第72話 ファミレスで上の空
こういうメンタル描写は大事。
千世と師走は市役所を後にしていた。
その後は普通に寄り道せず、真っ直ぐ帰っても良かった。
しかし今日はそんな気分じゃない。
全身をジットリとしたモヤモヤが雲のように覆い被さっている。
そんな感覚が二人を取り巻いていた。
だから一旦何処かで休むことにした。
丁度近くにはファミレスがある。
そこに立ち寄って、今回の反省会をしてみることにした。
「とりあえずドリンクバーを頼もっかー」
「うん」
千世と師走は禁煙席に座った。
タブレットを使って注文する商品を決めると、ドリンクバーを頼んだので、揃ってドリンクを入れに行く。
今の時代、法改正などもあり、こうしてタブレットなどで簡単に注文できるお店が増えたので楽になったとは思うが、そんなことは如何だって良い。
千世は適当にメロンソーダを入れる中、師走は複数を混ぜ合わせていた。
こんな状態でも自分は相も変わらない。
そんな姿を見届けた。
「師走、そんなに入れて美味しいの?」
「うーん」
「ごちゃ混ぜ、だよね? 味、分かんなくならない?」
「まあなるよねー。でも、美味しいから良いでしょ?」
師走は超ポジティブに返した。
そんな師走のことを悪く言うわけもなく、千世と師走は席に戻った。
それから一口飲む。
口の中が炭酸で一杯になる。
シュワシュワ感が丁度良いけど、千世は「ふぅ」と息を吐いた。
「生き返るねー」
「そうだね」
千世は師走に相槌を打つ。
しかしジト目になられてしまい、「千世ー」と言葉を伸ばす。
「なに?」
「千世、すっごく気にしてない?」
「何を?」
「もう、千世は分かってるくせにー」
師走は千世なら見透かしていると気が付いていた。
正直に言えば、今の悩みはある。
しかし千世は如何にもならないことだって知っていた。当然師走もだ。
「さっきお金貰ったよねー?」
「うん。貰っちゃったね」
「やっぱり気にしてるんだー」
「師走は気にしないの? 小切手をまた貰って……ねっ?」
鞄の中には小切手が入っている。
後で現金に変えないと駄目だ。
受け取らないと、市役所にも迷惑になる。
千世は正直、今回の分は貰うのは嫌だった。
「大金は大金だけどさ、金は金でしょ? 私達は正当に頑張ったんだから、その報酬として貰ったって感覚でいようよー。何も悪いことしてないんだし、クリーンなバイトだってことにしてさー」
「凄い神経だね、師走って。私、そんな風には考えてなかったよ」
師走はかなりストレートな形を取った。
しかしながら千世はそうはなれない。
これは性格的な問題だけど、千世には少し楔がある。
だって、後ろめたいとかじゃないけど、貰っても良いのか如何か。個人の判断ではあるが、千世はやっぱり受け取り辛かった。
「でも、浮かばれないよね。きっと」
「ん? 死んだ人達? それはそうだろうけど、勝手に行ったのが悪いんじゃないかな?」
「うっ、結局は自業自得ってこと?」
「ダンジョンは何が起こるか分からない場所だからねー。千世だって、飲まれるなって言ってたでしょー?」
千世の言葉を軽く撫でる形で引用した。
千世は言葉を発せなくなる。
しかし思う所はやはりあった。
(師走は全く気にしてない。凄いな、私にはなかなか無理だよ……多分)
言葉を発さずジュースを飲む。
すると師走は首を伸ばして、顔を近付けた。
「ねぇ、千世。またダンジョン行こうよー」
「えっ!?」
千世は師走の誘いに驚く。
声が裏返ってしまい、師走もびっくり。
「如何したの千世?」
「えっ、急、急にそんなこと言わないでよ」
「何が急なのさー?」
今の千世の心はしんみり。
それにかなりの毒素を孕んだ言葉に、千世は動揺してしまう。
「もしかして、気にしてる? そんな調子じゃ本当に飲み込まれちゃうよー?」
「そ、そんなこと言われても……ダンジョン、また行くの?」
千世は逆に聞き返す。
すると師走はコクコクと首を縦に振る。
如何やらその気らしく、むしろ俄然やる気を燃やしていた。
「あったり前だよー。だってさ、今回は油断したけど、今度は上手く行く気しかしないでしょ?」
「本当に死んじゃうかもしれないよ。もしかしたら、もっと怖いことだって、あるかもしれないよ?」
千世は尋ねた。
だけど師走は「それが良いじゃんかー」と愉快そうに笑う。
「私にブレーキなんてないよ。やりたいことをする。千世もそう言ってたでしょ?」
「えっ?」
「ほら、魔石が光った時に叫んでたの、薄っすら聞こえたよ。だからさ、千世は如何したいの?」
師走の目が千世のことを凝視する。
千世は喉を詰まらせそうになる。
圧迫感を少しだけ感じたが、千世は動じたりはしない。だけど——
「如何したら、良いのかは、まだ、分からないよ」
千世は辿々しかった。
それはまだ未定の証拠で、「迷ってるなー」と師走は頬杖を突きながら、ジュースを飲む。
完全に上の空になった千世。
その表情には迷いがあった。
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