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それぞれ一つずつ石を持ち河岸へと向かった。子供の頃は届く訳がないと思ったが、大人になって立ってみると何とか届きそうと思える距離だ。
「さて、じゃあ俺からいくぞ。野球経験者として手本を見せてやろう」
「少年野球やってたあの頃もそう言って外してたわよね」
「うるせー」
私のツッコミにバツが悪そうな表情になった雄真だがすぐに気を取り直して対岸の岩穴に狙いを定める。左腕を標準を合わせるように前へ出し、石をもった右腕を後ろへ引き次の瞬間素早く体を捻らせ右腕を振り下ろした。
流石に経験者だけあって投げ方は様になっていた。雄真の右手から放たれた石は真っ直ぐに岩穴の方へ向かう。入るかに見えたがほんの僅か穴の外に軌道はずれ岩肌にぶつかると弾かれてしまった。
「くっそー!入ったと思ったのに」
「本当、惜しかったわねえ」
悔しそうな雄真を宥め次は私が挑戦する姿勢をとる。
「雄真の仇は私が取るわね」
そう言って雄真のフォームを真似て岩穴に狙いを定め振りかぶる。思い切って石を放つとスピードこそ雄真には劣るがなかなか良い軌道を描いた。
「やった!」
「いや、入ってないだろうが」
そう、私が放った石は岩穴から離れた場所に当たって落ちた。
「そうだけど、子供の頃は向こうに届きもしなかったんだもの。届いただけで嬉しいから、成功ってことにする」
「勝手な理屈だな」
「雄真も届きはしたんだから成功って事にしたらいいのよ。ほら最後はユエの番よ、頑張って」
独自のルールを押し切ってからユエを河岸へと立たせた。
「ユエにも特別ルールよ。岩穴に入らなくても、届かなくても、岩穴の延長線上に収まれば成功って事にしましょう」
『だから、成功も失敗もないと言っておるだろ。まあ千歳がそうしたいのなら構わんよ』
そう言いながらユエは真剣に岩穴の位置を見定めている。小さな体を大きく動かして思い切り良く石を放った。
「あ!」
「お!?」
ユエが放った石はこちらの河岸の方に近い水面に吸い込まれるかに見えた。だが突然現れた鳥の大群に弾かれて岩穴のすぐ手前の水面へと落下した。
「岩穴にそのまま入るかと思った」
「ああ。でもまあ、千歳ルールに従えば成功だよな。岩穴のすぐ手前に落ちた訳だし」
『だから成功も失敗もないと言っておるだろうに』
ユエはそう言うが満更でもなさそうな表情だった。
私たちは仲良く外しはしたが、成功だ。縁の深い私たちらしい結果でこの先の縁も確かに結ばれたはずだ。
それからは川の流れを眺めたり人工物のない自然な風景を楽しんで過ごした。復路の船出の時間になり再び舟に乗り込む。船頭さんは変わらずに親しみやすい語り口調で私たちを楽しませてくれた。船頭さんは途中で語りをやめ舟唄を歌い出す。マイクもないのにその歌声は渓谷に響き渡り目の前に広がる景色をさらに幻想的なものにしてくれた。
舟着場に到着すると清々しい気持ちで舟を降りる。艶が煌めくユエの髪からも回復が捗った事と思ったのだが、私の晴れやかな気持ちとは反するようにその表情はどことなく硬い。
「じゃあ次へ行くとするか」
「そうね。ユエの回復も捗ったみたいだし、、ユエ?」
車へ戻る途中、後ろに着いて歩くユエの様子がやはりおかしい。




