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魔の森の隠れ家カフェ ~元社畜の錬金術師、最強の素材で最高の一杯を淹れる~  作者: 藍沢エイジ


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第48話:神話級のプロレスごっこと、ブレないマスター

ズドォォォォォォンッ!!

ガガガガガッ……ピカァァァァッ!!


店の外から、窓ガラスがビリビリと微かに震えるほどの重低音と、色とりどりの極彩色な閃光が連続して放たれていた。

厨房で布巾を洗っていた俺、タクミは、窓の外で繰り広げられている光景を見て、ほのぼのとした笑みを浮かべた。


「いやあ、雨と雷が上がったと思ったら、今度は随分と元気に遊んでいるな。皆、本当に仲がいい」


タクミの目に映っているのは、店の裏手に広がる開けた森(※先ほどの神々の攻撃で更地になっただけ)で、マオさんやバルガンさんたちが、ド派手な魔法を交えながら激しくぶつかり合っている姿だった。

ドワーフ王のバルガンさんが地面を隆起させて作った四角い石のステージ(※神の攻撃を防ぐための防壁)の上で、マオさんが黄金の鎧を着た見知らぬ大男(※武神)を見事なスープレックスで投げ飛ばしている。


「おおっ、マオさんの見事なバックドロップ! 相手の大男も、見事な受け身だなぁ。やられ役の演技が堂に入っている」

タクミは「彼らは魔法を使ったスポーツ感覚のプロレスごっこをしているんだな」と完全に勘違いし、感心しながら拍手を送った。

前世の社畜時代、休日の会社のレクリエーション(強制参加のフットサルなど)はただの地獄の接待でしかなかったが、こうして種族の垣根を越えて、大人たちが本気で泥だらけになって遊んでいる姿は、見ていてとても微笑ましい。


少し離れた場所では、シャルロットさんとアイリスさんが、冷気を纏った仮面の人物(※秩序の神)と、まるでダンスのような美しい連携(※神の理を切り裂く致命の連撃)を繰り広げている。

「ははっ、シャルロットさんたちはアクロバットの練習かな。ポチとシロも、光る棒(※神の投げた伝説の神槍)を追いかけてフリスビーみたいに遊んでるし。テンくんも審判役(※完全な傍観)として楽しそうだ」


『ぐあぁぁぁッ!! なぜだ!? なぜ我の神気を纏った一撃が、ただのラリアットに押し負けるのだァァッ!!』

『あ、ありえません……! 私の絶対零度の空間凍結が、あの小娘の扇子の一振りで……ッ!』

神々の悲痛な絶叫が微かに響いてくるが、俺の耳には「プロレス特有の、マイクパフォーマンスのような熱い掛け声」にしか聞こえていなかった。


「……さて。あんなに全力で体を動かしたら、絶対にお腹が空くはずだ。遊んだ後の皆が、最高にリラックスできるように準備を進めよう」

俺は外の神話級のバトルから視線を外し、目の前の『至高のプリン』の仕上げに全集中を向けた。


プリン作りにおいて、「蒸し」と同じくらい重要なのが「冷却」の工程だ。

俺は、地下の氷室から切り出してきた『千年氷』を砕き、大きな銅のタライに敷き詰めた。そこに、蒸し上がったばかりの熱々のプリンの器を、火バサミで慎重に、一つずつ並べていく。

「急激に冷やしすぎてもダメだが、ぬるいまま放置すると卵の風味が飛んでしまう。外側からじんわりと、だが確実に芯まで冷気を届けるんだ」

【生活魔法(極)】を展開し、千年氷の放つ絶対零度の冷気を、摂氏四度という「プリンが最も美味しく引き締まる温度」に固定して循環させる。

器の中で、黄金色のバッファローミルクとコカトリスの卵の層が、熱の余韻を残しながら少しずつ固まっていく。底に沈むほろ苦い漆黒のカラメルソースとは、一ミリたりとも混ざり合うことなく、完璧な三層のグラデーションを保っていた。


