第67話 意識の内側と外側
今回は千世目線で見てみましょう。
千世は不思議な体験をしていた。
(あれ?)
千世は自分の身に何が起きたのか、良くは分かっていない。
しかし何となくだけど、いつもとは感覚的に何かが違う。
漠然としたもので、何かとは言えない。
ただ一つだけ、千世の視界がとっても広く、そして明るく見えた。不思議だった。
「何で、こんなに明るいの?」
ポツリと呟く。
しかし自分にしか聴こえていないようで、これまで不思議だった。
意識がとっても集中されている。
頭の中がスッキリしていて、洞窟内なのに美味しい山の空気でも吸っているみたいに心地良かった。
心に余裕がある。
胸の内側からやりたいことをしろと訴え掛けられるみたいで、熱い高鳴る感情と冷まそうとする冷静な感情がひしめき合う。
「凄い。これが私なの?」」
自分の手のひらを見つめる。精神が一変して、空虚な自分を捨て去った。
ひとまずぼーっとしてしまったが、ふとした瞬間警告サイレンではなく、バチッと電気が流れたみたいに意識が掻き立てられた。
(何が来る……)
ふと背後に感覚が飛ぶ。
頭の中に何がいるのか、何が浮かぶのか、その全てがはっきりと視えてくる。
「当たらないよ」
背後に居たのはカベトカゲ。
舌槍を突き出して攻撃してくるものの、素早く躱した。
(行ける!)
「そこっ!」
最初の動きで見事に躱す。
そこから攻守交代。
素早く拳を叩き込むと、体重移動も相まってクリンヒットした。かと思いきや、カベトカゲは思った以上に怯んでいない。
ほんのちょっとだけ、ほんのちょっとだけダメージがあるらしかく、怪訝な顔をされた。
(攻撃力はやっぱりないんだ。それじゃあ今度は!)
千世は何がしたいのか素早く理解。
カベトカゲの動きが全て分かる。
頭の中がスッキリとクリアになっていて、気持ち悪いくらい全て視えてしまう。
しかも今までの【危険予知】ではない。
千世の頭の中には文字ではなく、映像が見えていた。
コマ送りに流れる映像で、そのおかげでカベトカゲの攻撃も何処に移動するのかも、全てお見通しになった。
「そりゃあ! それあっ!」
カベトカゲが攻撃するのに合わせて、最初の動きで身を逸らす。
コンパクトな動きにカベトカゲと翻弄され、体重移動を武器にして、千世は拳を振り上げて、パンチを繰り返す。
一発一発が軽い。だからダメージにはならないけど、繰り返せばもしかして……と思ったのも矢先、カベトカゲの粘液が服の袖に付き、ダメージが蓄積される前に、距離を取らざるを得なくなる。
「これじゃあいつまで経っても倒せないよ!」
千世は心の底から訴える。
しかしカベトカゲも千世の実力に気が付いたのか、ただの捕食者の目から、本気で殺しに掛かる。
「飛び掛かられる……それなら!」
千世は珍しく逆手に取ることにした。
剣を鞘から引き抜くと、徐に構えを取った。
剣身を煌めかせ、切っ先を突き付ける。
まるで勇ましく魔王に立ち向かう勇者の風格だが、その実は小心者。自分から仕掛けるわけでもなく、ただ受動的に待ち構えた。
「如何するの?」
千世はらしくもない挑発を仕掛ける。
カベトカゲは沸々と千世の内側から溢れ出る殺気混じりの気配を敏感に感じ取った。
一歩ずつ、ゆっくりと後退。
カベトカゲは千世から距離を取ろうとする。
(あっ、駄目!)
距離を取られたら勝てない。
千世は理解していたので頑張って動きでカベトカゲを縛る。
すると何かが功を奏したようで、カベトカゲは立ち止まり、そのまま睨めっこ大戦が続く。
(こ、怖い……でも、負けない! 負けられない、私は勝つんだ!)
心の中で念じた。
すると思いが通じたようでカベトカゲ飛び掛かる。
「来たっ!」
一発勝負。ここで外したら次はない。
千世は怖い賭けに出ると、剣を手放す。
唯一のまともな武器を捨て、空中に投げ出すと、そのまま【危険予知】で側面に回り込み、カベトカゲを押した。
「そりゃあ!」
カベトカゲの体が飛んで行く。
押し出されたカベトカゲは我を忘れ、何が起きたのか、体液を出す手前で忘れてしまう。
しかし、事態はその刹那に終わる——
グサリ! と嫌な音が鈍く響き、カベトカゲに剣が突き刺さったことを物語る。
するとカベトカゲはうつ伏せで倒れると、動かなくなる。
「倒せた?」
千世は茫然自失。
自分の中で手応えがあるのに、胸の中に仕舞い込んだのに、理解が追いつかない。
だけどカベトカゲの体は粒子となって消えていく。
ポワポワと白い粒が空へと舞う。そんな感覚。そんな景色。
千世も攻撃を喰らわせた? ような錯覚もある。
ただ押し出しただけにはっきりとしたものはないが、それでも自分が決めてとなったのは言うまでもない。
「変な感じ。でも、嫌な気はしないよ」
これが千世の体験した不思議な感覚。
目の前のことにだけ集中し、他が一切気にならない。
ただ頭の中がクリアに働き、ノイズが発生しない自分だけの世界。まさにそれを体現したようだ。
例えるならゾーン。超集中状態の中、感応性、万能性、そしてやや身体能力が上がり、能力まで強化されたと受け取った。
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