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魔の森の隠れ家カフェ ~元社畜の錬金術師、最強の素材で最高の一杯を淹れる~  作者: 藍沢エイジ


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第32話:『エルフとドワーフの犬猿の仲と、五臓六腑に染み渡る朝のしじみ汁』

「マスター、久しぶりだ。相変わらずここは、俗世の喧騒を忘れさせてくれる至高の『聖域』だな……」


朝の陽ざしが差し込む喫茶『止まり木』。

カウンター席で優雅にハーブティーを傾けているのは、エルフの女王・セラフィナだった。ここ最近、王都や魔界のトップたちが連日のように入り浸っていたため、彼女は少し期間を空けて「静かな朝」を狙って来店したのである。


「いらっしゃいませ、セラフィナさん。昨日の夜は常連さんたちがシードルで大宴会をしていて、さっきようやく帰ったところなんですよ。静かでよかったです」


タクミがカウンター越しに微笑みながら、朝食の準備を進めていた、その時だった。


ドバァァァンッ!!


店の扉が、蝶番が悲鳴を上げるほどの勢いで開け放たれた。(※店には絶対遮断結界が張られているため壊れはしない)


「ここかァァッ!! 遠く離れた霊峰まで届くほどの『神の酒』の匂い! そしてミスリルをも凌駕する『幻の柔軟金属』の気配がする場所はァァッ!!」


土足で踏み込んできたのは、身の丈ほどの巨大な戦槌を背負い、立派な髭を蓄えた屈強な男――ドワーフの王・バルガンだった。彼は昨夜、タクミが造った『神のシードル』の香りと、魔導マッサージチェア(マシュマロ・スライム使用)の魔力波動を嗅ぎつけ、徹夜で山を駆け下りてきたのだ。


「……チッ。どこの土塊つちくれかと思えば、ドワーフ王のバルガンか。私とマスターの静寂な朝を汚す気か?」

セラフィナが、眉間にシワを寄せて冷たい視線を送る。


「あぁん? なんだ、気取った長耳のエルフがこんな辺境の店に……って、エルフの女王セラフィナじゃねえか! ちょうどいい、貴様らエルフの貧弱な味覚に、ドワーフの至高の酒を――」


店内に、エルフの膨大な魔力とドワーフの重厚な闘気がバチバチと交錯する。数百年続く種族間の因縁が、今まさに喫茶『止まり木』の聖域で爆発しようとした、その瞬間。


「はいはい、店内での喧嘩はご遠慮くださいね」


タクミが二人の間にスッ、とお盆を差し出した。

そこに乗っていたのは、ほかほかの白米と、湯気を立てるお椀。


「ええと、バルガン様、でよろしいですか? 息を切らして遠方からいらっしゃったようですが、あいにく昨夜のお酒は皆さんで飲み干してしまいまして……。よろしければ、温かい朝ごはんならすぐにお出しできますよ」


初対面のドワーフ王に対しても、タクミはあくまで「カフェのマスター」として丁寧に応対する。


「なんだこれは? 貝のスープか? 俺は神の酒を飲みに来たんだ! こんな地味な汁で誤魔化され――」


「まあ騙されたと思って。お疲れの体によく染み渡りますから」


バルガンは渋々、お椀を手に取って口をつけた。

中に入っているのは、魔境の湖で獲れた『大王しじみ』。そこにタクミの【生活魔法:完全浄化】と【旨味抽出】をかけ合わせた、究極の『しじみ汁』である。


「ズズッ……」


「「「――――ッッッ!?」」」


一口飲んだ瞬間、バルガンの目が見開かれ、手から戦槌が滑り落ちた。

濃厚すぎる貝の出汁が、徹夜で疲弊した内臓を優しく包み込む。強烈な旨味が舌の上で爆発し、タクミの魔法によって極限まで引き出された栄養素が、ドワーフの頑強な細胞の隅々にまで「癒やし」として染み渡っていく。


「な、なんだこの汁はァァァ!? 俺の魂の奥底にあった疲労が……溶けていく!? エールを樽ごと飲むより、心が満たされるだとォ!?」


「え……? そ、そんな大げさな……。ズズッ」

気になって一口飲んでしまったセラフィナも、そのまま固まった。


「あぁ……っ、ダメだ……。深く、優しい湖の神秘が……私の精霊核の疲れを根こそぎ奪っていく……溶ける……っ」


エルフの女王が、お椀を両手で包み込んだまま、完全に「おばあちゃん」のようなほっこりした顔で蕩けている。


「おかわりッ! マスター、この『しじみ汁』とやらをおかわりだ! ご飯も大盛りで頼む!」

「私にもおかわりを頼む! ……バルガン、貴様もなかなか悪くない食べっぷりだな」

「へっ、お高くとまった長耳かと思ったが、女王サマもこの汁の美味さがわかるたぁ、見直したぜ」


かくして。

数百年にわたり対立してきたエルフとドワーフの王は、カウンターに並んで座り、仲良く「しじみ汁」を啜りながら白米をかき込むのだった。

もちろん、バルガンが当初の目的であった「神の酒」と「幻の素材(魔導マッサージチェア)」の存在を完全に忘却していることは、言うまでもない。


(……うん、朝はやっぱり和食に限るね)

平和に朝食を楽しむ異種族のトップたちを眺めながら、タクミは温かい緑茶をすするのだった

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