46.みんなで遠足③
遠足の一団はリヴァイア山の中腹で荷馬車を止めた。
見晴らしの良い開けた場所で、すぐ近くには川が流れているから焼肉パーティーをするには都合がよい。
「はい降りて降りてー」
ぞろぞろと荷台から降り立った冒険者たちは次に何をやらされるのだろうとすっかり疑心暗鬼だ。
「円陣だー! 全員集まれー!」
2年C科のお約束、とりあえず円陣。
スタッフに誘導され、冒険者たちは両隣の者と肩を組む。ディネリーノートの左右だけは妙に顔が強張っていた。
そうして完成した約40名による巨大なサークルは、まるで何かの召喚儀式にも見える。
竜星がまず第一声を上げた。
「これから焼肉パーティーを開始します! みんないっぱい食べて、いっぱい護衛しましょう!」
何から何を守るんだよ、という顔を並べる冒険者たち。
「では今回の発案者、オリバー! 一言!」
「はい! えー、最後まで全力で走り切ります! よろしくお願いします!」
「何が……?」
冒険者たちを完全に置き去りにしたまま、竜星は締めに入る。
「よーし! いくぞっ!!」
「おうっ!!」
とりあえず掛け声だけは合わせてみる冒険者たちだった。
◇
香ばしい匂いが広がるにつれ、冒険者たちの表情も和やかなものへと移り変わっていく。
いくつも並んでいるバーベキューコンロやキャンプテーブルを囲い、冒険者たちは思い思いに食事や交流を楽しんでいた。
「バジっちカンパーイ!」
雪祭はあちこち歩き回っては乾杯を強要している。バジークはもう5回目だ。
「麦茶でよくやれるな……」
6回目に遭遇しないようそろりと場所を移動してみたが、今度は三毛に捕まってしまう。
「バジっちー、ゴブリンが進化したらホブゴブリンになる?」
「あ? いや違う種族だが……」
数名のグループと話していた三毛はバジークを見つけるなり強引に会話の中に引っ張り込んでしまった。
「お前らゴブリンから変化すると思ってたのか……?」
三毛と一緒にいるのはまだ若そうな冒険者たち。顔立ちにも初々しさを感じるから、まだ駆け出しなのだろう。だとしても酷い勘違いだから、バジークはため息を零した。
「ああ、いえ。どれくらい経験を積んだらホブゴブリンを相手にできるかなって話してて……」
三毛がだいぶ捻じ曲げた質問をした、ということか。それはそれで、バジークはまたひとつため息をする。
当の三毛はくりくりした瞳で、
「バジっちが詳しそうだから教えてあげて」
と言って、さっさとその場を離れてしまった。
三つ目のため息で見送り、バジークは冒険者たちにゴブリンとホブゴブリンの違いについて講義を開く。途中、話ながら三毛の姿を探してみると、また別のグループを作りながら冒険者同士をくっつけている。
「なるほどなぁ」
解散する頃には冒険者全員が知り合いになっているだろうな、と少しばかり感心した。
もっとも、そんな温かな交流会が企画の意図のはずがない。
バジークも他の冒険者も、この後するに思い知るはめになった。
「おまたせーーっ!」
琥太郎とオリバーが茂みの中から猛ダッシュで現れる。
それに続いて、成人サイズの蜂が大量に。重々しい羽音を響かせながら琥太郎たちを追って低空飛行でやってきた。
「え? 何? なんで?!」
「おいおいマーダードローンじゃねえか! どこで引っかけてきやがったんだ?!」
「琥太郎、オリバー、おつかれー。やっぱり足速いねー」
震える冒険者。労うスタッフ。
「それでは食事も楽しみながら、討伐もお願いしまーす」
倫子が優しい笑顔で戦闘を促す。
「嘘でしょ?! わざと連れてきたの?!」
「バカだ! こいつらやっぱりバカだろ!」
喚いている間にもマーダードローンはすぐそこまで迫ってくるから冒険者たちは慌てて戦闘態勢をとり始めた。
そんな光景にセレスティナが冷ややかな視線を送り、
「依頼書に護衛って書いただろ」
と吐き捨てる。傍にいたユーインが歯ぎしりしながらセレスティナを睨んだ。
「護衛という名の冒険者殲滅作戦だよな?」
「フェンリーいくよ」
「う、うん」
フォンファとフェンリーがダガーを構え、前線に飛び込もうと足を踏み出す。
「ちょい待ち!」
鋭い声に振り替えると、鉄板で分厚いステーキ肉を調理している満の姿。
「焼けたぜ」
ステーキナイフとミートフォークを慣れた手つきで操り、一口大に切り分けていく。食べやすいよう串に通した後、満は勝ち誇ったような顔でフォンファとフェンリーに差し出した。
「え? あのでも」
満は勝ち誇ったような顔でフォンファとフェンリーに差し出した。
「行かないと……」
「お……俺の串焼きが食べられないって言うのかよおおお! うおおおおん!」
マーダードローンの羽音より騒がしい。
