第29話:奈落のピクニック(魔境深部)と、究極の三段重お花見弁当
「いやぁ、今日は絶好のピクニック日和だね。春の山菜やキノコも採りたいし、みんなでお弁当持って出かけようか」
ある快晴の休日。
喫茶『止まり木』の店内では、いつもの常連客たちがのんびりとくつろいでいた。タクミの提案に、アイリスとシャル(偽装姉妹)、そしてマオとミラ、リリス(偽装家族)が目を輝かせる。
「ピクニック! マスターのお弁当が食べられるのね! 行くわ!」
ミラ(魔妃)が乙女のように両手を合わせて喜ぶと、隣でマオ(魔王)も「おお、家族揃っての行楽など何百年ぶりか……胃も痛まないし最高だ」と涙ぐんで頷いた。
かくして、人間界と魔界のトップたちによる『合同家族ピクニック』が開催されることとなった。
「それじゃあ、ちょっと『奥の森』まで行こうか。足元に気をつけてね」
タクミが先導し、一行は店の【絶対遮断結界】の外へと足を踏み出した。
その瞬間。
店の外に広がる奈落の森深部の『絶望の瘴気』が、容赦なく一行に襲いかかろうとする――が。
「ん、ちょっと空気が淀んでるね。【生活魔法(極)・空気清浄】っと」
タクミが指を鳴らすと、半径100メートル以内の死の瘴気が一瞬で浄化され、まるで高級リゾート地のような爽やかな高原の風が吹き抜けた。
「……アイリス。今、マスターは息をするように世界最高峰の『大聖域』を展開しませんでしたか?」
「シャル、気づかないふりをするのです。私たちは今、ただの休日のハイキングを楽しんでいるのですから」
シャルロット王女とアイリスが、引きつった笑顔でヒソヒソと囁き合う。
ズシンッ……ズシンッ……!
一行が森を歩いていると、突如として大地が揺れ、巨大な岩山のような魔獣が姿を現した。
災害級魔獣『カラミティ・ボア(厄災の猪)』である。その突進は城壁すら粉砕すると言われている。
「ひっ!? 厄災の猪……ッ!」
マオ(魔王)が思わず身構えるが、タクミは呑気に近づいていく。
「おっ、ちょうどいいところに『トリュフ豚』がいた。ねえ君、この辺で美味しいキノコ見つけてくれない?」
「ブ、ブギュッ!?」
タクミがポンッと鼻先を撫でると、放たれた『無自覚な威圧』にカラミティ・ボアの魂が完全に屈服。災害級魔獣はキャンキャンと犬のように尻尾を振りながら、猛烈な勢いで地面を掘り返し始めた。
「わあ、すごい! マスター、黒くてキラキラしたキノコがいっぱい出てきたわ!」
「ありがとうリリスちゃん。これは『星隕のトリュフ』だね。香りが最高なんだ。よし、これは持ち帰って今夜のスープにしよう」
(((星隕のトリュフ!? 一欠片で国が買えると言われる神話の霊薬……!? それを、厄災のボアにただの豚として掘らせて、今夜の夕食にする気……!?)))
VIPたちの常識が音を立てて崩れていくが、タクミは「よし、広場に着いたしお昼にしよう!」と、近くの切り株にチェック柄のレジャーシートを広げた。
「はい、お待たせ。**『特製・春の三段重ピクニック弁当』**だよ」
タクミが風呂敷を解き、木箱のフタを開ける。
その瞬間、森の奥深くに、暴力的なまでの美味のオーラが立ち昇った。
一の重:『アダマンタイト・クラブの極上カニ飯むすび』
以前仕入れた神話級の巨大蟹の身をほぐし、その濃厚なカニ味噌と一緒に『聖女の涙(米)』で炊き上げて握った、反則級の旨味を誇るおにぎり。
二の重:『クラーケンの特製唐揚げ』
以前海で仕入れたSランク海魔の触手を、黒竜醤油と特製スパイスで漬け込み、外はカリッと、中はプリプリに揚げた一品。
三の重:『水竜出汁のだし巻き卵』
マオの胃袋を救ったリヴァイアサン・トラウトの黄金出汁と『皇帝の卵』で作られた、黄金色に輝くふわふわの卵焼き。
「さあ、冷めないうちに(唐揚げに空間固定で保温魔法をかけつつ)食べて食べて」
「「「いただきます!!!」」」
五人は一切の躊躇なく、お弁当に群がった。
ミラが唐揚げをかじり、シャルがカニ飯おにぎりを頬張り、マオがだし巻き卵を堪能する。
「――――ッッ!!!」
噛んだ瞬間、おにぎりから溢れ出す圧倒的な蟹の旨味とコク!
そこに、唐揚げの凶悪な肉汁が怒涛の勢いで押し寄せ、最後にだし巻き卵の極上の優しさがすべてを包み込む。
あまりの美味さに思考が停止すると同時に、規格外の食材たちが彼らの体内で爆発的なバフ(恩恵)を引き起こした。
「あ、あぁ……! 美味しい……それに、全身から力が……魔力が無限に溢れ出してくるわ……ッ!」
シャル(王女)の魔力キャパシティが、おにぎり一個で常人の百倍(国宝級の大魔導士レベル)にまで跳ね上がる。
「うおおおおッ! なんだこの唐揚げは!? 噛むごとに我が肉体が鋼を超え、神すら殴り倒せそうな活力が……ッ!」
マオ(魔王)の基礎筋力(STR)が限界を突破し、もはや素手で山を吹き飛ばせるほどのオーラを放ち始めた。
「マスター! もう一個! 唐揚げもう一個ちょうだい!」
「はいはい、ミラさんもリリスちゃんもいっぱいあるから焦らないでね。アイリスさんもお茶どうぞ」
人間界と魔界の絶対的トップたちが、レジャーシートの上で口の周りに米粒をつけながら、タッパーの唐揚げを巡って子供のようにはしゃいでいる。
周囲のSランク魔獣たちは、彼らから放たれる「バグのようなステータス上昇の覇気」に恐れをなし、半径数キロ圏内から完全に姿を消していた。
「いやぁ、やっぱりみんなで外で食べるお弁当は美味しいね」
「「「(お弁当の次元が違いすぎるけれど……)はいっ!!」」」
こうして、ただの休日のピクニックは、世界最高峰の権力者たちに「国を単独で滅ぼせるレベルの異常バフ」を付与する結果となり、彼らは帰りの道中、有り余るパワーで森の巨大魔獣たちをウキウキで素手で狩りまくる(腹ごなし)ことになったのであった。




