第52話 まだ名前の無いダンジョン
名前が無いということは、ぶっちゃけ一番危険なんですよね。
「結局来ちゃった」
千世と師走は鳴雷市にやって来た。
とは言ってもここは市道の目の前で、有刺鉄線が剥き出しにされていた。
いかにもな場所。絶対に近づいちゃ駄目。
千世の中で警戒がより一層強まるが、師走はニヤニヤしながら、鉄線の柵に指を掛けた。
「それじゃあ千世、行こっか!」
「えっ、本当に行くの!」
「当たり前でしょ? ここまで来て引き返すなんてないよー」
師走は千世の手を掴んだ。
ビクビク震えているにもかかわらず、全く気にしていないのか、ギュッと押さえ込む。
「ま、まだ引き返すチャンスだよ?」
「千世は不安になりすぎ。ほらほら、ウィンディさんにも許可は貰ったんだから、行くよー!」
「あっ、待ってよ」
千世は師走に引っ張られ、有刺鉄線の柵の向こう側に行く。
次第に全身を冷たい何かがすり抜けていく。
千世だけではなく、師走も薄っすら冷や汗を流した。
「ゾクゾクするねー」
「う、うん。怖い」
千世は恐怖心が先行した。
別に悪いことじゃない。それだけ精神的にこの場所の空気を掴んでいる証拠。
対して師走は空気の悪さを物ともしない。
完全に熱意だけで跳ね除けてしまい、ドンドン臆せず突き進むので、千世もそれに合わせて連れて行かれた。
「えーっと、この辺にあるはずでー……」
「あ、あれじゃないかな?」
千世は指を向けた。
大きな切れ目が入った天然の壁があり、その奥が空洞になっている。
真っ暗闇が外から見ただけでも続いていた。
しっとりとした冷たい風が吹いている。
何だか近付き難い雰囲気が立ち込めているものの、師走は「お手柄だよ!」と千世を褒める。
「流石千世、一発で見つけちゃったねー」
「う、嬉しくないよ」
「何言ってるのー? はいはい、シーカーアバターになるよ」
千世と師走はシーカーアバターに変身する。
これで死ぬことは少なくともない。怪我をしても後遺症にはならない。
一応の安心を確保したものの、未だそれは仮初でしかない。
「それじゃあ行こう!」
「ま、待って。まだ心の準備ができてないよ!」
千世はここまで来て行きたくなかった。
しかし師走は「はぁー」と溜息を一つ付く程度で、それ以外に否定も嫌悪もしない。
「千世、ここまで来ちゃったなら行かないと。それにウィンディさんにも頼まれちゃったでしょ?」
「あ、あれはそうなのかな?」
「事実的にはそうでしょ?」
千世はウィンディからアイテムを貰っていた。
いざとなったら投げろと言われていたアイテムで、手のひらサイズにしては少し大きくて重たい、丸い球だった。
「ほらほら、こんな所で立ち止まらない!」
「あっ、うん」
千世は師走に叱られる。
頭の中のモヤモヤを全部吹き飛ばし、洞窟の中に入ることになった。
その瞬間、体をノイズが走る。
シーカーアバターのおかげで特には気にならなかったが、この時点でこのダンジョンの半分がはっきりする。
如何やらかなりの実力を要求するらしい。
それだけ強いくて凶暴なモンスターが潜んでいる。
もしかしたら雑魚モンスターもかなり強敵かもと、千世は自然と警戒度が上がった。
「うわぁ、何だろう。この間の洞窟? とは、少し違うね。冷たい」
一方の師走は冷静にダンジョンを楽しむ。
洞窟の入り口。まだ外から日差しが入る。
にもかかわらず、普通にひんやりしていた。
それだけこのダンジョンがジメジメしていて、熱気に変わる前に洞窟内の魔力が変に冷却している証拠だ。
「なんで冷たいなかな?」
「ねー、なんで冷たいんだろ」
とは言え二人はそんなこと知るはずもない。
ウィンディに聞いていたら、分かったのかも。
だけどここまで必要な情報でもなかったので、二人とも全くの初見、無知の反応だった。
「もしかして、この崖? の所にあるのが原因なのかな?」
「あっ、雨ってことだねー。なるほど、ってことは水滴が……」
ポタッ!
「うわぉ!?」
師走が飛び上がる。
如何やら首筋に水滴が滴り落ちたらしく、急すぎて飛び上がる。
「冷たい……でも、うわぁ、ジメジメだ」
「そうなの? た、確かに洞窟の中は冷たいけど、時間が経てば蒸発して水蒸気が発生しちゃうのかもね。そのせいで」
「蒸し暑くなるんじゃなくて、洞窟内だから変に冷たくなるってわけかー。ちょっと面白そうじゃん!」
師走は余計に楽しみ始める。
ダンジョンごとに特徴が違うので面白そうなのは千世も同感だが、流石にここまでテンションは高くならない。
「よーし、それじゃあ行ってみよう!」
「あっ、ちょっと待ってよ!」
師走は先に行ってしまう。
千世はその後ろを追い掛けて、仕方なく洞窟探索をする羽目になった。
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