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魔の森の隠れ家カフェ ~元社畜の錬金術師、最強の素材で最高の一杯を淹れる~  作者: 藍沢エイジ


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第41話:第二の刺客・天界の使いと、魅惑の特製お子様ランチ

吐く息が白さを増し、森の木々が完全に冬の装いへと変わったある日の午前。

喫茶『止まり木』の厨房で、俺、タクミは窓の外で無邪気に雪を追いかけてじゃれ合う二匹の巨大なモフモフ犬、先輩犬のポチと新入りのシロを眺めながら、ふと思いを馳せていた。


「……たまには、童心に返るような無邪気な食べ物が恋しくなるな」


前世の社畜時代。毎日コンビニの栄養ゼリーや立ち食い蕎麦で胃袋を満たすだけの殺伐とした日々の中で、ふと子供の頃の記憶が蘇ることがあった。

デパートの最上階にあったファミリーレストラン。銀色のプレートに盛られた、ケチャップライス、ハンバーグ、フライドポテト、そして頂上に突き立てられた小さな旗。それは、子供にとっての「夢」がすべて詰まった魔法のプレート『お子様ランチ』だった。

大人になると頼めなくなってしまうあの至福の一皿を、今の俺が持つ最高の素材と錬金術で、大人でも大満足できる『特製お子様ランチ』として再現してみたらどうだろうか。

「よし、決まりだ。最高のケチャップと、とびきりのハンバーグを作るための野菜を収穫しに行こう」

俺はウールの分厚いコートを羽織り、裏庭の『神話級農園』へと向かった。


扉を開けると、外は凛とした冷たい空気に包まれているが、農園の土は魔力回路によってぽかぽかと温かく保たれている。

「まずは、究極のケチャップを作るためのトマトだ」

絶対鑑定グルメ・アイ】を起動し、農園の一角で鮮やかな赤色を放つ果実を見つける。

【太陽のトマト:常に発熱している火属性の草の実。冷却の錬金術を施して育てた結果、極限の甘味と旨味が凝縮された】

俺が手を伸ばして摘み取ると、真冬だというのに、ホッカイロのようにジンジンとした温もりが手のひらに伝わってくる。皮は弾けそうにパンパンに張り詰め、甘酸っぱい濃厚な香りが漏れ出していた。


「よし、次はメインのハンバーグの材料だ。今回はお腹に優しい植物由来ヘルシーでいこう」

農園の土をスコップで優しく掘り返す。ゴロリ、と姿を現したのは、まるで岩石のように無骨で巨大なイモだ。

【バッファロー・ポテト:牛肉のような深いコクと旨味を持つジャガイモ。肉なしでも絶品のコロッケなどが作れる】

さらに、その隣の畝から、宝石のようにキラキラと緑色に輝く豆『ソイ・エメラルド』をサヤごとたっぷりと収穫する。大地の重みと瑞々しさを感じながら、俺は新鮮な野菜たちをバスケットにいっぱいに詰め込み、ホクホク顔で厨房へと戻った。


さあ、夢のプレート作り(調理)の開始だ。

まずは特製ケチャップの仕込みから。真っ赤な『太陽のトマト』を湯むきし、深鍋でトロトロになるまで煮詰めていく。そこに『シュガーの実』の純度100%の粉末と、隠し味に『クリスタル・ソルト』をひとつまみ。

コトコトと煮込むうちに、トマトの強烈な旨味と、脳を痺れさせるような甘酸っぱい香りが厨房を満たしていく。


「次は、いよいよメインのハンバーグだ」

まずは茹でた『バッファロー・ポテト』を木べらで滑らかになるまでマッシュする。そこへ、細かく砕いた『ソイ・エメラルド(大豆)』を混ぜ合わせることで、まるで本物のミンチ肉のような「粒感」と「弾力」を錬成するのだ。

つなぎとして『コカトリスの卵』を落とし、風味付けに『ミルキー・バッファローの乳』から作った自家製バターをたっぷりと練り込む。

ペチッ、ペチッ、と両手でキャッチボールをして空気を抜き、分厚い小判型に整える。

熱した鉄フライパンに落とすと、ジュワァァァァッ!! という暴力的な音と共に、香ばしい焦がしバターと、ポテトから溢れ出す「牛肉そのものの匂い」が爆発的に弾けた。表面をカリッと焼き上げ、中には極上の旨味エキスを完全に閉じ込める。

隣のコンロでは、余ったバッファロー・ポテトを拍子木切りにして高温の油でカラリと揚げ、黄金色のフライドポテトを仕上げる。


「よし、完璧だ」

大きな木製のワンプレートに、特製ケチャップで赤く染まった美しい山型のケチャップライス。その横に、分厚く鎮座するハンバーグ(大豆と芋製)と、サクサクのフライドポテト。

