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「で?俺が世界だって?」
ミラー越しに後部座席のユエに視線をやった。千歳のおにぎりも取り出して一つを頬張る。シャケと枝豆と胡麻が混ぜ込まれていて微かに出汁も感じ、具材の塩気とも馴染んでなかなかに美味い。
『さっきからそう言っておる』
「だから、その意味が分からないんだって」
『他者を見るからそう思うのだろうな。他者の存在を尊ぶ、それは実に高度で素晴らしい。そうなる事が世の向上には必要だと言うのはお主らを見て我も理解した。だが、他者を尊重しすぎて己の内にこの世界を有しておることを忘れておる』
さらに訳が分からないが、俺は咀嚼を続けて脳を動かす努力をし、じっとユエの話に耳を傾けた。
『命は元は己の内に世界を見て、その世界を良いものにしようとする者達だ。己の内の世界とは我との視覚の共有。命らは内に見える世界を良くするため多くのものを手にしようとし、「何か」と衝突しそれも欲しいと手を伸ばし争いが起こる。「何か」とは別の命なのだがそれにまだ気づけておらぬのが我の世だ』
「ユエの分身を沢山放ってるって事か?」
『そうだ。細かくしてしまえば小さく力も少ないが、その数だけの経験や感情を我も得る事が出来る。ここの世を手本にしたやり方だ。我より先にここを手本に発展を始めた世界も多くあったからの、我もそうしたのだ』
発展を始めた世界か。リオンの世界もそうなのだろうか。少し古い価値観を持ってるように感じる事もあったが俺たち地球人も古い価値観にぶつかり壊してきた過去がある。そして今現在も。
「じゃあ、ユエが手本にしたのがこの世界って事は、ここも元は自分から小さな命を分けて放ち、それが俺たちで、つまり世界そのものって事か?」
『さっきからそう言っておるのだが、ようやく分かってきおったか』
やっと俺の理解がユエの言ってる事に追いついた。
「だが、それじゃあ目に見える他人も俺って事だろ?でもそうは思えないよ」
『他者を尊重する事を知ったからだろうな。我の世ではまだ他者は認識せず己の欲する物を持つ「何か」でしかない。「何か」は自分でありそれが持つ物も己の物なのだがな。ここは他者が持つ物を共有する事が向上につながると知って、そうかそれで他の存在を認めたのか。内を見るよりも周りを見るようになったのか』
ミラー越しに合うユエの目が俺を見ている様で別の何かを見ている様な感覚がした。ユエは何を見て話してるんだ?
ユエの目をミラー越しに見ているとふと疑問が浮かんだ。ユエはただ力の回復をするためにここに来たんだろうか?いつもの水の世界に行けなくて、本当は来れるはずのないこの地に来たのは本当にただの偶然なのか。
ユエがまだ持たない物を持っていると言って、ユエはよくこの世の神を羨望する。何かを求めているその姿が、まるでユエの言う命達のしている事と同じに思えた。
「ユエも光の道に手を伸ばしたんだもんな。そうしてこの世界に来た。ユエの世界にないモノを探しに来たのかもな。確かに、ユエとユエの言う世界の命はそっくりだな」
ハッとする様にユエの視線がぶれ、先程よりも俺に焦点が合った様に見えた。
『そう、だのう。千歳は未熟な我がここに招かれたのかも知れぬと言ったが、我自身が望んで手を伸ばしたからここにおるのだよな、、。我は命達の未熟さを嘆いたが、つまりは命達が我を嘆いて見放そうとしたとも言えるのお。では、捨てられたのは我の方であったのか』
自嘲する表情だった。まったく、訳の分からない事を偉そうに話しておきながらユエこそ何も分かってない。
「あのなあ、ユエ。そう考えてしまうのも分かるが違うだろ。ユエの言った事を理解した俺が断言してやるよ。ユエは命を見捨ててないからここにいる。だから命達もユエを見捨ててなんてないんだ。自分がいない間、大変だろうけど耐えて成長してくれとユエは願ってる。それなら命達も大変な思いをしてでも今回はユエに成長して戻って欲しいんじゃないのか?いつもの繰り返しじゃなくて変わる時だと、お互いに決めてこう言う状況を得たんだと俺は思う」
ユエは俺をまじまじと見つめている。昨日もこんな顔をして、それから笑ったんだったな。そう思っていたらやはりユエは相好を崩した。
『そうか、今がそうであったのか。雄真の言うように聞いみるものだな』
不浄を祓い、また不浄に満ちることの繰り返しは今終わりを迎えている。俺との会話でそれをユエが知ったのだから、やはり俺が世界だったのか。やっぱり良く分からない。




