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目の前で起こった事が信じられず俺は立ち尽くした。リオンと千歳が一緒に消えてしまった。いや、そんなはずはない。リオンは俺を応援してくれたのに、千歳を連れて行っちまうわけがない。
そうだ、これは事実じゃない。あの時、暗いこの室内に残ったのは俺と千歳の二人きりだった。殊更、人との別れが苦手なあいつを元気づけてやろうと俺はからかってやったのに、いつもみたいに食ってかかってこなかったんだ。あの時はただ静かに笑ったんだ、あいつは。
「どうしたの?」
声に驚いて振り返る。今消えたはずの千歳がそこにいた。その異様さに俺は狼狽えながらも目を離せずにその姿を凝視する。
「あはは!どうしたのよ、狐に摘まれたみたいな顔しちゃって」
何だその顔。そんな顔で笑ってんじゃねえよ、ふざけやがって。人の気持ちを何だと思ってんだ!
「…ふざけんなよ」
この訳のわからない状況に、下手な笑顔を浮かべる千歳の姿を見せられて俺はボソリと呟くと堪らず飛びつくようにその体を拘束した。背中に両手を回しがっちりと力に任せて。そして、背中に回した右手を腰、さらにその下へとずらしていく。
「ちょ、雄真っ!」
暴れる体を左腕で押さえつけ、右手は目指した場所へと到達し、すかさず鷲掴んだ。思いのほか柔らかい。
「きゃん!」
犬のような声をあげ霧のようなものでその体が覆われる。それでも俺は右手を離さなかった。そして霧が晴れると俺に尻尾を掴まれて宙吊り状態の白い狐に向かって言ってやった。
「千歳はそんな下品に笑わないし、こんな尻尾も付いてねーんだよ!」
『…真、雄真!おい、しっかりせえ!』
ハッとして目を開けるとそこは稲荷神社本殿前で、手を合わせている俺のシャツの裾にユエが取り付いて呼んでいた。
『まったく、魅入られよって。ここの神の使いだろうが、こう幾重にも隠されては我でもどうも出来んよ。だが、自力で戻ってきたのお、良くやった』
「隠されてって、俺ここから消えてたのか?」
『ああ。ふっと消されておったよ』
「マジかよ、、」
まさか狐にばかされる時が来ようとは。そういえば、稲荷神社の鳥居を夕方以降は潜っちゃいけないという話もあったなと思い出す。
「来るな、って言う時間に来ちまったから怒らせたんだな、きっと」
『いや、逆だ。雄真の事を気に入っておるから遊びたかったみたいだぞ』
「俺を気に入ってる?」
気に入ってるやつにあんな意地の悪い幻を見せるか?
『その目付きに同族とでも思われたのかもの』
「悪かったな、目付きが悪くて」
『くっくっ、嘘じゃよ、そう怒るな。良く来た、今日も来てくれた、と言っておったから前々から雄真にちょっかいを掛けたかったんだろうて。ここに着いた時はまさか雄真の事を言っておると思わなかったがの。今日は我もいて雄真に干渉しやすかったのやもしれぬ」
店を立ち上げてしばらくは色々と苦労していた。客が来ない時は開き直って車を走らせ、たまにここに立ち寄る事もあった。店が軌道に乗ってからも時間を見つけては来ていたからよく来る奴だと覚えられていたのだろうか。気に入って貰えるのは光栄だが、あんな幻を見せられるのはたまったもんじゃ無い。今後は勘弁して欲しい。
「遊んだって言うより遊ばれたって感じだったがな」
『人が驚いたり困ったりするのを見るのを楽しむ、悪戯好きな性質のようだからの。しかし、よう自分で戻って来られたの?』
「ちょっかい掛けて来たやつを捕まえたからかな?尻尾を出したから引っ掴んでやったんだが、神の使いに対して失礼だったかもな」
元はと言えば幻の意地の悪さが原因ではあるが。
『楽しかったとはしゃいでおるから大丈夫だろううよ。きっと神にもそう報告しよるよ』
「そうか。なら心配ないな」
ユエがそう言ってくれて少しホッとした。ユエのせいで俺は一瞬神隠しにあったが、ユエのお陰で神の使いに好かれてる事が分かった。ユエに振り回される一日だったが、ユエのお陰で休日が満喫出来た。
(今日はお宅の狐に遊ばれてやったんだ、店の売上げは頼んだからな!あと、また来るから)
俺は本殿に目をやり心の中で呟いた。
来訪地【竹駒神社】
日本三稲荷の一つ。おみくじも絵馬も御守りも、白狐様のモチーフが沢山で可愛いです♪
福神さまとして尊崇を集め、五穀豊穣・商売繁盛など多くの福徳を授けて下さるそうです
※霊験あらたかな場所ですので、お狐様に対して雄真のような失礼はダメ絶対です!!




