第38話 「気に入られた気がしません」
実際、こんな目に遭ったら思いたくはない。
「でも如何して?」
「なにが?」
千世と師走は怖かった。
それでもダンジョンの入り口で動くことはなく、ポツリポツリと口ずさんだ。
「なんで入り口まで戻されてるのかなって。おまけに水に浸かったはずのカメラドローンは壊れてないよ?」
「そうだねー。確かに変だよ」
カメラドローンは確かに池の中に浸水した。
千世を助けようと師走が慌てて掴んだせいだけど、まさかこんなことになるとは。あまりにも奇想天外な結果に、状況の整理がまるで追いつかない。
「それにさっき吹いた」
「風だよねー。おかしな風?」
「うーん、嫌な風じゃなかったけど……その、背中を押された?」
「押し戻された?」
「そんな感じかも」
さっきの風は背中から私達を押し返すみたいだった。そう、千世は感じた。
だけど如何して?
千世も師走も分からないが、嫌な感じは全くせず、むしろ心地が良かった。心を掴んだみたいに、体ごと押し出してくれた。
「師走、改めて帰ろっか?」
「そうだねー。今日はもうやることないもんねー」
風抜きの森。想像以上に面白い所だった。
千世と師走は立ち上がると、改めて感謝する。
なんだか丁寧に扱った方が良いと直感が伝達し、二人揃って手を合わせる。
「「ありがとうございました!」」
そう言ってから踵を返す。
振り返って歩き出そうとした瞬間、千世と師走の間を優しい風が抜けて行く。
「「えっ!?」」
二人は立ち止まって振り返る。
しかし誰も居なくて、風だけが吹いていた。
まさしく森の中を風が抜けて行く。だからこその、風抜きの森だった。
「って、ことがあったんです」
千世はウィンディに報告した。
まさかこんな体験をするとは思わず、ついつい気になってしまった。そこで市役所にやって来て、ダンジョン調査課のウィンディに話を聞いてもらうことにしたのだ。
「それは本当ですか!?」
ウィンディも驚いていた。
それが余計に千世の不安を煽ると、プルプルと脚が震える。
ダンジョンの外なので勇気が半減してしまっていたが、ウィンディも仕方ない。何故ならそこまでの結果が出るとは信じられなかった。
「風の精霊が感化された……しかもかなり友好的に接して……期待以上ですね」
「期待?」
「なんでもないですよ」
ウィンディは口をつぐみ、はにかむ。
コホンと咳払いを一つしてから、話を戻した。
「それにしても不思議なことってありますよね」
「はい。その、何が起きたのかなって思って」
正直、ダンジョンはファンタジー。
何をどう当てはめたら良いかなんて、さっぱり分からない。それがダンジョンと言うものと、割り切る以外に納得する手段はないのだ。
「そうですね。ダンジョン、いいえ。この街を守る風の精霊に気に入られたのかもしらませんよ」
「ぜ、全然気に入られた感じがしないです」
千世は肩を落とした。急に何を言い出すのかと、ウィンディの言うことに幻滅。
しかしそれは間違っていて、ウィンディは何も悪気はない。むしろ正しいことを言っていた。
「千世さんと師走さんは風の精霊、シルフィード様から気に入られたと思います」
「シ、シルフィード様?」
「はい。シルフィード様は風の大精霊。とてつもない力を持ったモンスターとは別格の存在です」
「別格?」
ウィンディは少しだけ話してくれた。
如何やら風見原大渓谷には、シルフィードと言う守り神の大精霊がいるらしい。
その力は絶大で、気に入られるかそうでないかで大変なことになるそうだ。
そんな中、知らず知らずのうちに千世と師走は気に入られたっぽい。
何故気に入られたのか、その理由は定かではないしろ、ウィンディは奇妙なことを呟く。
「ですが良かったですね」
「な、なにがですか?」
不安を煽るような口ぶり。千世はゴクリと唾を飲む。
ウィンディはタブレットを見ながら、目を合わせないようにして答えた。
「シルフィード様は大変心優しい方です。ですが、不届者に関しては例外。反旗を翻し、蛮族に災いをもたらすそうですよ」
「な、なんですか。その、昔話みたいな言い回し……」
「私のいた世界での格言です。実際、シルフィード様の力は凄まじく、この世界でも亡くなった方はいますよ」
「えっ?」
言葉を失った。何を言っているのか分からなくなる。
しかしウィンディは、千世にタブレットを見せてくれた。そこには新聞記事が残されていて、風抜きの森で死亡事故があったことを物語る。
目の奥が乾き、釘付けにされた。身の毛もよだち、全身が震える。
「う、嘘……本当に?」
「本当ですよ。実際、千世さん達が服用した薬も適合できなければ即死です。おまけにダンジョンでは死なないから、何をやっても良いと思った馬鹿者はダンジョンに飲まれて死亡します。ダンジョンは恐ろしい場所です。特に危険な場所では面白半分で行ってはいけません。それだけ理解していてくださいね。千世さん達は運が良かっただけですから」
「は、はい……」
ウィンディは千世に警告した。
言葉を失う千世。だけどこれは事実で、より一層身を引き締めることになるのだった。
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