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毛玉さんの言葉は衝撃的だった。本当に、世界を滅ぼそうとしていたのだ。まだ赤子と表現しているが我々人間にすれば膨大な時が経っているはずだ。人の持つ醜さをその途方もない間見続け辛かったのかもしれない。でも、ここに毛玉さんが居るという事は毛玉さんの世界はまだ存在している。やっぱり、ギリギリで不浄を祓ったのだ。でも大きくなり過ぎた不浄だったから世渡りをする程の力が残らなかった。
「そんな顔しないで。結局見捨てられず無茶しちゃうくらい大切にしてるじゃないの」
慰めるように柔らかな体を撫でた。何処ぞの神様に当たる存在に失礼かとも思ったが、この数日散々撫でまくってるのだから今更だと開き直る。
『もっと早く救ってやれば良かったと時空の狭間を彷徨いながらずっと後悔しておった。もう見守ってやれないかと思うと辛かったなんて、情け無い話よ』
肩を落として毛玉さんが言う。丸い毛玉さんには肩はないのだけど。
「本当に大切に思っているのね。でも憧れの地球に来れたのだからとりあえず良しとしたら?未熟なあなたを見兼ねて、地球が招待してくれたのかもよ?開き直って、しっかりこの地球を堪能して元気になっちゃいましょ」
『この世に招かれたか、そうかもしれぬな。』
そう言った毛玉さんの表情は少し明るくなった。
『きっかけがどうであれ、前を向こうとするその思考は素晴らしいと思う。今さら落ち込んでいても仕方ない。チトセの言うように開き直るのも悪くないやもしれぬな』
「名前、覚えててくれたのね!呼んでくれないから忘れちゃったのかと思ってたわ」
『我は忘れぬよ、何も。して、何故ずっと我を毛玉さんと呼ぶのだ?』
そう言えば名前が分からないから勝手にそう呼んでいたけど、会話にも自然と出してしまっていた事に気づく。
「名前が分からなかったから見た目に合わせてそう呼んでしまっていたの。不快にさせてたならごめんなさいね。良かったら名前を教えてもらえる?」
聞いてから神獣などの類は名前って軽々しく人に教えないんじゃないかと思い至り、拙かったかと若干焦ったが毛玉さんは気にする様子もなく言った。
『ゴルトアウルムクリューソスだ』
「長いわね」
『くく、素直だな』
「ああ、ごめんなさい。えっと、良い名前ね!ゴル…なんでしたっけ?』
私の失礼に気を悪くするでもなく好きに呼べと言ってくれた。
『しかし、毛玉というのは無しだ』
「えー」
可愛いから良いじゃないかと思ったのだが、不服だったようだ。しかし、実名をもじるのもなんだか失礼な気がする。真名には力が宿り、妖の類はそれを奪われれば力を失ったりする話もあるし弱ってる毛玉さんはまるで別の名前で呼んであげた方が良いかもしれない。でもそうなると、いくつかの不安もよぎる。
「本当の名前とは別の名前をつけても、私の力、というか魔力…は持ってないから、例えば生命力とかは奪われない?」
名付けの度にしぼんでしまうあの有名なスライムさんの様な事があっては困る。
『千歳から何かを奪うなどという事はせんよ。神水はこれからも所望するが』
私が命を削る恐れはないと。それとお酒を買い足す必要もあると。
「名付けによって、あなたを私が縛りつける、なんて事にもならない?」
よく異世界のご令嬢が森で見つけた小動物に名前をつけたら凄い魔物で従者契約がうっかり結ばれるなんてのもよくある話だ。毛玉さんは自身のいるべき世界に帰らなければならないのだから縛りつける訳にはいかない。毛玉さんと既に呼んでおいて今更の心配だが、毛玉さんは毛玉さんを認めていないのだから平気だっただけかもしれないし、念には念をだ。
『そんな事にもならんよ。チトセに特殊な力があってそれを行使した名付けでないのならだが』
「安心して。特殊能力なんて持ってないから。じゃあ、そうね、、、」
見た目から着想を得ようと見つめるが、金色の毛玉にしかみえない。毛玉でないなら満月の様でもある。
「ユエ」
『随分と短いな』
「月という意味よ。お月様みたいにも見えるし、出会った夜も月が綺麗だったし。あなたの世界を見守り、寄り添い、身を呈して守る姿は月に似ていると思ったの」
『そうか。では今日から我はユエと名乗ろう』
「ここにいる間だけで良いからね」
『いや、ゴルトアウルムクリューソスは我が世界の名だ。千歳の言う地球と同じで、我自身の名とは呼べぬだろう。それに気に入ったからずっとユエでいたいと思う』
実は私の好きなキャラクターの名前でもあるのだが、毛玉さんがそこまで言うほど気に入ってくれたのなら嬉しい。
「じゃあよろしくね、ユエ」
『ああ、宜しく頼む』




