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45.みんなで遠足②

 一面を緑に塗られた草原の中を、6台の荷馬車が列車のように連なっている。

 頬を優しく撫でる風が心地よい。なんて感じたのはどれくらい前のことだっただろうか。ユーインやエメリはそんなことをふと思っていた。


「かーえーるーのーうーたーが~♪ きーこーえーてーくーるーよ~♪」

                 「かーえーるーのーうーたーが~♪」


 1号車は麗央の音頭で冒険者たちにかえるの歌を輪唱させている。


「モッツァルゥレルァアッッ! チィイイ、ズッふぅうーーーッ!!」


 雪祭が牛耳る2号車ではフェンリーが奇声をあげているところだ。

 前の人よりもハイテンションで「モッツァレラチーズ」と言わなければならないモッツァレラチーズゲームを行っていた。



「前の馬車じゃなくてよかった」

 ユーインが前方から届く歌声や叫び声に目を細める。他人事として聞く分には悪くない。

 3号車のスタッフはリッキー、竜星、満の3人。「歌はないな」という会話が聞こえ、ユーインは安心を担保された気分になった。

「よし、空気椅子するか」

「は?」

 冒険者たち全員が目をむくと、リッキーがいつの間にか立ち上がっている。竜星と満も揺れる荷台に少しふらつきながらもリッキーに続いた。

「なんですって?」

 ユーインが代表して尋ねると、

「いいから座れ、空気の椅子にな」

 リッキーに怒られてしまった。

 3号車が一番のハズレかもしれない。冒険者たちはどん底に落ちた。



 前方から歌声、叫び声、そして悲鳴。賑やかなハーモニーが流れてくる。

 騎士団では到底お目にかかれない光景にディネリーノートはくすりと笑った。


 4号車は三毛と琥太郎がホストとなってクイズ遊びをやっている。冒険者にとっての当たりはきっとこの4号車で間違いないだろう。


「じゃ、職業当てクイズ!」

 三毛が高らかに次のお題を宣言するも、冒険者たちからすぐに異議が相次いでしまった。

 他の馬車には商人も乗せられていたようだが、この馬車には知り合いとまではいかなくとも一度や二度は顔に見覚えのある冒険者ばかり。唯一冒険者たちにとって初顔合わせとなっていたのがディネリーノートだが、凛とした雰囲気はとても一般人のものではない。

「冒険者って言えば当たるだろ」

「ネリーは違う」

 不服そうに三毛が言い返し、

「それでは! ネリーの職業当てクイズー! ネリーは答えちゃダメだよ」

 楽しそうにクイズをスタートさせた。


「ミケたちを拘束しに来たギルド本部の偉い人」

「偉い人は近いかも」


「村長!」

「そうなの?! えっ、じゃあヤッピー村長って辞めちゃったの?!」

 琥太郎が驚愕した顔を向けてくるので、ディネリーノートは呆れたように首を横に振った。


「偉い人かぁ。騎士団長は?」

「すご! しーちゃ正解!」


 三毛がキラキラした表情で回答者のシーナに拍手を送るが、彼女は喜ぶどころか顔を青くしてしまう。

「え。いや冗談で……。ウソよね……ですよね?」

 強張った顔でディネリーノートを見ると、

「まさか」

 ディネリーノートは控えめに否定してから「金羊騎士団の神官を」と言いづらそうに答えた。

「神官……?」

 シーラ以外の冒険者の顔も真っ青だ。

 騎士団長や神官といえば、「足音が気に入らないから禁固300年」くらいのことは平気で許されるレベルの権力者。青でもまだ生ぬるい。

 ここまでずっと気安い態度をとっていた自分たち自身を恨みつつ、なんて人を乗せてくれたんだと三毛や琥太郎に怨念を飛ばしていた。。


「でも他所の話よ。ここでは『とらとらがおーのネリー』って呼んで」

 目をぎゅっと閉じて悶えている冒険者たちがおかしくてディネリーノートがくすっと笑みを零す。

「とらとらがおー?」

 冒険者たちが聞き覚えのある言葉に顔を見合わせる。

「とらとらがおーって、聞いたことあるよな……」

「騎士団のこと言ってたの……?」

「このネーミングはミケよね、絶対」

 一同はまた顔を青ざめさせて、三毛に対して一斉に視線を射る。

 ディネリーノートが目の前にいるから皆口には出せないが、ばかそうなパーティー名だなと思っていたらまさか騎士団だったなんて。話のネタにしてなくてよかったと胸を撫でおろした。


