新しい世界
コンコン…
誰かが扉をノックし、話しかけてきた。
「おはようございます、ユリアーネ様。
お目覚めでしょうか?」
ユリアーネ?私は"ゆり"だけど…
この窓からの景色を見る限り、ここは私の住んでいた東京ではない。
あの、ずんぐりむっくりめ…!
新しい世界ってなんなのよ!?
いっそのこと、前世のことなんて綺麗さっぱり忘れて、新しく生まれ変わりたかったんだけど!?
これじゃあ"HAYATO"に会えなかった未練を抱え続けて生きていくことになっちゃうじゃないっ!
リアルでの恋人いない歴29年。
社畜として働き詰めの毎日。
稼いだ全てを推しのために捧げてきた。
それなのに推しに会う直前に死んでしまうとは…私の29年間の人生は一体何だったのだろうか。
頭の中に募った不満や後悔の念をモヤモヤと考えていると、再び外から声が聞こえた。
「ユリアーネ様?まだ寝ていらっしゃるのかしら…
登校初日に遅刻させるわけにもいきませんので、失礼しますね。」
ガチャ…と扉が開き、メイド服を着た女の人が入ってきた。
うわぁ本物のメイド服なんて初めて見た!
すごく似合ってるし、可愛いなぁ。
にしても……綺麗な人~!!
メイド服を着て現れた人は、ウェーブがかったプラチナブロンドの髪をポニーテールに結い、目鼻立ちの整った20代くらいの女性だった。
「起きていらしたのですね。おはようございます。
登校時間まであまり時間がありませんので、早速準備をいたしましょうか。
ユリアーネ様、さあこちらへどうぞ」
「おはよう…ございます。
あの、つかぬことをお聞きしますが…ユリアーネ様とは?」
「……?何をおっしゃっているのですか?
ご自分のお名前じゃありませんか」
「ユリアーネ……」
「早く支度をしないと間に合いませんよ。
さあ、こちらの制服に着替えてください。
もしかして…学園に行きたくないのですか?」
「あ、いや……着替えます」
私はメアド服の女性から制服を受け取り、着替えた。
この制服、どこかで見覚えが…
ん?名札が付いてる。
ユリアーネ・エーレンフェスト?
この名前にはものすごく見覚えがあった。
Black&Whiteにハマる前に、夢中になってやり込んでいた乙女ゲーム『シンデレラ・パラダイスっ!~婚約破棄から始まる真実の愛~』のヒロインの名前だ。
もしかして新しい世界って…ゲームの世界ってこと!?
いやいや、まさか。そんなはず…
その時、自称神様が最後に放った言葉が頭の中をよぎった。
『今度の世界では、たくさんの愛を貰って幸せになって…!』
たくさんの愛……そりゃ乙ゲーのヒロインなら、口説かれまくりのよりどりみどりだろうけどさぁ。
私がそのポジションになっちゃった…ってこと?
リアルでの恋人いない歴29年の私が?
"リアルでの"というのは"推し=恋人"感覚で尽くしてきた私にとっては、リアル以外での恋人は人生において何度か存在していたという気持ちを持っているからだ。
気持ち悪いと思わないでほしい。
私にとって推しの存在は、明るく生きていく上では必要不可欠なものだったのだ。
「…ユリアーネ様?本当に遅刻してしまいますよ?」
「!!ごめんなさい、ボーッとしてました。
えっと…学校に行けばいいんですね?」
「私が強制するものでもありませんが…
体調が優れないようでしたら、お休みされますか?」
「い、いや!行きます!
ちょっと確かめたいことがあって…」
この世界が本当にあのゲームの世界なら…主な舞台である学園に行けばハッキリするだろう。
「そうですか。無理はなさらないで下さいね。
では、準備をいたしましょうか。
こちらの化粧台の前へどうぞ」