「食べるから……」
泣く泣くフェンリーが口にすると、
「ん……んん! おいしい! すごいとろける!」
「だろ? ファーも食べてみ」
機嫌をよくした満に促され、フォンファもぱくり。
「ほんとだ何これ、すごいやわらかい……! カリカリベーコンと全然違う!」
「だろ? まだまだ焼くから、ちょっと戦ったら戻ってきな」
「はい!!」
フォンファとフェンリーはとろけ落ちそうなほっぺを支えながら走り出していった。冒険者の責務よりも食欲に支配されている。
「さて」
ふたりを見送った後、満は他の一口ステーキにも串をざくざくと刺していき、次は周辺の冒険者に向かって宣伝を始めた。
「ハイグレードステーキ焼いてるから食べたい人は小さくてもいいから戦果と引き換えなー!」
「うおおおっっ!」
香ばしい香りに煽られて戦意を高揚させる冒険者たち。
間もなくして、最初の報告者が現れた。右の頬が痛々しく腫れあがっている。
「ドローンの突撃でほっぺを怪我しました!」
「やられた報告か……。まぁよし! この焼きたてステーキで傷口をよく温めておけ!」
「はっ! ありがとうございます!!」
「最後尾はこちらですよーー」
ターコイズはステーキ待ちの列を整備しながら前菜として治癒魔法を振る舞い、フォンファとフェンリーは3回目の順番待ちをしていた。
すっかり混戦模様のアウトドアパーティー会場。
グリナドエルは傷を負ったわけでもないのに顔色が優れない。
「私がこんなところに連れてきたせいよね……」
と責任を感じていた。
「どこに行ったって最悪の魔物を連れてくるのがあいつらだよ」
ドゥレが本心からの言葉を伝える。実際、疑う余地はない。傍にいたエメリやユーインも深く深く頷いている。
「ここらにはいない大型魔獣とか、なんならキメラを合成してでもイカれた魔物を連れてくるっすよ」
「さすがにそれは……なくはないわね……」
気を取り直したグリナドエルはドゥレたち3人に補助魔法をかけ、自身も法撃の準備を素早く整えた。
「4人で組むわよ。慣れてない冒険者がいたら面倒見ましょう」
「可愛いだけじゃないグリナドエルは氷魔法もすごいんだよ! 巷じゃ銀華の法術師って呼ばれてるんだから!」
「すごいっす! でも巷ってドゥレのことっすよね?」
「でもギルドで話したことしかないから、目にするのは初めてだよな!」
「超絶可愛いグリナドエルの魔剣、ドゥレの力も見せつけてやる!」
今度は、エメリとユーインはすぐには反応せずちょっとだけ考え込む。
「駄犬だろ……」
ユーインがぽつりと呟き、これにはエメリもすぐに反応し、小さく二度頷いていた。
乱戦に混じり目立たないが、組織的に戦う集団の姿もある。
ディネリーノートが結成した即席騎士団だ。
個人や少数では立ち向かうのが難しい初級クラスから中堅までの冒険者をまとめあげ、豊かな魔力で防衛系の魔法を施した陣を形成する。その範囲内で戦闘をする分には、よほどのことがない限りパーティーを崩しはしないという自信がある。
「今日のメンバーなら、とらとらがおーって感じかな」
くらいの軽口を言う余裕だってある。
「もしかして余裕?」
緩太という名の、よほどのことがやってきた。
「多分……正解は『お気遣いなく』だと思うのよね。合ってる?」
冒険者たちに気を配りながら緩太の表情を窺ってみるも、完全なるポーカーフェイス。まるきり何も読めない。
ふむ、と緩太が小さく息を吐く。
「足りてないぞおーーー」
助走もテイクバックも何もかも省略し、あるのはインパクトのみ。どこに向かって放たれたのか、緩太以外にはさっぱりわからないんじゃないかと思えたが、彼方で耳にした琥太郎は両手をぶんぶんと振っている。自分に向けられたメッセージだということも、短い言葉の意味も一瞬のうちに完璧に理解していた。スピードスターは踵を返し、また茂みの奥へと飛び込んで行ってしまう。
数分後、戻ってきた琥太郎は真顔だった。その後ろからは、大地を力強く蹴り上げる震動と、明確な殺意を滲ませた唸り声。
「たぶんこれがメイン料理!」
引き連れてきたのは超大型の黒豹、ドレッドパンサー。危険度で言えば、「来世にご期待ください!」くらいのレベルだ。
「くそだ! こいつらやっぱりくそだろ!」
「着ぐるみだよね? 着ぐるみだよね?!」
「しいたけ焼けたよー」
命がけの突発レイドは、ディネリーノートやグリナドエルといった上級者の奮闘や、リッキー、オリバー、緩太のクリーンナップによる金属バットフルスイングの活躍でどうにか死者を出さずに終えることができた。重傷を負う者はそこそこいたのだが、ディネリーノートの治癒魔法や満のステーキのおかげで回復は早かったという。