 当の三毛は降り注ぐ冷たい眼差しを全く気にしていないか、気づいてもいない様子だ。

「バスケットの中身、少し貰ってもいい?」

「ええ、もちろん」

 ディネリーノートが脇に置いたバスケットを開けようとすると、琥太郎が「わ!」と大きな声を上げだした。

「それ赤ちゃん入ってるやつだよね? 三毛、赤ちゃんはやばいよ。少し前に姉ちゃんが産んだけど、あれは普通じゃない。おなかすいた時も眠い時もうんちした時も全部同じ泣き方で訴えてくるんだから」

「ベビーバスケットは先にもうミケが答えちゃったのよ。大丈夫、中身はビスケットだけだから」

「赤ちゃんいなくなったってこと?!」

「もう……!」

 ディネリーノートが目をぎゅっと閉じて悶える番だ。冒険者たちがクスクスと笑っている。


 三毛はビスケットをまずは1枚、御者のブローダーセンに手渡して、それから他の者たちにも配っていった。歌声や絶叫は相変わらず流れてくるものの、ハーブの爽やかな香りとバターのほのかな甘い香りが見事に中和してくれて全く気にならなかった。


「ぎゃーっ」


 3号車から空気椅子中の満が転げ落ちる。これもビスケットの味に夢中だったので、4号車は誰も気づかない。




 そして、一番後ろの一番地味な5号車。

 接待する冒険者もいないので、緩太と烈火、ターコイズ、そして御者のボガードは静かなものだ。

 話すことがないというわけでない。

 ボガードを除いた3人は、後方から馬車らしいものが迫ってくるのを物珍しそうに眺めていた。


「んー? 6号車って誰か追加したっけ?」

「してないと思うけど、ターコイズは知ってる?」

「ターコイズも聞いてないですねーー。ボガードさんはどうですかーー?」

「いやー俺は聞いてないっすわ」

 誰も知らないので6号車ではなさそうだ。


 荷台の最後部から緩太たちが注視していると、向こうの馬車からギャーギャーと歓声が沸き立っているのが聞こえ、ようやくそれが盗賊団の荷馬車なのだとわかった。


「ギャーギャー!」

「荷物がたんまりだ! 奪うぞー!」

「ギャーギャー!」


「んーと。どれだっけ」

 緩太が積まれた木箱の隙間をあちこち覗き始める。探し物を察した烈火が「僕わかるよ」と山ほど積まれた木箱の上をすいすい歩き出した。


「おい! あの荷馬車にめっちゃ可愛い女の子が乗ってるぞ!」

「あのな、あんな可愛い子が女の子なわけないだろ」

「うっひょほー! こんな日のためにラブレター書いておいてよかったぜ! 生まれる前から好きでしたー!」

 盗賊団の荷馬車は荒ぶる鼻息に比例して速度を上昇させていく。



「はいバット」

「うぃー」

 烈火から金属バットを受け取った緩太はコンパクトなモーションで金属バットをぶん投げた。


 ズゴォーン


 金属バットが盗賊団の荷馬車の金具にぶつかった衝撃で火花が発生し、空気中のほどよい酸素に引火、荷馬車は爆発炎上する。盗賊団たちもそれぞれ吹っ飛んでしまった。


「バット拾わないとね。ボガードさん後ろ戻ってもらえる?」

「あいよっと」

 5号車はするりとUターンし、無傷の金属バットを回収する。

 ラブレターは焼失した。


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