材に囲まれて、本当に幸せなスローライフを送っていますよ」

俺は心からの感謝を込めて微笑んだ。

そして、後ろでボロボロになっている二人の大男(神々)にも視線を向ける。


「せっかくのお知り合いですし、こんな寒い外にいないで、中に入ってください。おやつ(夜食)の『猪肉ととろけるチーズの極上ホットサンド』が、ちょうど出来立てなんですよ。そちらの新しいお客さんたちも、プロレスで疲れたでしょう? 遠慮せずにどうぞ」


『…………ゴクリ』

武神と秩序の神の喉が、無意識に大きく鳴った。

神の威信も、敗北の屈辱も、彼らの鼻腔を直撃した「焦がしバターと肉汁の匂い」の前には、完全に霞んで消え去ってしまったのだ。


「さ、冷めないうちに。熱い珈琲も淹れますから」

俺が笑顔で扉を大きく開け放つ。

そこから漏れる暖炉の温かな光と、抗いようのない食べ物の香りに誘われるように、天界の最高神たちは、フラフラとゾンビのように喫茶『止まり木』の店内へと吸い込まれていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