47.ヤミー!
「たまには教室で夜ごはん食べたいな」
烈火が可愛らしい顔を向けるので、例え『夜ご飯』が『石鹸』だとしても皆同じことを言うだろう。
「みんなで食べよう!」
というわけで、食べる場所は決まった。
次は何を食べるか決めないといけないから、生徒たちは烈火に今日の気分を聞いてみることにした。
「んー……。何かなぁ」
艶っぽく空気を震わせながら、烈火は白く細い人差し指を柔らかそうな下唇に当てる。
「オレの耳たぶって言われたらどうしよう」
リッキーは少しドキドキしている。
「らんちゃんの耳たぶかもしれない」
三毛の言葉に全員がすごくドキドキしだした。
「闇鍋パーティーがいいな」
らんちゃんきゃわわ。
一同は目尻をだらしなく下げた。意外な献立にときめきが止まらないのは、ギャップ萌えというやつかもしれない。
そんなわけで、ギルドを閉めた後は皆食材の買い出しに散っていった。
買い出しと一口に言っても、作る料理は闇鍋だから購入しているところを他の生徒に見られるわけにはいかない。
ある者は変装し、またある者はフェンリーに買い物代行を依頼し、またまたある者はフォンファに買い物代行を依頼し、受け取る際に姉妹を取り違えていた。
◇
いよいよ調理の時間。
ラウンジである3-Dの教室はカーテンを閉め切り、3階の照明は全て切ってある。
カセットコンロからうっすら灯る青い明かりだけが鍋の在りかを示していた。
その鍋を中央に、生徒たちとゼニスがぐるりと輪を作っているが、ゼニスだけは食欲がなさそうにしている。カセットコンロと鍋の買い物を頼まれたのはいいものの、そのまま闇鍋パーティーの中にぶちこまれてしまっていた。
「じゃあ順番に材料を入れよう!」
「はーい! 私入れていい?」
一番目は麗央。そこから時計回りに鍋へ入れていくことに決まった。
「入れるねー」
どぼっ
「ずぼばぁっ!!」
「ん?」
「ちょ! っぷぱぁ! 私は食材じゃないです!」
文字通り鍋にぶち込まれたゼニスが息を荒くする。その口調でようやく麗央たちはゼニスが最初の食材になったのだと理解できた。
「あれ? 先生だったの? ごめんごめん! 暗くて見えなかったから!」
麗央は笑いながら今度こそ鍋に食材を投入した。
あれだけ後頭部を鷲掴みにしておいて気付かないなんてありえるのだろうか。しかしゼニスがいくらびしょ濡れの顔で睨んだところで、暗闇が何もなかったことにしてしまう
「というか、もうこの時点で食べたくないんですけど……。みなさんも嫌ですよね?」
「闇鍋だからいいんじゃない?」
「ビビりだなぁ先生は」
「……」
おおらかな生徒たちは次の食材を待ちきれない。
「次誰?」
「先生じゃない?」
「私?!」
突然同席させられたのでゼニスは鍋に入れるような材料を持ち合わせてはいない。そのことを伝えようとすると、
「先生はもう顔入れたから次!」
食材扱いされてしまった。
「じゃあ次は私だー」
雪祭の声がする。
がしっ
「ちょっ! 私の頭掴まないでください!?」
「えー? 先生だったの? 暗くてわかんなかった」
笑い声に紛れて舌打ちが聞こえる。油断も隙も無い。
それから淡々と生徒たちは食材を鍋に追加していき、あとは食べごろになるまで煮込むだけ。
しかし何分煮れば良いのか、食材がわからないので判断が難しい。
「しっかり火を通さないと危ないって人いる?」
「私は大丈夫」
「俺も」
たいして時間をかける必要はなさそうだということで、5分ほど待つことにした。
「食べるときも暗いまま?」
「わからないまま食べたほうがおいしいんじゃない?」
「おいしくなるならそれで行こう!」
そして5分後。
また麗央を一番目に、それぞれのお椀に鍋の中身をよそう。依然として暗闇の中で執り行われるため、零さないよう控えめに。
「匂いはなんかピり辛って感じだな」
「食材溶けてる? 物体って感触ないね」
「まじかよ……そんなすぐ溶ける? 何入れたんだよ」
麗央からリレーしたおたまも一周し、多分全員がお椀を持って挨拶を待っているはず。
挨拶はやはり流星のお仕事だ。
「では! いただきます」
「いただきまーす!」
「辛っっ!」
「辛すぎ!!」
「みんな何入れた?!」
「俺はスープの味付け用に香辛料」
「私も」
「一緒だあぁぁああ」
「オレもオレも」
ただの激辛スープだった。




