第35話 風の精霊の像
結構大事な代物です。
風抜きの森の中を歩いて大体二十分が経った。
最初に音羽トンボに攻撃された以外でモンスターに出会っていない。
もしかしたら運がいいのかな? そう思い始めた千鳥は、ふとシュヴァルに尋ねる。
「シュヴァル、今って楽しい?」
「急に如何したのー?」
シュヴァルは驚いていた。
目を見開くと、千鳥に首を捻る。
「別に楽しいよー?」
「そうなの? だって森に入ってから全然モンスターが出てきてないよ? シュヴァルはモンスターと戦いたんじゃなかったの?」
「別に戦いたいわけじゃないよー。私は、ダンジョンに行って、とにかく楽しみたいって感じかなー?」
「あ、アバウト!」
千鳥は声を上げた。まさかここに来てもの凄く適当な返しだった。
千鳥は呆れはしなかったけど、意外に感じる。だけどシュヴァルは最初からそうだった。とにかく楽しみたい。ただそれだけが目的で、今も尚見失っていない。
逆に言えば、本当に見失っていたのは私の方だと千鳥は感じた。
「あはは。シュヴァルは変わらないね」
「千鳥は少しだけ変わった? 前より少しだけ元気出た気がするけど?」
「そ、そうかな?」
「そうだよ。って、それ以上でも以下でもないんだけどさー、あははははぁ」
「ちょ、何で笑うの!」
千鳥はシュヴァルに笑われてしまった。
ちょっとだけムカッとしたものの、ふと足を止めてしまった。
シュヴァルも千鳥が足を止めたので、何かあったのかと思い立ち止まる。
「如何したの千鳥?」
「ねぇシュヴァル、こんな所に祠があるよ?」
「祠? あー、確かにあるね。全然気が付かなかったよ」
シュヴァルが気が付かなかったのも分かる。
だって周りの木々と同化してしまっていて、見つけるのは困難だった。
よーく目を凝らしていないとすぐに通り過ぎてしまうけれど、千鳥はキョロキョロしていたので気が付けた。
「すっごく汚れてるねー」
「うん。何か書いてあるけど……全く読めないよ」
「うわぁ、文字が潰れてる以前の問題じゃんかー」
祠には小さな立札がある。
だけど文字が潰れていたし、掠れていたし、そとそも見たこともない文字だった。
多分このダンジョンの一部に異世界から転移してきたもの。とは言え何もしないのは可哀想だ。
「千鳥、早く行こうよ」
「ま、待ってよ。せめて屋根に乗ってる枯葉だけでも取っておこう」
「えっ、千鳥珍しいことするね」
「う、うん。そうだよね。何でかな?」
千鳥は自分でも珍しいことをすると思う。
杞憂なことだなと感じたが、何故か無碍にできない。
「ふーん。まあいっか。私も手伝うねー」
「ありがとう」
千鳥とシュヴァルは祠を軽く掃除した。
掃除と言っても屋根に付いた枯葉を払ったり、木の枝を取ったりする程度で、何も大層なことはしなかった。
「こんな感じでいいのかな?」
「うーん。良いんじゃない? 祠の中に何があるのか気になるけど……」
「駄目だよ勝手に開けたら!」
「開けないよー」
流石にそんな罰当たりはする気がない。
千鳥とシュヴァルは先に行こうとするが、何故か急に風が吹いた。
「うわぁ!」
「風、強いね」
この街では良くあることだ。
だから特に気にも留めなかったけれど、二人は足を止めた。
「ほ、祠が開いてる!?」
「な、なんでなんで!? この扉は外開きじゃないのー?」
本来外開きの扉なら開くはずがない。
内開きの扉なら何となく開く可能性もある。だけど外開きが急に開くはずがない。だって、風の風圧で開くわけがないのだ。
「で、でも何で開いたの? 中には像が入って……綺麗」
「本当。綺麗な女の人だ」
祠の中には石像が納められていた。
姿形は女性のようだけど、天使のようなワンピースを着ていて、背中には羽が生えている。
表情は穏やかで、何故か鳥の仮面が着用されていた。それでもはっきりと女性だと分かるのは、小さめだが胸があったから。
「あれ?」
「如何したの千鳥?」
「仮面が外れかかってる。もしかして、着脱式なのかな? よいしょっと」
千鳥は手を出して仮面だけをちゃんと被らせた。
表情がやや笑みを浮かべた。そんな気がして、千鳥は満足する。
「あっ、でも、触っちゃったけど……良いのかな?」
「如何だろ? でも何もしてこないでしょ?」
「う、うん。あっ、でも断り入れた方が良かったよね。その、ごめんなさい」
千鳥は丁寧に謝る。
それから千鳥とシュヴァルは祠と石像の前で手を合わせた。
「「どうかお守りください」」
まるで神社に来た時みたいなやりとり。
もしかしたら間違ってるかもと思いつつも、千鳥とシュヴァルは先に行く。
「それじゃあ行こっか」
「うん。奥の方に行ってみよー! みよー!」
祠の扉はあえて閉めないことにする。
だって私達が開けたわけではないから。
もしかしたら風の気まぐれが私達を石像に会わせたのかもと、何となくそう感じた千鳥だった。
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