第68話 勝利の余韻……1
1と書いてありますが……
カベトカゲを倒した。
体が粒子となって消えていき、ダンジョンへと吸収されていく。
記憶や新しい命として変換される。
そんな生々しい感情が、ダンジョンの中で渦を巻いていた。
しかしながら千世にはそんなことは関係ない。
勝利の余韻。それに酔いしれるわけでもなく、光が収束し、その後の空虚な時間の中に居た。
「ん?」
爪先に何か当たる。
視線を下に向けてみる。
千世の足下には大きめの石が転がっていた。
「コレって、魔石?」
その瞬間、完全に我に返った。
千世の意識が元に戻り、カベトカゲを倒したと言う勝利の余韻を感じる前に、アワアワと慌て始める。
「えっ、あれ? カベ、トカゲ、は? もしかして、私が倒した? いや、ないないないない! さっきのはその、きっと、ねぇ?」
とは言え倒した感覚は実際に残っている。
記憶もあって、偽りではない。
だから千世が無事にカベトカゲを倒し、勝利に終わったのは、言うまでもなかった。
「わ、私が、私が倒したの?」
「ほうたよー、千世。私みてたからー」
師走が走ってやって来る。
地面を蹴り上げ千世の前にやって来ると、千世とハイタッチするべく手のひらを差し出す。
「はい、千世ー! ハイタッチ、ハイタッチー!」
「あっ、うん」
「イェーイ!」
千世と師走はお互いにハイタッチを交わす。
パチーン! と高らかな音が鳴り響くが、流石にお互い汗びっしょりだった。
「千世、凄い汗だよ。しかも冷や汗」
「し、師走もだよ。師走は、疲れ汗?」
「なに、疲れ汗ってー?」
「ぞ、造語だよ。気にしないでよ!」
千世はついつい感情が昂って怒ってしまう。
しかし師走は少しでも明るく振る舞おうと、必死で笑ってくれた。
「あはははは! まあいいじゃんかー。それより倒せたんでしょ?」
「う、うん。倒せたの、かな?」
「倒せた倒せた。私見てたから間違いないって……千世、何持ってるの?」
師走は千世が手に持っている石ころに興味を抱く。
見たところ魔石だとすぐに気が付き、興奮の色を隠せない。
「すっごい。結構大きめのサイズ間だねー」
「うん。ずっしり来るよ」
「本当? 持たせて持たせてー」
千世は子供のようにはしゃぐ師走に魔石を手渡した。
無事な左手の中にスッポリと収まる。
千世はその瞬間、師走の左手の中に残った小石の欠片や破片がチラついた。
如何やらずっと見守ってくれていたらしい。
「師走、ずっと何処に居たの?」
「えっ、何処にって?」
「だって、その手……」
千世は師走の手を指差す。
気にされたことで気が付いたのか、「あー」と眉根を寄せて呟く。
「まあね、ずっと天井に張り付いていたから疲れちゃった」
「そっか……えっ、ちょっと待って。冷静に考えたら、それってとっても大変なんじゃ……」
「まあねー」
千世は顔が青ざめる。
自分がやってことも大概だけど、師走のしたこともヤバい。
だってずっと天井に居たなんて。想像はしていたけど、可能だったとは思わなかった。
「凄いね。よく、できたね」
「まあねー。っていうか、張り出した岩に乗ってただけだけどー」
「そ、それも凄い気がするんだけど……」
いくら張り出した岩? の上に乗っていたとは言え、よく耐えられた気がする。
やっぱり師走の身体能力は著しく高い。
千世は心強い反面、度肝を抜かされてしまった。
「でも、カベトカゲも倒せたしさー、これで良かったのかもねー」
「そ、そうだね。きっと、良かったよね?」
正直、喜びからはしない。
勝利の余韻が慎ましく流れて行く。
それから一呼吸。
これは今日はお終いかな。千世は胸を撫で下ろしたものの、師走がとんでもないことを口走る。
「でもさー、なーんか、物足りないよね?」
「も、物足りない?」
師走は腕組みをし始めた。
そろそろ帰る雰囲気が出たと思ったのに、反応が全然違う。まだまだ足りないらしい。
「えっ、帰るんじゃないの?」
「せっかくここまで来たからねー。もう少し、うーん」
頭の上に秒読みカウントが発生。
黙ったまま目を閉じて考えているみたいだが、千世は気が気でない。
そんな中、師走は答える。
「そうだー!」
急に師走が閃いたみたいで、腕組みをしていた腕を振り上げ、顔を上げた。
千世はあまり聞きたくはないけれど、一応聞いてみる。
「えっと、何がそうなの?」
師走に尋ねた。
すると振り返って暗闇を覗く。
「カベトカゲも無事倒したしさー、せっかくだからこの奥まで行ってみようよー!」
「えっ?」
千世は言葉を失う。
正直、千世の体力は残っているけど、達成感に満たされつつあるので、これ以上の冒険は望んでいない。
しかし、師走は超が付くほど余裕。
だからだろうか? 右手がこんな状態なのに、ニコニコ笑顔で楽しそうにしている。
「せっかくここまで来たんだよ? 危険なものがあったらすぐに引き返せばいいんだからさー」
「そういう問題じゃないと思うんだけど」
千世は最悪を想定して行きたがらない。
でも師走は聞いてくれない。踵を返すと、暗闇目掛けて駆け出す。
「それじゃあ行ってみよー!」
「ま、待ってよ。私の話をちゃんと聞いてよー!」
師走が行ってしまうので、放って置けない千世と急いで追いかける。
とは言え【危険予知】が発動しないから、多分安全なんだけどね。
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