第64話 クリスタルの輝きを
さあ、最後行くぞ!
「駄目だ。近付けない……」
ここに来て今までのベクトルとはまた違う方向からの問題に、千世は悩まされていた。
まさかのカベトカゲの大技。
それが見事に炸裂してしまい、打つ手が無くなる。
「近付けないんじゃ、何にもできないよ」
これはもう仕方がないこと。
そう割り切るしかないように思えてしまう。
カベトカゲは未だ見えない。
多分天井に張り付いている。
しかし張り付かれていてはこっちは何にもできないのだ。
ここに来て、遠距離武器を何も用意していないこと、千世が全くと言って良い程戦闘に役立たないなど、分かりきっていた粗が見えてしまう。
「如何しよう。この距離だと、師走の様子も分からないし……このままじゃ、防戦一方……ううん。多分、殺されちゃうよ」
千世は自覚した。
いくらシーカーアバターがあるとは言え、恐怖も精神への痛みも苦痛も経験も何もかもはそのまま残る。
生物としての死はあり得ない。しかしそれ以外の死はあり得る。
それが波のように千世の周りを取り巻くと、そのまま暗闇が押し寄せて、不安がよぎる。
とは言え、一つだけ逆転の糸口もある。
まだ諦める時間じゃないのは確かだ。
「残った武器は……閃光球が一つだけ。これで如何やって倒すの?」
正直一つでは心許ない。
だけど使えるのは後一回きりなのは本当で、これを逃すとチャンスは無くなり、未来は完全に閉じる。
「成功したら……でも、もし失敗したら? それに私の攻撃じゃ、まともにダメージにもならない。如何したら、如何したらいいの……」
目に涙が浮かぶ。
こうしている間にもピンチは継続されていて、いつカベトカゲが仕掛けて来るかも分からない状況。
防戦一方に加えて一触即発の状況が、千世の周りを覆い尽くす。
(怖いな……死にたくないよ)
千世はふと目を閉じる。
すると自分自身の心の声が良く聴こえた。
抑え込もうとしていたものが目の前に現れて、千世のことを感情で包む。
(だったら如何する? 逃げちゃえば良い。逃げるのは誰にもできる。恥じゃないもんね。一番の安全策だよ?)
心の中の悪魔の私が囁く。
そうだよね。悪いことじゃないもんね。それは分かるよ。分かるんだよ。
(師走なら大丈夫だよ。それに今の私がここに居ても何にもできないでしょ? 足手纏いでしょ? 私にはこのダンジョンは無理だったんだよ)
そんなの最初体分かってる。
だけど何でだろう。ここに来たこと、悪くなかったと思ってる。
(私は弱い。精神は強くても力はない。役に立たない。甘い考えではダンジョンでは生き残れないよ)
確かに私は弱い。そんなの周知の事実。
人が死んでる。面白半分じゃ絶対にないと言い切れる。
それでも私はここに来たことを悪いとは言いたくない。
(自分のことを見誤ってる。そう思わないの? こんなの私の望んだ展開じゃないでしょ?)
確かに私は自分の限界を知ってる。
見誤ってるとも思える。
本当は逃げましてしまいたいけど、心の奥底が疼く。疼いて仕方ない。
「本当は逃げ出してしまいたいよ。普段だったら、危険なんてごめんだからそうする。普段は成り行きで流されちゃうけどね……でもね、誰に言われても、本当にしたいことだけは、好きなことをして嫌いなことはしない。それが私、そんな風になりたい私、そうであるから私は……」
私は——
今だけは、逃げたくない——
結局、選択の余地はあった——
だけど私は、自分の足でここに来たんだ——
だから——
「だから、私、こんなところで負けたくない。死にたくない。みんなで、ちゃんと生きて帰るんだ!」
千世は思ったことをとにかく吐き出す。
空っぽになるまで、自分の気が済むまで、言いたいことを、心の中の自分の自問自答しながら口に出す。馬鹿げていると思われるはずだ。
(だったら如何したいの? って、もう決まってるよね)
精神世界の千世が呟く。
にこやかな笑みを浮かべると、千世は確信する。そんなこととは露知らず、モンスターは迫る。
ノッソノッソ、ゆっくり背後に何かにじり寄る。
そんなこと千世は気付きもしない。
【危険予知】が発動しているのに、感覚でもピリリと言っているのに、まるで気が付いていない。
ゆっくりと舌が伸びる。
千世のことを背後から、心臓を抉り取るみたいにだ。
今なら逃げれる。
だけど千世はそれをしない。
自分の意思で、【危険予知】の視せる未来を拒絶した。
「私には何もできない。攻撃する方法もない。それでも、それでも私は!」
強く念じた。激しく覚悟を決めた。
声を喉の奥から張り上げて、一瞬プツンと切れそうになった。
その瞬間、首から下げるクリスタルを手にしていた。その時だった——
ピッカーン!
急にクリスタルが輝き始めた。
まるで千世の感情のベクトルに呼応するみたいに鮮やかに、艶やかに、煌びやかに、千世のことを包み込む。
「な、なに!?」
眩い閃光。千世の姿を一瞬して包み込むと、これも同じく一瞬だけ千世の意識を掻き消す。
その瞬間、千世は不思議な体験をする。
感じたこともない感覚。それだけは伝わるが、それ以外には何もなく、気が付いた頃には閃光を放つクリスタルを首から下げ、髪と瞳が虹の輝きを千世は放っていた。
しかし本人には理解ができていない。
だって見えていないのだから。
見えていない千世。しかしそこに居るのは間違いなく、意識はしっかりとある千世だった。
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