第57話 映像を確認しようのコーナー
映像を確認しようなコーナー
「とりあえず、やれることをやろう」
千世は心を強く持った。
師走に説き伏せられ、何か吹っ切れた様子で、内気な心はそのままに、今はできることを精一杯する方針に切り替える。
そうでもしないとダンジョンは簡単に牙を剥く。
モンスターに襲われる前に、弾かれてお終いだ。
「そうと決まったらまずは何から……もう、決まってるよね」
「千世が覚醒してる。覚醒前夜してるー」
師走は手際の良い千世に驚く。
完全に何か吹き飛んだ。そんな内気になってられないって気が付いたせいで、無理をしている。
言わばこれはドーピング。エナジードリンク系をがぶ飲みして、ハイになっているのと変わらない。
「千世、無理してる?」
「無理? うーん、分かんない」
「あんまり頑張り過ぎないでよねー。まあ、千世ならその辺は問題ないかな」
師走は心配して損する。もちろん確実な損ではない。
だって千世は安全安心が第一で、自分の限界を知っているからだ。
つまり師走が今できることは、千世が間違えそうになった時に止めることと、それまでは千世を応援すること。
「それで何をしようとしてるのかなー?」
師走は呆然としていた。
千世がテキパキと作業を始める。
作業と言ってもカメラドローンの映像をひたすらに確認するのだ。
「映像を確認するんだよ。ここまでで何か撮れてるかもだから、とりあえず最初からね」
千世は目を凝らしてモンスターの姿を見つけ出そうとする。
ここから出るには、どのみちモンスターとの接敵は必至。
モンスターと戦闘になることを考慮しても、少しでも情報が欲しいのだ。
「そ、そっか」
師走は呆気に取られる。
千世は全く迷うことなく、正しいと思うルートを直進する。
その姿に感銘を受け、師走も目を凝らす。
「私も手伝うよー」
「ありがとう、師走」
「オッケーオッケー。全力で見つけるぞー!」
スマホの映像を各々で確認する。
正直目が疲れるから酷使はできない。
とは言え人を簡単に殺してしまうようなモンスターだ。きっとこの洞窟と言うダンジョンに適応してしていて、今でも姿を確認できないのだから、それ相応の力強さを持っていてもおかしくはない。
何で姿が見えないのかな。
何で気配もほとんどしないのかな。
分からないことだらけで、プチパニックを起こしそうになるも、全部拭い捨ててやれることをやっていた。
それくらいしか、今はできることがないから仕方ない。
「とは言え、映像はさっき確認したんだけどねー」
「ううん。あれは、その周りだけしか見回してないよね?」
「うん。あっ、そっか。最初でからって、本気で最初っからなんだ」
千世と師走は撮った映像を最初から確認する。
洞窟の中に入ってから、ここまでの記録を目に焼き付ける。
大体尺として四十分くらい。
結構な量があるからだ、倍速で観ればきっとなんとかなる。
目が相当疲れるが、瞬きは厳禁。
一回飛ばしたらそこで終わりだ。
二人はよっぽどのことで、目を凝らして血眼になる。
「とは言ってもねー。いつまでもここに居たら、モンスターの格好の的だよねー」
「それはそう……で、でも、これしかないよ?」
千世も痛い所を突かれる。
確かにこのままだとモンスターがいつ狙ってきてもおかしくはない。
でも千世の【危険予知】はまだ発動していない。
それに隣には師走がいるので、最悪の場合は退避ができる。
もう少しだけ餌として粘ってみようと考えた。
不安もよぎる中、千世と師走はスマホ越しに映像を確認すると、不意に気になるものを見つけた。
「あれ?」
「如何したのー、千世?」
千世は気のせいかもしれないが、一瞬変なものを見つけた気がする。
映像を観ていた千世は素早く停止し、コマ送りで戻す。
「ちょっと待って。今一瞬、一瞬だけ何か映ったような……あっ、これだ!」
千世は映像をそこで停止する。
師走も覗き込んでみるが、眉根を寄せてしまう。
何にも映っていないように見えた。だけどよく目を凝らせば見えて来る。
「何もないような気がするけどー」
「ほら、ほらここ」
千世は指を指す。そこには小さく何か映り込む。
今一瞬、脚のようなものが見えた。
鮮明な映像だけど、上手く死角を取られてしまい、暗くなっている部分。そこに潜むように、張り出した脚が消えていく。
「師走、今のって……」
「うーん? 脚っぽかったけど、異様に細くなかったー?」
師走の言う通り細いは細い。
それでもまるで壁を這いつくばるようにペタペタと動き回る姿は気色が悪い。
とはモンスターの正体は少し見えてきた。
安堵して気を緩めたその時、急にピコンと頭の中でサイレンが鳴る。
[背後から来るよ!]
急に頭の中に文字列が浮かぶ。
【危険予知】が発動したようで、
「うわぁ!」
咄嗟に身を小さくして横に飛ぶ。
すると何かがもの凄いスピードで隣を駆け抜けると、そのまま恨めしそうに戻って行く。
空気を切るようで、千世は冷や汗を掻く。
(今のなに?)
あまりに突然……ではなく、千世は気が付いていた。
【危険予知】が発動する前に気配を若干捉え、そして未だに姿の見えない敵の存在に震えた。
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