第60話 酸が来るとは何のことですか?
意味不明なタイトル。
千世は上手く攻撃を躱した。
対して師走はあえて動かなかった。
何をしたいのか。千世は理解している。
「師走!」
とは言え心配する。
失敗したらそこまでだ。
しかし師走は怖気付いたりしなかった。
赤い槍が柔らかい形状に突然変化して、腕を絡め取られてはいたものの、そのまま単純に壁に叩き付けられる程甘くはない。
ましてや今回はこの間のイワガラヘビ戦とは一味違う。
【加速】をあえて使わず、無駄な抵抗もしない。
全身の筋肉を緩めて隙を生むと、そのまま流れと勢いで壁へと触れそうになった。
「師走、避けれるでしょ!」
千世がもう一回叫んだ。
すると師走は右足を後ろにする。
足な裏が壁に触れた。
「もちろん避けれるよー。でもさー、このチャンス、逃す手はなくない?」
師走はニヤリと笑みを浮かべる。
凸凹とした壁を蹴り込むと、そのまま赤い何かに絡め取られたまま、急速接近する。
引き戻す時の運動を逆手に取り、モンスターへと近付くのだ。
「こうしたら絶対にモンスターに一撃入れられるよねー」
師走は頭を使った。とは言えここまでが命懸けの賭けだった。
しかし自らの身体能力でそれを引き寄せた。
そのおかげか、師走はモンスターはと否応なく接近。天井近くまで引っ張り上げられると、拳を【加速】を付け、思いっきり叩き込む。
「そりゃあ!」
師走の渾身のパンチがクリンヒットした。
ネットリとした感触が肌を襲うが、それでもダメージは入ったはずだ。
自分の腕を巻き取っていた赤いもの。
スルリと師走の腕から離れると、師走は天井近くから落ちてくる。
訳ではなかった——
「いやいや、まだ落ちないってー!」
せっかく接敵した。攻撃を連続で与える機会を貰った。
上手くこのチャンスを活かそうと、再び攻撃に転じる。
まずは壁を伝って蹴り上げる。
【加速】を使い、モンスターへと飛び移る。
幸いなことにペタペタ音はしない。つまり動いていないので、攻撃は確実に当たる……はずだった。
(このまま上手く行けば……あれ?)
千世は首を捻る。
もちろん師走が倒してくれることを信じてはいたが、何故か全身を駆け抜ける不安。
師走が負ける? それはあり得ない。
だけだこれで倒せるほど、この洞窟のモンスターは甘くないと直感が叫ぶ。
だからだろうか?
千世は嫌な予感が過ぎる。
師走に声を掛けようとしたが、すでに時は遅かった。
天井で透明な何かが、薄明かりに反射してキラリと光る。何となく目のような気がした、まさにその時だった。
[酸が来るよ! この距離はマズいよ!]
(酸が来る? 如何いうこと……ん?)
千世は変な【危険予知】の文言に困惑。
しかしこの位置はマズいとのことなので、一歩身を引いて攻撃の範囲から遠ざかる。
そのことを師走にも伝えようとした。
しかしもう駄目だった。だって攻撃の姿勢に入っている。
「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
思いっきり壁を蹴り上げ、【加速】を使って接近する。
頭が下、足が上になっていて、もう避けられるような感じではない。
そんな中、モンスターは仕掛けてくる。
プシュ!
「な、何これ?」
飛び蹴りを喰らわそうとした師走だが、急遽予定を変更。
突然モンスターからの手痛い反撃を受けてしまう。
何か吐き出された。
ドロドロとした液体で、師走は避けられないと悟ったので、仕方なく右腕で咄嗟にガード。
最低限顔を守り攻撃を回避したのだが、反動で飛び蹴りが失敗し、地面へと落ち始める。
「くっ。これじゃあまた逃しちゃ……ん?」
師走の口が閉じた。
嫌な感覚がした。猛烈に腕が熱いのだ。
何が起きたのか一瞬理解が追いつかない。
しかし師走は暗闇の中ではあるが、自分の身に起きたことを理解していた。
「師走、如何したの?」
「千世、ちょっと離れててー」
千世も心配して声を掛ける。
だけど師走は千世を気遣うみたいに遠けてしまう。
何かあったのは確実。声音もいつもに比べて無理をしているのが伝わる。何があったのか。そう思って地面を見てみると、布が落ちていた。
「えっ?」
声も出なかった。
明らかに師走の着ている服の袖が一部破けていた。
人為的に破いた訳ではなく、むしろ溶けているように感じる。
「師走、足下のソレって……」
「何のことー?」
師走は苦しい言い訳をする。
足で上手く袖を隠したつもりだけど、色合いが違うので暗闇の中でも赤い部分が見えてしまう。
完全に溶かせていた。
もしかしたら今の[酸が来る]とはこのことだったのかも。
真っ先に標的になったのが師走だっただけで、飛び火して千世にも喰らっていたかもしれない。そう思うだけで冷や汗が流れるが、それよりも師走の身を案じる。
「大丈夫なの、師走!」
「あっ、あははははー」
師走は下手くそな笑いを浮かべる。
完全にやられてしまったようで、左腕しか見えないように千世へと配慮していた。
それでも尚抑えられないものがある。
師走は苦言を呈し、「腕が……」と唸っている。それを聞いて千世は何もできずに頭を抱えた。
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