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魔の森の隠れ家カフェ ~元社畜の錬金術師、最強の素材で最高の一杯を淹れる~  作者: 藍沢エイジ


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第26話:王女と魔妃の裸の付き合い(身分偽装)と、神話級の湯けむり女子会

「はぁ……。なんて美しい脱衣所かしら。でも、このスノコ、異常に魔力を放っているような……まさか神話級の魔獣の素材?」


フルーツサンドで完全に胃袋を掌握された王女シャルロットは、アイリスに促されるまま、ボロボロになったドレスを脱ぎ捨てていた。

足元にあるのは、タクミが「ただの綺麗な石板」として敷いている国宝級の『地竜の水晶鱗』である。

シャルロットは王族としての教養ゆえにその価値に気づきかけたが、フルーツサンドの余韻で思考力が低下しており、「まあ、この店ならあり得るわね」とあっさり受け入れてしまった。


ガラッ。


「失礼します……」


湯けむりの向こう側、世界樹の香りと共に黄金に輝く『龍脈の湯』へ足を踏み入れたシャルロットは、息を呑んだ。

そこには先客がいた。桜色に上気した肌、濡れた黒髪をかき上げる仕草、そして隠しきれない圧倒的な気品と魔力を持った絶世の美女が、湯船の縁に腕を乗せてくつろいでいたのだ。


「あら、いらっしゃい。見ない顔ね」


魔妃カーミラである。

週に三日通うと宣言した彼女は、今日も有給(?)を取って、極上のアンチエイジングを満喫していた。


「あ、ええと……わたくしは『シャル』と申します。常連のアイリスの……妹です」


シャルロットは咄嗟に設定を思い出し、身分を偽った。王女がこんな森の奥の温泉にいるなど、絶対に知られてはならない。


「アイリスの妹? ああ、あのよく食べる騎士の子ね。私は『ミラ』よ。ここでウェイトレスをしているリリスの母親。最近この温泉の常連になったの」


カーミラもまた、魔界の女王という正体を隠して微笑んだ。魔族のトップが人間の店に入り浸っていると知れれば、魔界の威信に関わるからだ。


(アイリスの妹……? 人間の分際で、妙に洗練された覇気を持っているわね。それに、この温泉の強烈な魔力に当てられずに平然としているなんて。人間も侮れないわ)

(ウェイトレスの母親……!? 嘘でしょう、どう見ても一国の女王クラスのオーラを放っているのに! でも、あの異常なフルーツサンドを出すマスターの店よ。ただの母親が絶世の美女でも不思議ではないわ……)


互いに相手のただならぬ気配を感じ取りつつも、「この店の常連なら規格外でも仕方ない」という謎の説得力により、二人は疑うことを放棄した。


「シャルちゃん、こっちへいらっしゃい。龍脈の源泉に近い方が、お肌の細胞が喜ぶわよ」

「あ、ありがとうございます、ミラお姉様」


シャルロットがカーミラの隣に肩まで浸かると、全身の疲労と、マッハ3のおんぶで受けたダメージが、光の粒子となって溶け出していった。


「ふぁぁぁぁ……っ、溶けます……。おうきゅ……いえ、『要求』の多い実家の面倒な家業なんて、どうでもよくなりますわ……」

「分かるわ。私も最近、旦那(魔王)がやたらと干渉してきて鬱陶しいのよ。部下たちも血の気が多い馬鹿ばかりで、上に立つ者としてストレスでお肌が荒れちゃうわ」

「まあ、奇遇ですね! わたくしの実家も、上の連中が凝り固まっていて……本当に、大きな組織(国)を動かすのは骨が折れますわよね」


人間の王女と、魔界の王妃。

絶対に相容れないはずの二つの頂点が、黄金の湯に浸かりながら「上に立つ女の苦労あるある」で完全に意気投合していた。


『……ゴボァァァァッ』


その時、湯船の底から巨大な岩石の塊が、のんびりと顔を出した。

「……ウオォ。今日モ、イイ湯ダナ……」


「ひっ!? な、何ですかこの巨大な魔獣は!?」

シャルロットが悲鳴を上げて後ずさるが、カーミラは慣れた手つきで、縁に置いてあった『ミスリル製のタワシ』を手に取った。


「あら、カピちゃん。今日も来たのね。ほらシャルちゃん、この子の背中、ゴシゴシしてあげて。ここの主みたいな常連客だから、大人しいわよ」

「えっ!? あ、はい……っ!」


シャルロットは言われるがままタワシを受け取り、恐る恐るその巨大な背中に触れた。

その瞬間、彼女は息を呑んだ。岩肌の隙間に覗く、先ほどの脱衣所のスノコと全く同じ煌めきを放つ純度の高い水晶。そして、王家が秘蔵する古代文献の挿絵と完全に一致するその荘厳なフォルム。


(間違いない……大地を創造したとされる神話級の存在、『古の地竜エンシェント・アースドラゴン』……!? なぜそんな伝説が、ただの温泉カピバラみたいにお湯でふやけているの!?)


「……ウオォォォ、ソコダ。人間ノ娘ヨ、ナカナカ筋ガイイゾ……」


「あ、ありがとうございます……(わたくし、一国の王女なのに……伝説の地竜の背中を流している……!?)」


シャルロットの常識は、もはや塵一つ残っていなかった。

しかし、不思議と嫌な気はしない。むしろ、王宮の堅苦しい儀礼よりも、このカオスで温かい空間が、彼女の心を芯から解きほぐしていた。


――数十分後。


「ぷっはぁーーっ! やっぱり風呂上がりの『フルーツ牛乳』は最高ね!」

「ほ、本当に……! この暴力的なまでの濃厚さと甘味……五臓六腑に染み渡りますわ……っ!」


脱衣所で腰に手を当ててフルーツ牛乳を飲み干す、二人の最高権力者。

彼女たちの肌は、世界樹の露天風呂のバフ効果により、ミスリル装甲を遥かに超える【絶対美肌装甲】へと進化を遂げていた。


「シャルちゃん。あなたとは良いお友達になれそうね」

「ミラお姉様……! ええ、わたくし、必ずまたここへ来ますわ!」


こうして、互いの正体(敵国のトップ)を知らないまま、王女シャルロットと魔妃カーミラの間に、強固な「お風呂と美容の絆」が結ばれてしまったのである。


「あ、シャル。上がったか」

店内に戻ると、アイリスが心配そうに駆け寄ってきた。その後ろで、タクミがのんきに笑っている。

「お風呂、気に入ってくれたみたいで良かったよ。またいつでも、お姉ちゃんと一緒においで」

「……はいっ! マスター!」


シャルロットは、王女としての威厳ではなく、一人の少女としての満面の笑みで頷いたのだった。

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