第66話 ここで待ちですか、千世さん!
とんでもない作戦キタァ!
「はっ!?」
師走は発狂した。
もちろん自分のしたことではなく、千世のとんでも戦法に度肝を抜かされた。
「ちょっと待ってよ、千世。いや、千世さん」
ついつい敬称を付けてしまうレベル。
ここで千世が取った戦法。
きっとみんな同じことを思って、口をあんぐりと開けると、師走は思う。
だって——
「来るなら来ていいよ」
千世は剣を構えて待っていた。
ただただカベトカゲから攻撃して来るのを全力で待っていた。
新しい剣を構え、カベトカゲを目の前にして突き付ける。
鋭い剣身の先端。切っ先が、カベトカゲを睨み付ける。
「ここに来ての待ち。まさかの待ちの姿勢……あはは、はは」
師走はついつい笑ってしまった。もちろん乾いた笑いで、目は死んでいる。
だってこの土壇場。
例えるなら幕が上がった瞬間、舞台の上に立つ二人は睨み合い、勝負を決しようとしている。なのに、一方は待ち。それに乗ってくれるとは、流石に思えない。
にしても一番馬鹿げているのは、それが逃げも隠れもしない武士道スタイルだったこと。
本来の千世ならこんな真似、絶対にしない。
ビビってしまって逃げ腰になり、隠れてしまう。
しかし師走の視線の先に居た千世は違う。
大胆不敵とかそんな言葉が似合うようなことはしていない。無論逃げ腰のままだが、その逃げ腰姿勢を上手く使い、カベトカゲ相手にも互角以上に渡り合っていた。
だけど今の千世の動き。
明らかに打つ手が無くなったので仕方なくやっている様に見える。
明らかにそうで、考えがない。ようにしか見えない。のだが——
「何でだろ。すっごく余裕そうに見える」
まるでこうなることを始めからすると読んでいたみたいに堂々としている。
しかもカベトカゲがこんな見え見えの罠に飛び掛かると確信している。
そんな風にしか見えなくて、師走は胸をギュッとさせられる。
「勇しくはないけど、カッコいい」
師走はポツリと呟いた。
いつも見ている千世とは違い、やっぱり興奮してしまっていた。
「頑張れ、千世!」
声を張り上げて応援する。
やっぱりと言うか、きっとこの応援は千世には聴こえていない。それだけは伝わる。
だって瞳孔がこっちを向かない。
目の前の敵にだけ集中し、脚が震えるわけでもなく立ち尽くしていた。
「それで、如何するの?」
千世はカベトカゲに語り掛ける。
明らかに余裕を見せている。
カベトカゲもモンスターならではの直感が働いたのか、ジリジリと一歩ずつ後退。ここから再び背後を取り、仕掛けようと算段を立てているように窺えた。もちろん、千世も頭がクリアに働いているので、気が付いている。
でも、こっちからは無駄に動かない。
(私は動かない。動かなくてもいいから……だから)
千世は剣を構えたまま威圧感を放つ。
いつもの千世からは信じられないほどの威圧感に、カベトカゲも正気ではいられない。
本来なら立場は逆転しているはずだ。
しかし今は、今だけは何故か、千世の方に有利がある。
完全なる有利対面。
千世は表情を変えることなく、剣を突き付け続ける。
「このまま行ける……よね?」
千世は自分に語り掛ける。
すると押し問答もなく、カベトカゲは威圧感に負け、痺れを切らすと突っ込んでくる。
得意の不意打ちも今の千世を前にしては無意味。直感が本能を超え、カベトカゲを前進させた。
「来た!」
千世は余裕だった。こうなることも想定済み。
頭の中に浮かぶ映像と照らし合わせ、全く同じ挙動だったので、やることは当に決まっていた。
シュパッン!
カベトカゲはお得意の舌槍を突き出す。
真っ赤な舌が槍のように千世へと飛ばされる。
当たったら貫通してお終い。
だけど千世はギリギリまで待ってから、【危険予知】を使って余裕で躱す。
「ほいっ!」
千世は意味なく剣を手放した。
馬鹿な真似をしているとしか思えない。
だけど千世の行動。全部意味があった。
「そこっ!」
ただ躱すだけじゃなかった。
カベトカゲの側面に移動し、そのまま勢いに任せて手を伸ばす。
決まれば完璧? 失敗したら終わり?
そんな危険極まりない賭けを、本来なら危険なんてサラサラごめんなはずの千世がやってのける。上手くいく保証? そんなもの、千世には既に視えていた。
グサリ!
千世はカベトカゲを軽く押すと、そのままの流れに任せて剣に貫かれる。
痛々しい音が響き、千世は苦言を呈して歯を強く噛む。
パタリ!
カベトカゲはは倒れた。
うつ伏せのまま動かなくなると、ジワジワと体液が漏れ出して、その体が薄くなる。
「ふぅ」
千世は達成感にやや満たされる。
それから直感的に肌を貫くような激しい敵意を感じなくなると、剣を鞘へと納める。
今回は折れていない。
流石は千世のお母さんが使っていた代物。
並の耐久力ではなかった。
「倒した……」
師走はポツリと呟く。
正直、目を見開いたまま固まってしまった。
とは言え勝ったのは事実で、立っていたのは千世だけ。
気が付けばカベトカゲは絶命していた。
体を粒子へと変換させながら、その存在は洞窟の中から、薄っすらと消え去った。
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