「よし、冷却はこれで完璧だ。一晩置けば、明日には最高のぷるぷる食感になるぞ」

俺は満足げに頷き、エプロンで手を拭いた。

「とはいえ、今すぐ食べられるしょっぱいものも用意しておこう。甘いホットミルクの後は、塩気が欲しくなるからな」


俺は厨房の棚から、自家製の厚切り食パンを取り出した。

そこに、昨日のお茶会で余っていた『フォレスト・エンペラーボア(森の皇帝猪)』の極上ロース肉の端切れをフライパンで香ばしく炒め、たっぷりのとろけるチーズと一緒にパンで挟む。

それを魔導コンロの直火にかけたホットサンドメーカーに挟み込み、ギューッとプレスした。


ジュワァァァ……!

パンの表面に塗ったバターが焦げる暴力的な香ばしさと、中で溶け出すチーズと猪肉の野性味溢れる香りが、一気に厨房を満たしていく。

外で地形が変わるほどの天変地異(神狩り)が起きているというのに、喫茶『止まり木』の厨房だけは、どこまでも平和で、暴力的なまでに食欲をそそる匂いに支配されていた。


――その頃、外の戦場(プロレス会場)では。


『ハァ……ッ、ハァ……ッ! 馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿なァァッ!!』

黄金の鎧を完全に粉砕され、全身ボロボロになった武神が、大地に膝をついていた。

隣では、仮面が半分割れ、冷徹さを完全に失った秩序の神が、ぜえぜえと肩で息をしている。

彼らの前には、息一つ乱していないマオ、シャルロット、アイリス、セラフィナ、バルガンの五人が、まるで散歩の途中のような涼しい顔で立っていた。


「……おい、もう終わりか? 天界の神様とやらは、随分と体力がねえな」

マオが、首の骨をポキポキと鳴らしながら見下ろす。

「本当に。これでは食前の軽い運動にもなりませんわ。……あ、皆様、見てくださいませ」

シャルロットが、店の換気扇からモクモクと吐き出される白い煙を指差した。

「……パンとバターの焦げる匂い、それにこの圧倒的な肉とチーズの香り。マスターが、私たちのために夜食のホットサンドを焼いてくださっているようですわ!」

「おおっ! こいつはたまらねえ! 腹が減ってきたぞ!」


常連客たちの視線が、一斉に「神々」から「店の換気扇」へと移った。

神の威信も、世界の滅亡も、彼らにとってはすでに「マスターの焼くホットサンド」以下の価値しかなくなっていたのである。


『おのれ……! 我ら神を、どこまでコケにすれば……ッ!!』

最後の力を振り絞り、武神と秩序の神が自らの命(神核)を削って、自爆にも等しい超極大の魔力を膨れ上がらせようとした、その瞬間。


「――おーい! 皆さん、そろそろ遊びはおしまいですよ! 美味しい夜食のホットサンドが焼けましたから、手と顔を洗って中に入ってきてくださーい!」


勝手口の扉がガチャリと開き、ホカホカと湯気を立てるおしぼりを持ったタクミが、朗らかな声で呼びかけた。

その「マスターの鶴の一声」を聞いた瞬間。


「「「「「はーい!! 今行きまーす!!」」」」」


常連客たちは、目の前で自爆しようとしている神々を「チッ、邪魔だ」とばかりに、五人同時のデコピン(※神話級の物理衝撃)で遥か上空の彼方へと弾き飛ばした。

キラーン……と、夜空に二つの星が瞬いて消える。


「いやあ、マスター! いい匂いにつられてお腹がペコペコだぜ!」

「外は随分と冷えましたから、温かいものが嬉しいですわ」

何事もなかったかのように、泥を払いながら店へと戻ってくる常連客たち。

俺は彼らに温かいおしぼりを手渡し、「プロレスごっこ、楽しかったみたいで良かったですね」と微笑んだ。

外で一体どれほどの歴史的偉業(神々の撃退)が成し遂げられたのか、俺がそれを知る日は、おそらく永遠に来ないだろう。

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