第21話 加速していくだけだから
シュヴァルのスキルで一気に・・・
大岩が巨大な蛇に変わった。
全身がゴツゴツした岩肌でできていて、見た目は巨大なガラガラヘビだった。
「な、何これ!」
「ちょっとヤバそうだよ。下がって、千鳥!」
千鳥の前にシュヴァルが立った。
ギョロリと大きな目で千鳥とシュヴァルを睨みつけるガラガラヘビは、「シュルルー」と喉を鳴らしながら何かをしようとした。
[威嚇が来る。動けなくなる前に射的距離から離れよう!]
千鳥の脳裏に危険が知らされた。
今回はかなりはっきりとしていて、怯える千鳥だったけどシュヴァルの腕を掴んだ。
「離れよシュヴァル!」
「えっ、離れるって……もしかして?」
シュヴァルは千鳥の顔を見ただけで痛感した。
それを受けて緊急で千鳥を抱き抱えると、急いでガラガラヘビから離れた。
とにかく全力で離れた。
全カロリーを脚に集約して走るシュヴァルだったけど、その背後でガラガラヘビが鳴いた。
百パーセント威嚇攻撃で、空気を震わせ振動させた。
「ッシャァァァァァァァァァァ!」
カメラドローンが大きく揺れた。
ガタガタと震えて落っこちそうになるも、何とかプロペラを回して耐えていた。
“ヤバいヤバい!”
“何このモンスター?”
“大岩が化けたガラガラヘビ?”
“イワガラヘビですよ。珍しいモンスターを引き当てましたね”(250円)
こんな時にも投げ銭付きのコメントを送ってくれた。
しかしそんな情報は今は要らない。とにかく威嚇の範囲から逃れること。ただそれだけが重要だったが、上手く切り抜くことができた。
「はぁはぁはぁはぁ」
「大丈夫シュヴァル! 凄い汗だよ!」
「だ、大丈夫大丈夫。これくらい普通だって……はぁ」
シュヴァルは明らかに大丈夫じゃなかった。
高速で移動したことでエネルギーを消費して、尋常じゃない量の汗を流していた。
突然だったこともあってか、その動きには無駄もあった。それらが全部重なった結果、シュヴァルは急速なエネルギーの補充を強いられた。
「持ってて良かった、バランス栄養食」
ポーチの中から袋に入ったクッキー生地のバランス栄養食を取り出した。
口の中に含むとボリボリと噛み砕いた。普通ならすぐに効果は望めないのだが、何故かダンジョン効果ですぐに栄養に変わった。
「ふぅ。はぁはぁ……やっば、めちゃくちゃ疲れたー」
「大丈夫、シュヴァル?」
「うん。流石に能力なしで威嚇の振動波を避けるのは疲れるよー」
まさかさっきのは能力を使わずに、ダンジョンによる身体能力の向上だった。
千鳥は驚きを通り越して唖然となる中、すぐさま目の前のイワガラヘビに注目した。
「で、でも、今のよく避けれたね。私なら間に合ってなかったかも……」
「あはは、全体攻撃だったおかげで千鳥の能力に引っかかってくれたおかげだねー。でも、問題はここからだよー」
シュヴァルは起き上がってイワガラヘビを睨みつけた。
威嚇の衝撃波をものともしなかったことで完全に敵意の標的真っ只中にいた。
これは並大抵の攻撃じゃ倒れてくれない。シュヴァルは苦戦を強いられそうな雰囲気に初っ端のボス戦を楽しみに感じ、同時にしんどいと感じた。
「千世、少し下がってて」
「えっ、何するの?」
リュックの中から靴を取り出した。
金属製でできていて、自分が履いているスニーカーに装着した。絶対に蹴られたら痛いはずだ。
「イワガラヘビにペースを取らせる前にへし折りに行くんだよ。千世は私の加速について来れないから、ここで待ってて」
それはいわゆる戦力外通行。千鳥はショックを受けたけど、多分そういう意味じゃないとすぐに理解した。
適材適所。シュヴァルの戦法の邪魔にならないように最大限の配慮をすると、いつでも逃げられる距離を保った。これが千鳥のできる最善。自分でそれを把握すると、シュヴァルは安心して地面を蹴った。
「速攻で仕留める!」
するとシュヴァルは利き足をグルンと回した。回すと言っても脚を変な方向に回したわけではなく、足の裏を使って地面に半円を描いたのだ。
何をしているのか。千鳥にはさっぱり分からなかったけど、それを皮切りにシュヴァルの体が熱くなった。熱を帯びているようで、もう片方の足を点火剤に使うみたいに、思いっきり前へと出した。
目の前からシュヴァルの姿が消えた——
「えっ!?」
千鳥は前屈みになった。目の前からシュヴァルの姿がなくなって、熱風が微かに巻き上がっていた。
意味が分からない。何が如何してこんなことが起こったの? もしかしてこれがシュヴァルの能力? 千鳥は考えた。考えられるだけの頭を使った。
(もしかしてテレポート! それなら説明がつくけど、さっきの熱は何だった……えっ!?)
千鳥は顔を上げた。
するとイワガラヘビの頭を蹴り上げるシュヴァルの姿が目に映った。
「凄い破壊力……イワガラヘビが完全に押されてる……でも如何して?」
千鳥は目を見開いた。
シュヴァルの蹴りは相当な威力で、イワガラヘビは頭を蹴られると全身を大きく揺らした。
まさしく完全に先制が決まった。
圧倒的な力の差を感じた千鳥だったが、シュヴァルは特に変なことをしたわけではない。
ただ加速をしただけ。シュヴァルは自身の能力、【加速】を巧みに利用してイワガラヘビを圧倒でしていたのだ。
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