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車に戻る頃にはだいぶ俺は疲弊していて、避暑になるかとも思ってここを選んだのに全身汗だくになってしまっていた。その為、車内の熱気が解消するまでの間は辛かった。少しでもエアコンの効率を上げようと窓も全開にしてしばらく走る。ミラー越しにユエの様子を伺うと勢い良く吹き込む風を気持ち良さそうに浴びている。なびく髪は昨日よりも輝きを増して見えた。
今日の本来の目的地である神社に到着し早速本殿へと参拝に向かう。参道の途中には元は手水として使われていたと思われる水穴に色取り取りの花が浮かべられ参拝客の目を楽しませてくれていた。感染症対策が日常に浸透し、神社の作法も昔とは変わって来ている。参拝前の清めはここの神社では花の浮かぶ手水舎の前で詞を唱えて済ませる様式だった。
『手と口は洗わぬのか?』
千歳と既に数箇所の神社を訪ねているから作法は知っていたのかユエが聞いて来た。
「ここではあの看板に書いてある詞を読めば良いらしい」
『言葉で穢れを祓うか、興味深いの』
ユエに答えてから俺は手を合わせ手水舎に設置されている看板の清めの詞を読み上げた。そうしている間ユエも俺に習って手を合わせていた。
小川の上を渡す橋を渡り本殿へと到達する。作法を守り賽銭を納め手を合わせて目を閉じた。住所、生年月日、名前を名乗り、お参りさせて貰っている事への感謝を伝えユエの力の回復を祈る。
『千歳もだったが、随分長く神と対話するのだな』
「別にこれくらい普通だと思うが」
住所氏名を伝える奴は多くないかもしれないから、それに比べれば長いかもしれないが。
『本にここの神々が羨ましいよ。人の子らから訪ね、こんなにも熱心に話掛けて貰えるのだからの』
本殿を離れ境内を流れる小川を眺めながらユエが言った。
「ユエに話しかける奴はいないのか?」
『おらぬよ、誰も。我が不浄を纏い離れている間は帰還を求める叫びなら聞かせてくるがの。居なくなってやっと我の存在を思い出しよる』
千歳からユエが何をしてここに来たかは聞いていた。普段はどのように不浄とやらを祓っているのかも。ただ一人で水の世界でじっと命が上げる叫びを聞いているんだ。想像するだけでも恐ろしいし、不憫に思えてならない。気が遠くなるほどの時間をそうやって来たのだろう。ユエがとった行動も恐ろしいが少しだけ理解出来てしまう。
「戻ったら、ユエから声を掛けてやったらいいんじゃないか?」
『出来るわけ無かろう』
「なんでだよ、俺たちにはこうして声を届けているくせに」
『雄真も始めは我の声に驚いたろ。あちらでは我は畏怖される者、雄真の時以上に驚かし恐がらせる。それに神から話掛けるなどあってはならぬのだ。理に反する』
俺は神様ってのも融通が利かないもんだと呆れてしまう。
「神様なんだからそんな理なんて好きにしちまえば良いんじゃないのか?それに、世界中の命はユエ自身でもあるんだろう?」
『ああ、我の命達であり、命達が我だ』
ややこしい言い方をしやがる。小難しく考えるから、頭が硬くなるんじゃないだろうか。
「人は自分とも対話するもんだ。ならユエと話すのもありだろう。そりゃ、急に頭に恐怖の大王の声がすりゃ恐いかもしれないが、それは自分自身を恐れるようなもんって事だろ。所詮自分ならちゃんと対話すれば恐れすぎる必要がないと分かるだろうし、ユエが教えてやれば良いんだよ。導く者って役割を忘れちまってないか?」
ユエの事を聞かされてから思っていた事を俺は口にした。ユエが一人で耐え、戦わなきゃならないのが許せないような気がしていたんだ。まだ未熟な命達なら時に諭し、行くべき道を示してやったって良い。ユエの存在を恐れながらも身近に感じさせれば良いじゃないかと思ったのだ。
「この世界の神様達だって昔は人に啓示やらを授けてたんだ。時にはその姿を見せたりしてな」
神社にはそこに社を建てた理由やそこの神様についてなどの詳しい由緒がよく示されている。岩が自分を祀れと言ったとか、塩の作り方を教えた神様だとか。数多くの神話にだって人と神の交流が描かれる事だってあるのだから神様が人に干渉しても良いって事だと解釈出来る。もちろん、干渉のしすぎは駄目だろうが。
「その啓示や神様の教えを守らなければ最悪の事態になったりしたから俺たちの先祖は神様を恐れ、感謝する事を学び、今もそれを守る俺たちがいる。話掛けて貰いたいならまずはユエから歩み寄ってやれよ」
まじまじと俺を見上げて聞いていたユエはふっと相好を崩した。
『我の怠慢を指摘されるとはの。くっくっ、我もまだまだよの。人の子に気づきを与えられるとは』
「ふっ、感謝しろよ?」
『調子に乗るでない』
ユエが自分の世界へ帰った後もこうして憎まれ口を叩き合える存在に出会えますように。背にした本殿にそっと心の中で祈りの言葉を追加させてもらった。
それから駐車場へと歩き出す俺の後にユエは続いた。社務所前には今年の吉報位や厄年の表、五行についてなどが示されてた。五行で考えればユエは金だろうか、金髪だしなんて考える。水が力を増やすってのもそれに当てはまる気がした。本読みなため無駄に雑学を持つから目に入る情報から色々と考察する癖がある。いや、夢みがちな話に付き合わせる千歳の影響かもしれない。
『何をしておるのだ?甘酒はあっちだぞ』
表に視線を向ける俺の手をユエが引いて来た。そういえばここに向かう途中で通過した休憩所の看板に甘酒の写真を見つけてユエにねだられていたのだった。ここに来て更に艶を増したユエの髪を撫でてやる。
「ああ、そうだったな。腹も減ったしなんか食ってくか」
立派な藤棚や庭園を有するこの神社は春に花まつりが開催され見事な藤と咲き誇る牡丹を楽しむ事が出来る。それにちなんで休憩所には藤や牡丹をモチーフにした蕎麦や飲み物が提供されている。昼も過ぎ腹も減っていたため俺は蕎麦とユエには蜂蜜入りの甘酒を注文しそこで休憩してから最後の目的地へと車を走らせた。
来訪地【金蛇水神社】
名前からも分かるとおり、金運のご利益がある神社です!境内の蛇石をお財布で撫でるのも忘れずに!!
併設の参道テラスではお土産や食事が楽しめます(^^) 春の花祭り期間は見事な藤と牡丹が楽しめるので特にオススメです♪




