第47話:止まり木防衛連合軍、結成
ズドォォォォォォンッ!!!!!
魔の森の上空で、天を割るような凄まじい衝撃波が連続して弾け飛んでいた。
「オラァッ!! 天界の神様だか何だか知らねえが、随分と動きが鈍いんじゃねえか!?」
「くっ……!? おのれ、下界の魔族風情がァァッ!!」
魔王マオの漆黒の拳が、空気を圧縮して『武神』の黄金の盾を粉々に打ち砕く。
その横では、ルミナス王女シャルロットと近衛騎士アイリスの姉妹コンビが、息の合った連携で『秩序の神』を圧倒していた。
「アイリス、右の防壁が薄いですわ!」
「はっ! 【極光剣・ルミナス・ストライク】!」
シャルロットの神聖魔法で退路を絶たれた秩序の神に、アイリスの光の斬撃が容赦なく叩き込まれる。絶対零度の冷気で防御しようとするも、彼女たちの剣閃は神の理すらも容易く切り裂いていく。
『ば、馬鹿な……。ありえん、絶対にありえんぞ!』
武神が血を吐きながら、信じられないものを見る目で眼下の常連客たちを睨みつけた。
『貴様らは所詮、寿命のある下界の生き物にすぎん! なぜ、神たる我らの「絶対浄化の光」を受けても、傷一つ負わないのだ!?』
神々の放つ魔法は、確かに直撃しているのだ。
しかし、マオたちには全く効いていなかった。なぜなら彼らは、タクミが【風魔法】を超圧縮して削り出し、最高級の蜜蝋でコーティングした『アイアンウッドのマグカップ』で、毎日欠かさず熱い珈琲やミルクを飲み続けているからだ。
「絶対に破壊されない魔法耐性(神話級)」の器から直接エネルギーを摂取し続けた結果、彼らの肉体そのものに「神の魔法すら弾く超絶魔法耐性」が完全に定着してしまっていたのである。
「はっ! 浄化の光だと? マスターが淹れてくれる熱々のホットミルクに比べれば、こんなもの、春のそよ風よりぬるいぜ!」
マオが豪快に笑い飛ばす。
『ええい、おのれェェッ! ならば、数の暴力で圧倒してくれる! 天翔ける銀狼よ! 天界の使徒(天使)よ! 我の呼びかけに応じ、今すぐこの忌まわしきバグ共を噛み砕けェェッ!!』
武神が空に向けて、召喚の号令を絶叫した。
本来なら、ここで無数の天使の軍勢と、恐るべき神獣たちが空を埋め尽くすはずだった。
――しかし。
「ワンッ!」「ワゥンッ!」
「……お呼びでしょうか、元・上司(ブラック上司)殿」
地上にある喫茶『止まり木』の屋根の上に、三つの影が立ち塞がった。
首に可愛らしいバンダナを巻いた神獣フェンリルの『ポチ』と、天翔ける銀狼の『シロ』。そして、手にはピカピカに磨かれたお皿と布巾を持った、鳥人族の少年(天使)の『テン』だ。
『なっ……!? 貴様ら、なぜ下界の犬畜生や皿洗いになりさがっている!? 目を覚ませ! 早く我に加勢しろ!!』
武神の怒声に対し、テンは呆れたようにため息をついた。
「お断りします。僕は今、マスターから『厨房の掃除』という重要な任務を任されているんです。時給も出ないのに、あなたたちのサービス残業(世界滅亡)に付き合っている暇はありません!」
『ワンッ!!(俺たちはマスターのシチューの方が好きだ!!)』
かつて天界の誇りであった刺客たちは、完全に「止まり木の忠実な従業員と番犬」として、神々に牙を剥いたのだ。
『裏切り者ォォォォッ!!』
秩序の神が発狂し、大地を更地にする極大の氷結魔法陣を森全体に展開しようとする。
だが、それを許す地上のトップたちではない。
「……私の森の木々を、これ以上騒がせないでもらおうか」
エルフの女王セラフィナが、両手を広げて透き通るような声で歌う。
彼女の放つ極大の自然魔力が、タクミの育てた『神話級農園』の生命力と共鳴し、森全体を覆う巨大な「世界樹の防壁」となって氷結魔法を完全に相殺した。
「がっはっは! 耳長族にばかりいい格好はさせねえぞ! 大地よ、神の足元をすくい取れ!」
ドワーフ王バルガンが戦槌を地に叩きつけると、空中のマナの乱れを無理やり隆起させた「大地の牙」が、神々の魔法陣を物理的に粉砕していく。
人間、魔族、エルフ、ドワーフ。さらには天界を裏切った天使と神獣。
本来なら決して交わることのない、全種族の頂点に立つ者たち。
彼らが今、一軒の小さな喫茶店と、一人のマスターが作り出す「美味しいご飯と穏やかな時間」を守るためだけに、完全に一つにまとまっていた。
最強にして最凶の『止まり木防衛連合軍』の結成である。
「さあ、神界の老害ども。そろそろ退場の時間ですわ」
シャルロットの神聖オーラと、マオの暗黒魔力が、空中で極限まで圧縮され、混ざり合っていく。
光と闇、相反するはずの二つのエネルギーが、タクミの料理で得た「調和」の力によって、かつてない超次元の破壊エネルギーへと昇華される。
『ま、待て……! 待つのだ! 我らがいなくなれば、世界のバランスが……!』
「知るか! 俺たちはただ、明日マスターが作ってくれる『プリン』を、平和に食いたいだけだァァァッ!!」
マオの咆哮と共に、防衛連合軍の全魔力を乗せた一撃が、武神と秩序の神を直撃した。
悲鳴を上げる間もなく、二柱の最高神は、遥か彼方の空の果てへと、流れ星のようにボコボコにされて吹き飛ばされていった。
一方、その頃。
凄まじい神狩りの大爆発が上空で起きていることなど、微塵も知らない喫茶『止まり木』の厨房では。
「コトコト、コトコト……」
蒸し器の蓋を開けると、ふわりと甘いバニラと卵の香りが立ち昇った。
「うん、完璧なぷるぷる具合だ。火の通りも申し分ない」
俺、タクミは、黄金色に輝くプリンの器を火バサミで慎重に取り出し、天然氷室から持ってきた氷水の中にそっと浸した。
「これを一晩じっくりと冷やし固めれば、明日は最高の『黄金のプリン』の完成だな。……おや?」
俺は手を拭きながら、ふと窓の外を見た。
さっきまで真っ暗だった空から、嘘のように暗雲が引き去り、美しい冬の夕焼け空が広がっていたのだ。
「おお、嵐が過ぎ去ったみたいだ。マオさんたち、濡れずに済んで良かったな」
俺は呑気に微笑みながら、明日の最高のお茶会に向けて、珈琲豆の準備を始めるのだった。




