第33話 風抜きの森に行こう!
風抜きとは風が抜けるから来てます。
千世と師走は一緒にある場所へとやって来た。
ここは風見原市の中にある大きな森。
普段は人が来ないようなところだけど、その規模感から樹海と捉えても差し支えはなかった。
だからだろうか、千世は来て早々ビビってしまう。
「ううっ、如何しよう……本当に来ちゃったよ」
「今更何言ってるの? 森は何もしてこないよ」
「だ、だって……ちょっと怖くない?」
千世は前を向いた。そこには樹海が広がっている。
隣には看板が立っていた。
[風抜きの森]。間違いなく、ここはダンジョンなのだ。
「でもさー、私は嬉しかったなー」
「何が?」
「千世からダンジョンに行こうって誘ってくれたことだよ! 私、いくら千世を誘っても、本当は行きたくないんだらうなーって思ってたんだ」
「うっ……」
痛い所を突かれてしまった。
師走が隣でニコニコ笑顔を向けてくれる。だから千世は顔を上げられない。だって怖いのは変わらないんだもん。
「あー。千世、今顔背けたでしょ?」
「そ、そんなことないよ?」
「そんなことあるよー! でもいいんだー。千世は千世でダンジョンに前向きで。自分ならにさ、ダンジョンに行ってみたいって思ってくれたんでしょ?」
師走からの熱い視線が顳顬を貫いた。
痛いけどくすぐったいし、嬉しいし恥ずかしい。色んな感情が錯綜し、千世のことを螺旋が包み込む。
「ありがとう、師走。確かに今回は私が誘ったけど、師走が誘ってくれたおかげだよ?」
「私?」
「うん。また一緒に行こうって言ってくれたから。だからね私、ちょっとだけ頑張ってみることにしたんだ」
急な気持ちの変化じゃない。
ここまで積み重ねて来たダンジョンでの経験が、私のことを少しだけ後押ししてくれた。
まだ確信じゃない。だけどせっかくウィンディさんから教えてもらったのに行かないのは勿体無いと、私は思ってしまった。それが千世をここまで運んでくれた。悪いことじゃない。きっと良いことだ。
「うわぁ、後ろ向き全力疾走の千世じゃない! 怖い、怖い怖いよ」
「怖いは酷いよ! それより、この看板見てよ。ここに絵が描いてあるよ?」
「どれどれ? うわぁ、ゲームのアイコンみたいだねー」
看板をチラッと見てみた。
そこには[風抜きの森]と名前が書かれていて、下には小さな絵が描いてある。
鳥の翼を生やした女の人。まるで女神様のようで目を惹く。絵が少し潰れていることが残念で仕方なく、千世は唇を尖らせてしまった。
「可哀そう」
「そう思うんだったら千世が描いてあげたら? 千世ってほら、指先器用だから繊細なタッチの絵は得意でしょ?」
師走はそう言ってくれる。
だけどそんな描く自信はないし、勝手に描いたら怒られてしまうのでしない。
分をわきまえていることを伝え、千世は気を取り直す。
「そ、それより師走。本当に配信するの?」
「うん。ここまで来てやらないのはないでしょ?」
「そうかな? よく分からないけど……」
今回は撮影OKなダンジョン。師走はノリノリで配信の準備をする。
千世はただダンジョンに行くだけだと思いきや、今朝いきなり言われてしまったのでまだ心の余裕が取れていないが、それでも頑張って気を引き締める。
「それじゃあ告知も済んだし始めるよー」
「えっ、ちょっと待って!」
千世は師走を止めようとする。
しかし配信はすでに始まってしまったみたいで、スマホには配信開始が表示されていた。
あらかじめ配信予定をしていたみたいで、千世はもう止めることはできなかった。
(はぁー。もう、何でこんなことに……)
千世は急いで千鳥になる。
師走はそれよりも早くシュヴァルになると、シーカーアバターの姿になり、配信をしていた。
「こんにちはー。突然の配信だけど待機してくれた視聴者の皆さんありがとうー。千鳥は乗り気じゃないけど、早速だけどダンジョン配信始めるよー」
シュヴァルはそれからオープニングトークをそこそこに、千鳥の手を引いた。
「それじゃあ早速行ってみよー! 千鳥も行こ」
「えっ、待って。一人で歩けるから!」
シュヴァルは聞いてくれなかった。「Let's Go Let's Go」と掛け声を上げている。
これはもう諦めるしかない。そう思った千鳥は「まあいいのかな?」とシュヴァルと一緒に仲の良さを見せた。
ダンジョンの中に入ると、周囲は木々に囲まれていた。
とは言え真ん中には道ができていて、一応歩けるようになっている。
「千鳥、ここってどんなモンスターがいるの?」
「えっとね、確か昆虫系が多いらしいよ」
「昆虫系? うーん、私は大丈夫だけど、千鳥って大丈夫だっけー?」
「うーん。得意じゃないけど、苦手でもないよ?」
そうじゃないとこんな所に来たりしない。
千鳥はシュヴァルに答えると、「そっかー、じゃあ良かったねー」と指を差した。
「如何したのシュヴァル? 何かいる……えっ!?」
何か飛んできた。まだ来て早々なのにモンスターの姿を見つけた。
大きさとしては全然小さい。九センチくらいだと思うけど、その姿は間違いなく成虫になった立派なトンボだった。
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