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魔の森の隠れ家カフェ ~元社畜の錬金術師、最強の素材で最高の一杯を淹れる~  作者: 藍沢エイジ


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第17話:集結する規格外たちと、平和のプリン・ア・ラ・モード

「ごちそうさまでした。……ふぅ、素晴らしいオムライスだった」

「お粗末様。お皿、下げておくわね」


喫茶『止まり木』の店内。

つい先ほどまで殺し合おうとしていた王国第一騎士団長アイリスと、魔王の娘(見習いウェイトレス)リリスは、食後のコーヒーを飲みながら妙に落ち着いた空気を共有していた。

「美味しいご飯の前では争わない」という不可侵条約が、二人の間に奇妙な連帯感を生んでいたのである。


しかし、その平穏は長くは続かなかった。


バンッ!!


「邪魔をするぞ! 今日の監査おやつの時間だ!」


勢いよく扉を開け放ったのは、森の守護者たるハイエルフの姫、セラフィナである。

さらにその直後、店内の空間が歪み、大商人リカルドが転移カードを使って「はぁはぁ、今日も王都の会議を抜け出して参りましたぞ!」と現れた。


「いらっしゃいませー……って、え?」


フリフリのエプロン姿のリリスがおしぼりを持って振り返った瞬間。

店内の空気が、文字通り「凍りついた」。


「なっ……!?」

セラフィナの精霊眼が見開かれる。彼女の視線の先には、どう見ても魔族の王族リリスの姿があった。


「き、貴様ぁぁぁ!! なぜ誇り高き精霊の森に、忌まわしき魔族の気配が……しかも、次期魔王だとぉ!?」

「ひぃぃぃぃっ!!? ま、ま、魔王の娘!? なぜこんな所に!?」


セラフィナは即座に精霊弓『シルフィード』を顕現させ、リカルドは腰を抜かして床を這いずり回る。


「ちょっと、うるさいわねエルフ! 私は今、接客中(潜入任務中)なのよ! 埃が立つから暴れないで!」

「黙れ魔族! この『聖域』を汚す気か! ここは私とマスターの……っ!!」


「待て、セラフィナ殿!! 早まるな!!」


弓を引き絞るハイエルフの前に、アイリスが両手を広げて立ち塞がった。


「アイリス!? 以前この店で同席した時はただの騎士だと思っていたが……貴様、人間でありながら魔族と通じていたのか!?」

「誤解だ! 庇っているのではない! 私はこの店の平和(と美味しいご飯)を守りたいだけだ! ここで暴れれば『不可侵条約』違反として、二度とマスターの飯が食えなくなるぞ!!」


アイリスの必死の説得(食欲に基づく切実な叫び)。

しかし、血の気の多いハイエルフと魔族の間に、言葉は届かない。

リリスの背中からはコウモリの羽が広がり、極大の闇魔法がバチバチと音を立てる。セラフィナの周囲には暴風の精霊が渦巻き、ログハウスの屋根が吹き飛びそうになっていた。


「消えなさい、エルフ!!」

「灰になれ、魔族!!」


世界大戦の火蓋が、今まさに小さな喫茶店で切って落とされようとした――その時。


「あ、皆さんお揃いで。ちょうど良かった」


厨房の奥から、タクミがのんきな声で現れた。

彼の手には、ガラス製の大きくて細長い器(舟形の皿)が乗ったお盆が握られている。


「今日は特別に、裏庭の果物がいっぱい採れたんで。はい、『特製プリン・ア・ラ・モード』です」


コトン、とテーブルの中央に置かれたそれを見て、全員の動きがピタリと止まった。


「……な、なんだ、あれは」

セラフィナの弓が、手から滑り落ちる。


舟形のガラス器の中央に鎮座するのは、『皇帝の卵』と『ミルキー・バッファローの特濃牛乳』で作られた、黄金色に輝く少し固めの「王道カスタードプリン」。

その隣には、『氷河の核』搭載の冷蔵庫で生み出された「絶対零度バニラアイス」が、完璧な球体を保って寄り添っている。


さらに周囲を彩るのは、限界まで冷やされた森の果実たち。

宝石のように輝くイチゴ、琥珀色のシロップ漬けにされたリンゴ、そしてSランク魔樹から採れた甘い樹液カラメルソースが、全体にとろりと掛けられていた。


「うぉぉぉぉん!! なんという……なんという圧倒的な色彩の暴力!! まるで宝石箱ですぞぉぉぉ!!」

リカルドが床から這い上がり、感涙にむせぶ。


「さ、溶けないうちにどうぞ」


タクミがスプーンを四本差し出すと、人類最強、魔王の娘、森の守護者、大商人の四人は、無言でテーブルを囲んだ。


――プルンッ。

スプーンを入れた瞬間、プリンが蠱惑的に揺れる。


「「「「――――っっ!!」」」」


全員の脳内に、ファンファーレが鳴り響いた。

少し固めのプリンは、噛んだ瞬間に卵の暴力的なまでの濃厚さとコクを爆発させる。

そこに、カラメルのほろ苦さと、絶対零度アイスのシルクのような冷たい甘さが混ざり合い、口の中で「究極の黄金比」を完成させるのだ。

さらに、冷やされた果実の酸味が舌をリセットし、無限にスプーンを動かさせる。


「あ、あぁぁ……! 精霊の風が……甘いカスタードの風が吹いている……!」

「うぅっ……! オムライスを食べたばかりなのに、甘いものは別腹だなんて……人間の身体の構造システムは悪魔の所業よ……!」

「冷たい……甘い……美味い……!!」


四人は、もはや種族の垣根も、肩書きも、すべてを忘却していた。

ただ目の前にある「究極の甘味」を前に、一つの器を囲む同志フードファイターと化していたのである。


「ふう、お粗末様でした」

数分後。ガラスの器は、舐めたようにピカピカになっていた。


「……セラフィナ、と言ったな」

「……リリス、か」

「「この店内(聖域)においてのみ、一切の戦闘行為を禁ずる(不可侵条約)」」


ハイエルフと魔族は、プリンの余韻でとろけた顔のまま、固い握手を交わした。

横ではアイリスが満足げに頷き、リカルドは「このプリン、王都で売れば国が買えますぞ!」と叫んでいる。


「あ、みんな仲良くなったみたいで良かったです。リリスちゃん、お皿下げてくれる?」

「はい、ご主人様!」


こうして、喫茶『止まり木』は、人間、エルフ、魔族がスプーンを並べてプリンをつつく、世界で唯一の「絶対平和領域(カオス空間)」として完成したのだった。

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