第20話:世界樹の露天風呂と、神話級の湯けむり女子会
「はぁー、美味しかった。でも、魚の匂いがちょっと体に付いちゃったな」
水竜のお刺身定食を完食し、満腹でくつろぐタクミは、自分のエプロンをクンクンと嗅いで呟いた。
ログハウスである喫茶『止まり木』には、タクミが【生活魔法】で作った簡易的なシャワー室しかない。
「よし、せっかく裏庭も広いし、みんなで入れる大きな『露天風呂』を作ろう」
「「「「……はい?」」」」
食後のコーヒーを飲んでいたアイリス、セラフィナ、リカルド、リリス、そして皿洗いを終えたゼノの五人は、タクミの唐突な提案に目を瞬かせた。
「マスター、お風呂を作るって……穴を掘って、お湯を沸かす設備から作るのですか?」
アイリスが首を傾げる。
「うん。ちょうど裏庭の奥に、見晴らしのいい崖っぷちがあるからね。ちょっと工事してくるよ」
タクミは麦わら帽子を被り直すと、スコップを片手に裏庭の奥へと向かった。
見習いウェイトレスのリリスが、こっそりとその後を追う。
(……人間のDIYなんて、たかが知れてるわ。どうせ泥だらけになって、浅い水たまりを作るのがオチ――)
ドドォォォォォォンッ!!!!!
「ひっ!?」
リリスが覗き込んだ瞬間、裏庭の地面が【空間掌握】によってサイコロ状に綺麗にえぐり取られ、巨大なクレーターが形成された。
さらにタクミは、スコップを地面に突き立てる。
「この辺り、地熱が高かった気がするんだよな。温泉、出ないかなー」
ゴゴゴゴゴォォォ……ッ! プシャァァァァァッ!!!
スコップが岩盤を貫いた瞬間、黄金色に輝く熱湯が、間欠泉のように数十メートルの高さまで噴き上がった。
それはただのお湯ではない。奈落の森の地下深くを流れる強大な魔力の河、『龍脈』が、地下水と混ざり合って噴出した「液状化した純度100%の魔力」であった。
「わあ、一発で出た! いいお湯だなあ」
タクミは黄金の温泉を頭からかぶりながら、呑気に笑っている。
【絶対水耐性】と【無自覚な威圧】のおかげで火傷一つしていない。
「よし、湯船と建屋を作ろう」
タクミは無限収納から、薪として拾い集めていた『世界樹の枝』を大量に取り出した。
【万能錬金術】を発動し、枝を瞬時に製材。組み合わせて、巨大な「総檜造り」ならぬ「総世界樹造り」の豪華絢爛な露天風呂を組み上げていく。
湯船の底には、保温効果を高めるために『炎竜のウロコ』を敷き詰め、屋根は『ヒノキ・トレント』の葉で風流に葺いた。
「よし、完成だ! 【世界樹の露天風呂】!」
時間にして、わずか10分。
タクミの常識外れなDIYにより、世界で最も贅沢で、世界で最も魔力濃度の高い「神話級の温泉施設」が誕生したのである。
「みんなー! お風呂できたから、女の子たちから先に入っておいでー!」
数分後。
タクミに促されるまま、脱衣所で服を脱いだアイリス、セラフィナ、リリスの三人は、恐る恐る黄金に輝く湯船へと足を踏み入れた。
「こ、これは……なんという濃密な魔力だ。肌に触れた瞬間、古傷が完全に消え去ったぞ……!?」
人類最強の騎士アイリスは、自分の白い肌から一切の傷跡が消え、陶器のようになめらかになっていくのを見て戦慄した。
「あぁ……っ、ダメだ……。世界樹の香りと、龍脈の魔力が……私の精霊核を極限まで満たしていく……溶ける……」
森の守護者セラフィナは、湯船の縁に頭を乗せ、完全にだらしない顔で「ほへぇ」と魂を抜かれていた。
「嘘でしょ……ただのお湯なのに、魔界の秘湯『不老不死の泉』の何千倍も効能があるじゃない……っ! 肌が……肌が水を弾いて、究極のアンチエイジングが強制的に……!!」
魔王の娘リリスは、自分の肌が赤ちゃんのようにもちもちに若返っていくのを感じて、お湯をパチャパチャと顔にかけまくっている。
「「「……極楽だ(極楽である/極楽ね)」」」
種族も立場も違う三人の美少女(?)たちは、黄金の温泉の中で肩まで浸かり、完全に一致したため息を漏らした。
美味しいご飯を食べ、世界樹と龍脈の温泉に浸かる。
もはや彼女たちにとって、王都の権力闘争も、魔王軍の世界征服も、どうでもいい些末な問題になりつつあった。
「……ねえ、アイリス。このお湯、持って帰って騎士団で売れば、国の予算が倍になるんじゃない?」
「馬鹿なことを言うなリリス。そんなことをすれば、世界中の国がこの温泉を巡って大戦争を起こす。ここは……私たちだけの秘密だ」
「ふふっ。人間と魔族が、裸で秘密の共有とはな。面白いではないか」
セラフィナが笑い、三人は湯けむりの中で静かに乾杯(持参したフルーツ牛乳で)した。
こうして、女性陣の絆(と、異常なまでのステータスバフ)は、温泉によってさらに強固なものとなったのである。
一方、男湯(という名の順番待ち)では――
「マスター殿……! 私のような薄汚れた商人が、このような神の湯に入ってもよろしいのでしょうか……!」
「俺も、土にまみれた身体をここで清められるとは……圧倒的感謝……!」
リカルドとゼノが、タクミの前で土下座しながら順番を待っていた。
「いや、ただの露天風呂だから。そんなに畏まらなくてもいいよ」
タクミは二人の大げさな反応に苦笑しながら、ポチの背中をタワシでゴシゴシと洗ってやるのだった。




