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魔の森の隠れ家カフェ ~元社畜の錬金術師、最強の素材で最高の一杯を淹れる~  作者: 藍沢エイジ


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第14話:魔王軍の刺客と、底なしの漆黒(ブラック・カレー)

「……人間どもめ。ついに『規格外の兵器』を完成させたか」


魔王城の奥深く。魔王軍最高幹部の一人である『影の刃』ゼノは、水晶玉に映る王都の惨状を見て舌打ちをした。

水晶には、王国第一騎士団長アイリスが、ただ一歩踏み込んだだけで訓練場を吹き飛ばす光景が記録されていた。


「あの女を生かしておけば、魔王軍は滅びる。奴が戦場に出る前に、私の『影の暗殺術』で確実に息の根を止める」


ゼノは闇属性の最上位スキル【虚空同化ヴォイド・ウォーカー】を持つ最強の暗殺者である。音も、気配も、魔力すらも完全に無に帰すその技は、これまで数多の勇者たちを葬ってきた。


数日後。ゼノは王都から密かに抜け出したアイリスを尾行していた。


(……馬鹿な。あの女、たった一人でSランク魔境『奈落の森』へ入っていくぞ!? ここが奴の秘密の修練場なのか!?)


ゼノは冷や汗を流しながらも、極限の隠密状態を維持して彼女の後を追った。

そして、森の最深部に存在する奇妙な結界と、一軒のログハウスに辿り着いたのだ。


(あんな場所に小屋が……? まさか、王国が隠し持つ超兵器の開発局か!?)


ゼノはアイリスが店の中へ入っていくのを確認すると、自身の体を文字通り「影」に変え、扉の隙間からスリップするように潜入した。


店内では、アイリスがカウンターに座り、のんきに水を飲んでいた。

隙だらけだ。


(もらったぞ、アイリス・ドラグニア!! 私の不可視の猛毒刃で、その首を――!)


ゼノがアイリスの背後の影から実体化し、凶刃を振り下ろそうとした、その瞬間。


「あ、いらっしゃいませ。お客さん、お連れ様ですか?」


「…………は?」


エプロン姿の青年タクミが、ゼノの目を真っ直ぐに見て話しかけてきた。

ゼノは完全に硬直した。

最上位スキル【虚空同化】を発動中なのだ。大賢者ですら感知できない絶対のステルスを、この丸腰の青年は「扉から入ってきた普通のお客さん」と同じテンションで認識している。


「えっ? あ、貴様、まさか魔王軍の……ゼノ!?」

アイリスが振り返り、剣の柄に手をかけた。


「あ、知り合いじゃないんですか? すみません、影みたいな黒いモヤモヤから出てきたから、てっきり手品師の方かと」


タクミの言葉に、ゼノは絶望的な戦慄を覚えた。

(こ、この男……私の【虚空同化】を『手品』だと抜かしたぞ!? 一体何者だ……深淵の化身か!?)


「ま、まあいいです。お腹空いてますよね? 暗い顔してますし」

「なっ……!?」


タクミはゼノの殺気を「空腹による苛立ち」と勝手に解釈し、奥の厨房へ向かった。

ゼノは逃げ出そうとしたが、足が動かない。タクミの放つ【無自覚な威圧】が、暗殺者の本能に「一歩でも動けば死ぬ」と警告を発していたのだ。


数分後。


「お待たせしました。今日のまかない、『特製ブラック・ビーフカレー』です」


タクミがカウンターに置いたのは、純白の皿に盛られたライスと、それを覆い尽くす「底なしの沼のように真っ黒な液体」だった。

立ち昇る香りは、数多のスパイスが複雑に絡み合った、脳髄を直接揺さぶるような強烈な刺激臭。


(……見え透いた罠だ。この黒さは猛毒。私を暗殺し返す気だな!)

ゼノは暗殺者としての矜持を見せるため、スプーンを手に取った。

(ふん、私には【猛毒無効】のパッシブスキルがある。こんなもの、水のように飲み干して――)


ゼノは黒いルーをすくい、口に放り込んだ。


「――――ッッッ!!!!????」


ガシャン!! とスプーンが床に落ちた。

ゼノの全身の毛穴が爆発的に開き、滝のような汗が噴き出す。


痛いほどの辛さ。だが、ただ辛いだけではない。

じっくりと炒められた玉ねぎの甘み、Sランク魔獣『アイアン・ボア』のすね肉から溶け出した圧倒的な旨味。

そして、黒さの秘密である『ブラック・カカオ』の深いコクと、『世界樹の炭』を微粉末にしたデトックス効果が、ゼノの体内にある「闇属性の魔力(毒)」を強制的に浄化していく。


「が、あぁぁぁ……! 辛い……辛いが、スプーンが止まらん……!! 身体の中の毒が……悪意が、燃やされていくぅぅぅ!!」


ゼノは涙と鼻水を垂れ流しながら、ブラックカレーを貪り食った。

魔王軍の誇り高き暗殺者は、タクミが気まぐれに調合した『薬膳スパイス(世界樹の葉や火竜の唐辛子を配合)』の暴力的なデトックス効果の前に、完全に浄化わからせされてしまったのだ。


「ふう……綺麗に食べましたね。お水、おかわりどうですか?」

「は、はひ……頂ぎましゅ……」


食後。ゼノの身体からは禍々しい闇のオーラが完全に消え去り、まるでサウナ上がりのような爽やかな表情になっていた。


「アイリス……私は、負けた。こんな圧倒的な『ブラックカレー』を見せつけられては、魔王軍の闇など児戯に等しい……」

「何を言っているのか全くわからんが……無力化されたなら好都合だ。捕縛させてもらうぞ」

アイリスが手錠をかけようとするが、ゼノは自ら両手を差し出した。


「マスター……とやら。この『闇』の調合を、私に教えてはくれないか?」

「え? カレーの作り方ですか? いいですよ。その代わり、裏庭の畑の草むしり、手伝ってくれますか?」

「御意!!」


こうして、喫茶『止まり木』に、魔王軍を裏切った元・最強の暗殺者が、住み込みの農作業員(見習い)として就職することになったのである。

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