見慣れた光景
化粧台の前に座った私の姿は、予想通りまるで別人だった。
腰まであるウェーブがかった艶やかなロングヘアは赤みを帯びた茶色で、クリッと愛らしい眼はオレンジ色をしていた。
あまりハッキリした姿で映ることはないので定かではないが、スチルでよく見切れていたヒロインの特徴と合致している。
かっわいい~!!さすがヒロインレベルの女の子だわ!
学園に行って確かめるまでもなく、ここはあの乙女ゲームの世界なのだろうと認めざるを得なかった。
私なんかがユリアーネになっちゃったことで、この世界が崩壊したり…しないよね?
考えられなくもない可能性に少しゾッとしたが、主人公としての役目をきちんとこなせば、そんな事にはならないだろう。
主人公の立ち回りや選択肢は、私の記憶に刻み込まれているはずだ。
そのくらいはやり込んでいた自信がある。
問題なのは、リアルな身体があることだ。
スチルで見る分には、画面越しにいくらでも萌えられた。
しかし、それをリアルに体験することになるのは………無理かもしれない。
想像するだけでも恥ずかしすぎる…!
あれこれと考えている間に、メイド服の女性が身支度を整えてくれた。
………やっぱり、ツインテールかぁ。
制服も髪型もイラストに忠実で、その再現率の高さには驚くほどだが…
明日からは普通の髪型にしてもらおう。
いくら設定上は16歳といえども、29歳まで過ごしたことのある身としては、ツインテールはとうに過ぎ去った黒歴史の一部でもあるのだ。
「さあ、ご準備出来ましたよ。
早めに朝食をとって車に乗ってください」
「分かりました。ありがとうございます。
ええと…すみません!
お名前を教えてください!」
「私のですか?イレーネですよ。
今日のお嬢様はどうされたんでしょうね。
さあ、ダイニングへと急ぎますよ!」
「ううん、何でもないの…!
早く行きましょう」
ダイニングへと来た私は、用意された朝食を全て平らげ、送迎の車へと乗り込んだ。
……ふぅ、お腹いっぱい!幸せ~
焼きたての自家製パンがとにかく絶品だった。
ウインナーやベーコン、スクランブルエッグでさえ、今まで食べてきたようなものとは比べ物にならないくらい美味しかった。
きっと食材もシェフも一流なのだろう。
夕食も楽しみだなぁ~♪
学園への道のりは、車で10分程度だった。
窓から眺める外の景色は、歩いて散策したくなるような素敵な街並みが広がっている。
自然の緑がそこかしこにありつつも、カラフルな可愛い建物が立ち並び、活気のある様子が見てとれた。
学園からすぐなら、帰りに寄り道も出来そうだな~
「お嬢様、到着いたしました」
車を降りると、目の前には大きな門が開いており、その奥にはまるでお城のように大きくそびえ立つ豪華な建物があった。
あのオープニングのイラストを現実化すると、こんなにもド派手な学園だったのね…
目の前に広がる見慣れた光景は、紛れもなく乙女ゲーム『シンデレラ・パラダイスっ!~婚約破棄から始まる真実の愛~』の舞台、ヴェスニッツ学園そのものだった。
ゲームはヒロインが初めて学園の門をくぐったところからスタートする。
今日がその初めての登校日ということは…
学園に入る今この瞬間から、物語が始まる…!!
よぉ~し、ここまできたらリアルな『シンパラ』の世界を楽しもうじゃないのっ!
ヒロイン役でも何でも任せなさいっ!
私は心を決め、ヴェスニッツ学園の門をくぐった。




