第65話 虹の輝きで無双する
いよいよ主人公力発揮へ!
ピッカーン!
キラキラと眩しい閃光が上がった。
千世の姿が何故か虹色の光を纏っている。
それだけではない。髪や目の色にまで反映していた。
首から下げるクリスタル。
一段と鮮やかに輝いている。
如何やらクリスタルに反応して、千世の体も輝いていると、誰が見てもすぐに察しが付いた。
ましてや天井に指と足の力だけでしがみついている師走にも伝わるレベル。
洞窟内を明るく照らし、その存在感を確立した。
「アレは……千世?」
何で光っているのか。何で動かないのか。
さっぱりな部分が多い。
しかしながら師走の視線を釘付けにしてしまう千世に、何故か胸を踊らされた。
高鳴る高揚感が心臓をバクバクと掻き鳴らし、派手なビートを刻み出す。
「何コレ。千世に惹かれる……えっ、何でだろー」
感情が昂って仕方ない。
ついつい首を伸ばしてしまうと、そうも言っていられなくなる。
千世の背後。この光を忌み嫌うみたいに、奇襲攻撃を仕掛けるカベトカゲな姿が光によって憐れに露見する。
「千世っ、危ない!」
師走は咄嗟に叫んだ。聴こえるかは分からないけど、気付いて欲しかった。
しかし千世は最初から気が付いていないみたいに、背後から迫るカベトカゲをスルリと躱してしまう。
「グキャァ!?」
カベトカゲも困惑気味だ。
一方の千世はと言うとスルリと最小の動きだけで躱し切ると、その隙を逃すはずもなく軽い拳を叩き込んだ。
「そりゃあ!」
千世の拳がカベトカゲの顎にクリンヒット。
しかもちょっぴりだけダメージがあったのか、カベトカゲは困惑する。
だけど全然威力が無い。威力が無さすぎて、音も軽くカベトカゲへのダメージも小さな小石が足の裏に突き刺さった程度で、首を捻るレベルに収まった。
「ああ、やっぱりダメだ」
千世はポツリと呟いた。
しかしながらここで弱音を吐くような真似はしない。
事実を口走った程度で、千世はすぐに切り替える。
あまりにも切り替えが良すぎて、師走は目を疑う。
「でも、繰り返せばいいよね?」
千世の口からそんな言葉が出る。
師走は小さくだけど、それを耳にしていた。
「嘘でしょ」
師走は言葉を失った。
あまりにも普段の千世らしくない。
冷静さが極まり、その中で沸々と高揚感が湧き上がる。こんな千世を見たことがないのだ。
しかしそれ以上考えるのは止めた。
今できること。それは戦闘に加わるorここで静観するかの二択だ。
とは言え、ぶっちゃけ前者は厳しかった。
右手が封じられているので、この先の戦闘に加わる前に満足に動けないのだから仕方ない。
「私ができることは……ここで静観することだよねー」
師走は戦闘に加わりたい気持ちを抑える。
天井に張り付いたまま、千世が勝つ瞬間を祈る。ただ、目の前の千世は凄かった。
カベトカゲ相手に一歩も怯まない。
軽くあしらうような動きでカベトカゲの攻撃を回避し続ける。
スルリスルリと最初の動き。
あまりにもコンパクトにまとまった動きは、途中で踵を返したり、爪先から踵まで体重を変則的に移動させる。
そのおかげでカベトカゲを翻弄していた。
こんな真似、師走にはできないと思う。
「凄い千世。しかもこのテクニックを教えたのが千世のお母さんなんて……どっちも凄い。性格はあんなに違うのに、今の千世はそれを完璧に使いこなしてる」
前に千世に聞いた話を聞き齧りながら頭の中で整理した。
素早く身を逸らし、カベトカゲを軽くいなす。
しかもいなすだけでは止まらず、そのまま拳を振り上げて、細かく連続パンチを決め込む。
「凄い千世。ここまで一発も喰らってない」
千世は最強だった。
ここまで一撃も喰らわず、回避特化の力を存分に発揮する。
師走は冷や汗を掻いた。
きっとこのままダメージレースになれば、千世にも勝機は大きく生まれる。
しかし困ったことに体力勝負とか、ダメージレースのレーティング的にも、かなりアウェイではある。それだけはモンスターならではと言えた。
だからだろうか、千世は渋い表情になる。
「うーん。やっぱり私じゃ倒せないよ」
千世の心の声が口から吐露する。
ここまで何発ものパンチを浴びせたものの、まともにクリンヒットしたはいいが、ダメージがそこそこもない。
完全にカベトカゲを怒らせただけに終わり、このままじゃ勝ち目も見えない。
だからだろうか。
師走も苦悶の表情を浮かべてしまう。
「だけど、これじゃあ……ん?」
師走は固まってしまった。
いくら動きが良くなっても、千世だと単純なパワー勝負で負けて、カベトカゲを倒し切れない。
それじゃあ一体如何したら。
睨むような視線を送り続けると、あり得ないことになった。
千世は鞘から剣を抜いた。
それは分かるのだが、その構えだ。
カベトカゲから距離を少し取る。
攻撃が絶妙に飛んできそうな距離まで引き、剣を構える。切っ先を突きつけカベトカゲを脅すのだが、その光景はあまりにも歪。
何故なら千世のやっていることは自分から能動的に勝つための手段じゃない。
あまりにも受動的な作戦で、ここで決め込んだのがまさかの“待ち”の戦法だった。
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