第22話 加速をつけすぎた結果
ただし【加速】にも弱点はある。
シュヴァルこと早瀬師走の能力は【加速】。
何ともシンプルな名前だが、能力自体はかなり複雑で、正直な所本人も三分の一程度しか理解できていなかった。
けれどその能力の中心、すなわち基礎に当たる部分は分かっていた。
だからこそシュヴァルは迷わず突撃したのだ。
「せーのっ!」
思いっきり蹴り込んだ。
するとイワガラヘビの頭が右側へと倒れ、視線をシュヴァルへと向けようとした瞬間、目の前から消えていた。
ポタポタ汗が垂れる程度で、素早く背後に回り込みもう一度右脚で強烈な蹴りを叩き込んだ。
“何だよこれ!”
“強すぎるだろw”
“全然目で追えません。コマ送りにしたら何とか……”
“千鳥さんの足りない部分を補ってる?”
“速さを武器にするとか主人公サイドのキャラかよw”
確かにシュヴァルは凄かった。
コメントがたくさん流れるのも無理はなく、千鳥も全く目で追えないのだ。
「速すぎて見えない。これがシュヴァルの能力?」
加速について来れない理由が分かった。
こんなのシュヴァルじゃないとまともに扱えないのだ。
元々鍛えているからこそ、とんでもないGと熱、風圧に肉体が耐えられる。いくらダンジョンの効果を受けていても、あれだけ機敏な動きは難しいはずだ。普段から走り慣れているからこその技だった。
「流石は中学全国総体、百メートル走三連覇中の実力者……凄い」
千鳥はマイクに載らないくらい小さな声で呟いた。
特定を避けつつ、目の前で戦い続けるシュヴァルの姿を追った。
「おりゃおりゃおりゃ!」
一方のシュヴァルは脚技を連打していた。
イワガラヘビを蹴りまくり、次々にダメージを蓄積している様子で、痛みに堪えるイワガラヘビの姿を目の前にした。
「そりゃそりゃぁ! そろそろ倒れてくれてもいいんじゃないのかなー?」
シュヴァルは息を荒くしていた。
流石に辛くなってきた様子で、シュヴァルの動きが悪くなった。
「シャア!」
「うおっ!」
その隙をイワガラヘビは見逃さなかった。
鋭い牙を生やした口を開くと、シュヴァルに噛みつこうとした。
けれど咄嗟の起点を効かせ、回転しながら地面に着地した。
「危なっ。一旦下がるよー」
シュヴァルは【加速】を使い、後ろに下がった。
直線移動で最短を取ると、イワガラヘビの射程距離から脱した。
「シュヴァル、大丈夫!」
「大丈夫大丈夫。問題はないんだけど……はぁ、ちょっと疲れちゃった」
シュヴァルの脚が震えていた。
額からは汗を流していて、かなりな疲労が蓄積されていた。
(もしかして、シュヴァルの【加速】って……)
嫌なことを千鳥は想像した。
だけどそんなことにはなってほしくないし、そんな使い勝手の悪い能力を自分だったらとてもじゃないけど扱いきれないと思った。
「シュヴァル、もしかして……」
「うわぁ!」
千鳥は声を掛けようとした。
しかしシュヴァルに向かってイワガラヘビは尻尾を叩きつけた。
派手に岩の破片が飛び散る。
千鳥も掠ってしまったけれど、それよりもシュヴァルの姿がなくなっていることに気が付く。
(何処に行ったの?)
千鳥はキョロキョロ視線を配った。
するとシュヴァルの姿が見たかった。なんと一瞬でイワガラヘビの背後を取ると、再び蹴りを叩きんでいた。
硬い大岩と同じ硬度の体を蹴り続け、少し線を入れた。亀裂が入り、イワガラヘビも苦しみ出すが、まだまだ致死量には達していない様子だ。
「こんなに蹴ってるのに倒せないのー」
シュヴァルは不満を吐露してしまう。
疲れが溜まってきている証拠だけど、それでも脚を動かし続けた。
「私も何かしないと」
千鳥は何もできないままは嫌なので、シュヴァルとイワガラヘビを良く観察する。
何かヒントがあるかもしれないと期待していた。
じっくり目を凝らした。するとキラリとシュヴァルの足元が光った。
気が付けば靴の横側にブレード生えている。
さっきまではなかったはずなのにシュヴァルはいつの間にそんなものを取り付けていたのか千鳥は気になった。
それからイワガラヘビの頭にも変なものが付いていた。
場所は額。小さいけれど赤い宝石がキラキラしている。とっても綺麗だけど、何の意味があるかは不明でしかない。
「って、こんなことをしても意味ないよ! 負けないでシュヴァル!」
完全に主人公を応援する一般人になっていた。
しかし声援を受けたシュヴァルは直角に移動すると、イワガラヘビの懐に潜り込む。
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
思いっきり蹴りを叩き込んだ。
イワガラヘビの白い部分が凹むと、口から唾液を吐き出し、目の色を変える。
「あ、あれ?」
まさかとは思ったけれどイワガラヘビは力を振り絞ってシュヴァルを弾き飛ばした。
お腹を膨らませてバウンドさせると、長い尻尾を使って逃げられないように逃げ道を塞ぎ、一気に尻尾の先端を叩き付ける。
「ちょっと、それは駄目だよー!」
シュヴァルは体を丸めた。できる限りの受け身を取ったのだ。
しかし体は上手く動かせず、尻尾を叩きつけられてしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
シュヴァルの大絶叫が響き渡った。
気が付けばピクピク動けてはいるものの壁に叩きつけられていて、息も絶え絶えだった。
これが【加速】のもたらした弊害。本人も千鳥も気が付いていて、[直線と直角にしか移動できない]ことの恐ろしさを身をもって体感した。
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