仕上げに、ハンバーグの上に目玉焼きを乗せ、ライスの山の頂上に、俺が木を削って手作りした「小さな旗」をプスリと突き立てた。

立ち昇る湯気と共に、ケチャップの甘酸っぱさと芳醇な香りが混ざり合い、視覚と嗅覚の両方から「無邪気な幸福感」が襲いかかってくる。


『――忌まわしき特異点め。神獣をたぶらかした罪、万死に値する。我は天界の執行者。神の裁きを――』

ちょうどその時。店の勝手口の扉がバンッと開き、一人の人物が姿を現した。

純白の翼を背に生やし、冷徹で無機質な瞳を持った、中性的な美しい青年だ。(※天界の使いである高位天使)

その体からは、触れるものすべてを消滅させるような神聖な威圧感が放たれていた……のだが。


「おや。いらっしゃい」

俺は天使の威圧感など全く感じ取れないまま、その青年の姿を見て首を傾げた。

「鳥人族の子かな? それにしても、随分と顔色が悪いし、目の下にひどいクマができているぞ。……まさか、家出でもしてきたのか?」

『なっ……!? 我は家出少年などではない! 偉大なる神の使徒であり、貴様を浄化しに――』

「まあいいから、そこに座りなさい。お腹が空いてるんだろう? ちょうど、とびきりのまかないが出来たところなんだ」


天使が反論する間もなく、俺は強制的にカウンターの席に青年を座らせ、目の前に湯気を立てる『魅惑の特製お子様ランチ』をトンと置いた。

『な、なんだこれは。子供騙しの遊戯のような盛り付け……我を愚弄する気か! このような泥水と残飯で作られた下界の食事など――』

言いかけたまんま、天使の言葉がピタリと止まった。

鼻腔を直撃した、ケチャップのノスタルジックな甘酸っぱい香りと、目玉焼きの濃厚な匂い。それは、天界で数千年もの間、ただ無感情に業務をこなすだけだった天使の脳内に、「温かい感情」という名の強烈なバグを引き起こした。

天使は震える手で無意識にフォークを握り、ハンバーグと目玉焼きを切り分け、一緒に口へと運んだ。


『――――――ッッッ!?!?』

天使の無機質だった瞳が見開き、純白の翼がバサァッ! と大きく跳ね上がった。

噛み締めた瞬間、ソイ・エメラルドの心地よい弾力と、バッファロー・ポテトから溢れ出す圧倒的な「牛肉の旨味」の奔流。肉を一切使っていないのに、それを完全に凌駕する重厚なコクが、コカトリスの卵の暴力的なまでに濃厚で甘い黄身と絡み合う。

さらに、特製ケチャップの爽やかな酸味が脂のしつこさを完全に洗い流し、口の中を「永遠に食べ続けられる」無限ループの天国へと作り変えてしまったのだ。


『あ……あぁ……。なんだ、これは……』

天使の目から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。

『美味い……。野菜と豆しか使っていないのに、なぜこんなにも満たされるんだ……。美味くて、温かくて……なんだか、胸の奥がキュッと締め付けられるように懐かしい……。私は、私は今まで、味のしない天界の供物を啜って、何千年も休みなく働き続けて……』

「働きすぎはよくないぞ。子供なんだから、美味しいものを食べて、よく寝るのが一番の仕事だ」

俺が苦笑しながら温かいお茶を差し出すと、天使はついに声を上げて泣き出した。


『うぇぇぇんっ!! もう嫌だぁぁぁ! 毎日毎日、下界の監視をして、報告書を書いて、武神様には怒鳴られて……天界なんて超絶ブラック職場、もう絶対に戻りたくないぃぃ!!』

泣きじゃくりながら、天使はお子様ランチをガツガツと口に運ぶ。

旗の立ったケチャップライスを食べ、ポテトをかじり、涙とケチャップで顔をぐちゃぐちゃにしながら、すべてを平らげた。


『マスター……! 私、いや、僕……帰る場所がないんです! お願いします、ここで働かせてください! 皿洗いでも、掃除でも何でもしますから!』

すっかり理性の崩壊した天使が、俺の足元にすがりついてくる。

「ははっ、いいよ。ちょうどお店も忙しくなってきたから、洗い場を手伝ってくれると助かるな」


かくして、天界から特異点破壊のために送り込まれた第二の刺客は、一杯の「お子様ランチ」が持つ圧倒的な癒やし効果によって完全に童心に返り、喫茶『止まり木』の住み込みアルバイトへと転職を果たした。

上空で盤面を見ていた神々が「なぜ我が天使が、下界のエプロンをつけて皿を洗っているのだ!?」と泡を吹いて倒れていることなど知る由もない。

俺は、裏口から「新入り、よろしくな!」と尻尾を振って入ってきた二匹の犬(神獣)と、皿をピカピカに磨く鳥人族の少年(天使)を眺めながら、今日もこの賑やかで温かいスローライフに深く感謝するのだった。

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