3-1
表情硬く付いてきているユエに声をかけるが心ここにあらずで応答がない。
「ユエどうしたの?」
『あ、ああ。次に行くのだろう。我は問題ない』
再度声をかけるとやっとその声は届いたようで、ユエはハッとすると次の目的地へと向かおうと言う。
「問題ないようには見えないぞ」
「どこか具合が悪いとかなら無理しないで」
『千歳、何度も言うが我は肉体的な不調は感じぬ』
「じゃあ、精神的な問題はあるって事か?」
雄真の言葉にまったく聡い子だと呟いて俯いてしまった。
「ユエ?少し休む?」
『休んでなどおれぬよ!』
やはり様子がおかしい。雄真と言い合ったりする事はあったがそれはただのじゃれ合いでここまで気を立てたりする事は今までになかった。少し驚いてしまった私の様子にユエは申し訳なさそうにする。
『すまん千歳、我を思って言ってくれておるのに』
「ううん、気にしないで。でも、本当にどうしたの?」
「とにかく車に乗ってくれ。ユエが急ぎたいんなら、走りながら聞いた方が良いだろ」
雄真の言う事は最もだと思い車に乗り込む。車は夏の熱気が充満し嫌な汗を吹き出させた。車内の熱気が落ち着くのも待たずに雄真はエンジンをかけると窓を全開にして発進させる。吹き込む風の音はしばらく私達の聴覚を支配し息を呑む音も掻き消した。頭に直接届くユエの声はそれでも鮮明で聞き間違えと思いたくとも思うわけにはいかなかった。
『我の命達の声が聞こえなくなった。弱くとも、届く間隔が開こうとも、帰りの舟に乗るまでは届いておったのだが』
雄真が車の窓を全て閉めると今度はエアコンが激しく稼働する音が車内に響いたが私達の声も届きやすい位には静かになった。それでも私は何て声を掛ければ良いか分からず言葉が出てこない。
「それは、何を意味するんだ?」
沈黙を破ったのは雄真はだった。意味する事は察しがつきそうなものだが、それは確認しなければ憶測でしかない。残酷な質問だと思うが聞かなくてはいけない事で私もユエの返答を待った。
『声を出す者がもうおらんのかもしれぬ、と言う意味だ』
「かもしれないって事はそうなったって確信もないんだな?」
ユエは自分の命達の声を聞きその存在を確認している。水の世界では回復までの間、命達の叫びを聞きながら過ごすと以前言っていた。次元を超えている間は届く声でしか命達の存在を感じられないのだ。その声が聞こえないと言う事はユエにとって絶望かもしれないが、様子が見えないと言う事が命達の存在の終了を確認した事にもならず、希望や期待は残していた。
「ユエ、世渡りする力が回復するのにあとどれくらいかかるの?」
聞いたところで回復までの時間や残りの容量の単位を示せるものなのか分からないが、焦る気持ちがその質問をさせた。次に向かう金鶏山が完全回復に役立つ場だとの保証もない。だが、ユエ自身が回復量を分かっているのなら、これまでに訪れた場所で残りの回復が済む場所が分かるかもしれない。進路を変えるなら早い方が良いと思ったのだ。
『渡るには渡れるだろうが、地の暴走を治める力も残しておかねば意味がない。あと少しだ。あと少しだけで良いから金の気を取込めれば』
「昨日の涌谷に向かった方が良くないかしら?」
「いや、ここからじゃ時間が掛かる。少しで良いならこのまま平泉を目指すべきだろう」
「でも、金の鶏が本当に埋まってるかなんて分かってないんでしょう?それに少しって言っても私たちじゃ判断出来ない。確実な回復が図れる場所に行った方がむしろ早いかもしれないじゃない」
私の言葉に雄真は逡巡する様子を見せた。
「ユエ、どうなんだ?今までに行ったところが良いのか、このまま進むのかお前が決めてくれ。俺たちには判断出来ない」
少しの間考えるようにユエは黙り込んだ。私も雄真もユエの次の言葉を待つしかなかった。




