第23話 逃げ出さない少しの勇気
千世さん頑張ります。
シュヴァルはミスった。大いにミスった。
まさか【加速】の反動で動きが鈍ってしまい、そこを突かれてしまった。
普通にショックで、こうなっているのも自業自得。
壁に背中を叩きつけられて動けない。
全身が痛い。骨が軋んで麻痺してしまった。
ダンジョン内のシーカーアバターのおかげで死ぬことはないけれど、それでも全身が悲鳴を上げる程にはダンジョンの恐ろしさを身をもって感じ取った。
「ヤバっ……早く動かないと」
イワガラヘビはシュヴァルを睨み付けていた。
集まるのみにされてもおかしくはない絶体絶命の状況の中、全身を奮い立たせて動こうとするも、反動でなかなかいうことを聞いてくれない。
「シュルル」
イワガラヘビは舌を出してシュヴァルを見下ろしていた。
鋭い刃のような尻尾の先端をちらつかせ、高らかに掲げると、勢いよく振り下ろした。
まるでシュヴァルを一刀両断するみたいで、流石に目を逸らした。
(うわぁ。これは本気で……)
シュヴァルは死を覚悟した。
全身を渦巻く恐怖が高鳴りを上げる中、空気を切りシュン! と音を立てて尻尾が……シュヴァルに当たることはなかった。
「えっ?」
シュヴァルは目を開けた。何故か尻尾が目の前で止まっていた。
驚いて視線を下げると、そこに人影があった。
プルプルする腕と脚。剣を構えて防戦するのは千鳥だった。
「ち、千鳥!」
「ううっ、重たい……」
千鳥は奥歯を噛み締めていた。
腕の筋力が全然ないせいで、千鳥は剣を構えて押さえ込むのが精一杯。ダンジョンのもたらしてくれた恩恵も大きいからだ、相手の方が断然大きくてパワーも迫力もあるせいで完全に気圧されていた。
「何やってるの!」
「何って、見たら分かるでしょ!」
千鳥はいつにもなく真剣な様子だ。
シュヴァルは状況を把握するのに何秒も必要はなかったけれど、何で千鳥が目の前にいるのかは分からない。
だって千鳥は攻撃できるような能力を持っていないし、いくら身体能力が上がっているとは言っても、大型モンスター相手にまともに通用する程ではなかった。
「見たら分かるけど……千鳥下がって!」
「下がらないよ!」
千鳥はシュヴァルに怒鳴り返した。
目を見開いて驚くシュヴァルだったけど、千鳥は素早く返した。
「私が下がったらシュヴァルがやられちゃう。そんなの良くないよ!」
「ううっ、痛い所を……」
シュヴァルは言われたくないことを言われた。
確かに現状シュヴァルはインターバルで動かないでいた。おまけに全身を駆け巡る痛みに襲われ、イワガラヘビの相手もするなんて絶対絶対としか言いようがなかった。
「でも千鳥じゃ無理でしょー!」
「無理だよ。だから時間を稼いで……うわぁ!」
イワガラヘビに剣を弾かれそうになった。
けれど千鳥は何とか持ち堪えて尻尾を受け止めるものの、威嚇されてしまい膝が震えた。
(怖い……たけど、逃げられないよ)
千鳥は涙を浮かべていた。こんなの自分の役目じゃないって分かっているのに、やらないといけないことにストレスを感じていた。
おまけに相手は私なんかよりも全然強いモンスター。少しでも油断したら気を抜いたら速攻でやられる。それが痛感できたから、このまま動かないでいた。
「ううっ、腕が痛い……」
「やっぱり千鳥逃げないと! 千鳥なら攻撃が分かるでしょ!」
「そんなの分かってる! でも今逃げたらシュヴァルがやられちゃうってさっきも言ったでしょ!」
同じことを繰り返した。
シュヴァルは気圧されてしまい言葉を失った。
「私は自分のことが分かってるよ。内気でオドオドしてて、いっつも逃げ腰で自信もない。本当なら逃げ出したいんだよ。でもね、私は自分のしたいこととかやらないといけないことがはっきりした時だけは絶対に投げ出さない。今は友達を助けること。それだけをするために私は前に出る。それが私のしたいことで、しないといけないことだって分かるから。だから、だから!」
代わりに千鳥は思いの丈を伝えた。
本当は一番逃げ出したいけど逃げちゃ駄目から、友達を危険に晒すような真似をして放って置くなんてできない。千鳥の優しさが光り、本当は内気でオドオドしている心を奮い立たせたのだ。
その気持ちはシュヴァルにも伝わった。
何かハッとなるものがあったのか、小さな声で「千鳥は優しいよね」と呟く。
目の前ではイワガラヘビが再び尻尾を振り上げていた。
いつ次が来るかはもう分かっていた。五秒後、到底千鳥じゃ受けきれない。
(く、来る!)
千鳥は攻撃を覚悟した。多分腕は保たない。
グッと目を瞑った。すると空気を切り裂く音が聞こえ、千鳥の体がフワッと浮き上がった。
「えっ?」
何が起きたのか。千鳥は困惑したものの、何故かシュヴァルに抱えられていた。
イワガラヘビの尻尾が振り下ろされていて、間一髪の所で窮地を脱した。
「あ、ありがとうシュヴァル」
「なに言ってるの。お互い様でしょ? さぁ、ここからが最終コーナーだよ。後はチェッカーフラッグを切るだけ、私達の自己ベスト更新しちゃおっかー!」
シュヴァルはニコニコ笑顔を浮かべた。
額からは汗を流し、リュックから取り出したバランス栄養食を齧り付いた。
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