第27話:スライム・クッションの魔導マッサージチェアと、至高のコーヒーフロート
「ふぁぁ……極楽……」
「お肌はツヤツヤですけれど、肩の凝りだけはなかなか取れませんわね……」
「ほんと。まか……『任されている』実家の家業が最近バタバタしてて、背中がバキバキよ」
ある日の午後。
喫茶『止まり木』の店内で、お風呂上がりの常連女性陣――アイリス、シャル(シャルロット王女)、ミラ(魔妃カーミラ)の三人が、テーブルに突っ伏してだらしなくとろけていた
彼女たちの肌は【超絶美肌装甲】で光り輝いているが、国や魔界を背負うトップとしての「精神的な疲労」や「肩こり」までは、温泉でも完全には抜けきらないらしい。
カウンターでグラスを拭いていたタクミは、その様子を見てポンと手を打った。
「そっか。温泉の後は、やっぱり『マッサージチェア』が必要だよな」
タクミは早速、裏庭の倉庫(無限収納)からいくつかの素材を引っ張り出してきた。
「えーと、骨組みは『ヒノキ・トレント』の太い枝でいいとして。揉み玉の動きには、前に森で拾った『アース・ゴーレム(災害級)の魔力核』の振動機能を使おう。あとはクッション性が欲しいな……」
タクミが視線を彷徨わせると、ちょうど店の隅で、ゼノが森の清掃(という名の魔獣討伐)で捕獲してきたプルプルの魔物――物理攻撃を完全に無効化するSランク魔物『マシュマロ・スライム』が、壺に入れられて大人しくしていた。
「よし、君に決めた。ちょっと形を固定するね」
タクミは【万能錬金術】を発動。
マシュマロ・スライムの自我を一時的に眠らせ、その「絶対に破れないが、マシュマロのように柔らかい」という特性だけを抽出して、極上のクッションシートへと錬成した。
さらに、ヒノキ・トレントの枝を自在に曲げ、アース・ゴーレムの魔力核を動力源として組み込む。仕上げに【生活魔法(極)】で「人体のツボを完璧に把握して揉みほぐすプログラム」を付与した。
「完成! 『魔導マッサージチェア・極(スライムクッション仕様)』だ!」
時間にしてわずか十分。
店の一角に、世界樹の香りを放ち、座面が星空のように輝くスライムでできた、オーバーテクノロジーの安楽椅子が誕生した。
「おーい、三人とも。ちょっとこれ座ってみてよ」
「ん……? なんだいマスター、その奇妙な椅子は」
一番手として、ミラ(魔妃カーミラ)が気怠げに立ち上がり、その椅子に腰を下ろした。
「……っ!? な、何これ!? 座面が……私の体のラインに完璧にフィットして、まるで雲の上に浮いているような……!?」
マシュマロ・スライムのクッションが、カーミラの体圧を完全に分散させたのだ。
タクミはニッコリ笑って、椅子の肘掛けにあるスイッチ(木彫りのボタン)を押した。
「じゃあ、スイッチ入れるね。『全身おまかせ・極楽コース』スタート」
『ウィィィィン……』
アース・ゴーレムの魔力核が微振動を始め、ヒノキ・トレントの枝(揉み玉)が、カーミラの背中から腰、ふくらはぎにかけて、寸分の狂いもない絶妙な力加減で入り込んだ。
「――――ッッ!!??」
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!? そ、そこっ……! はうぁっ……! 魔核(心臓)の裏の、何百年も凝り固まっていたツボに……的確に……ッ!!」
魔界の頂点に君臨する絶対女王の口から、かつて誰も聞いたことのない、完全に威厳を喪失しただらしない声が響き渡った。
ゴーレムの振動が筋肉の深層まで届き、スライムの包み込むような感触が、彼女の魂を物理的に肉体から押し出していく。
「ミ、ミラお姉様!? 大丈夫ですか、白目を剥いて口から魂のようなものが出ていますわよ!?」
「シャル……あなたも、座り、なさい……。これは、ダメよ……。全細胞が……ダメになる……(昇天)」
数分後。
シャル(王女)とアイリス(騎士団長)も順番にマッサージチェアの餌食となり、三人は床に敷かれた絨毯の上で、文字通り「スライムのように」ドロドロに溶けて転がっていた。
「ははは、だいぶお疲れだったみたいだね。お風呂とマッサージの後は、冷たい甘いものでもどう?」
タクミはカウンターに戻り、エスプレッソマシン(オリハルコン製)で抽出した濃厚なコーヒーに、『ミルキー・バッファローの特濃牛乳』と『絶対零度の魔力氷』で作った極上の自家製バニラアイスをたっぷりと乗せた。
「はい、『特製コーヒーフロート』だよ」
甘く冷たいバニラアイスと、ほろ苦いコーヒーの完璧なマリアージュ。
ドロドロに溶けていた三人は、ゾンビのように這い寄り、ストローに吸い付いた。
「「「……ちゅぅぅぅ……」」」
「「「……生き返る(わ/ですわ)」」」
コーヒーのカフェインと、バッファロー乳の圧倒的な栄養価が、揉みほぐされた彼女たちの体に染み渡っていく。
こうして、喫茶『止まり木』は、人間界と魔界のトップたちを「完全にダメにする」究極のリラクゼーション施設へと、また一歩(規格外な)進化を遂げたのであった。
「マスター……この椅子、国費(王家の隠し財産)で買わせてください……」
「シャルちゃん、ダメよ。これは魔界の国宝として城に持って帰るわ……」
「お二人ともやめてください、これは私が最初に座る権利を……むにゃむにゃ……」
「はいはい、椅子は店から持ち出し禁止だよ。喧嘩しないで順番に使ってねー」
三人の寝言のような争いをBGMに、タクミは呑気に次の新作メニューのアイデアを練るのだった。




