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39.逃走・追走・持久走

 ギルドの入り口前で三毛と琥太郎がストレッチをしている。

 訪れたバジークは彼らの行動と、それから服装に首を傾げた。

「おうっす」

「こんちゃ、バジっち」

「おはよ。早いねー」

 体育着姿のふたりはペアストレッチをしながら温和に笑う。

 理屈に合う説明が返ることはないだろうと内心思いつつも、バジークは尋ねる決心をした。

「いつもと服装が違うな。なんかあるのか?」

「今日はギルド休み」

 ほらな。バジークは空を見上げる。

「冒険者ギルドが休日? 正気か? ……いや、正気だったことはないな」

 バジークは大げさにかぶりを振った。



「おはよう。何してるの?」

 ほどなくして顔を見せたのはドゥレ。

 背中合わせで交互に相手を持ち上げている三毛と琥太郎、ただ立っているだけのバジークを順に見る。

「こんちゃ、ドゥレもストレッチする?」

「しない」

「おはよ、早いねー。ストレッチする?」

「しないって」

「おう、今日は休みだそうだ」

「冒険者ギルドに休日? 正気? ……いや、正気だったことはないか」

 ドゥレは大げさにかぶりを振った。


「今日は体力強化のために持久走大会やるから、ギルドは休み」

 一通りストレッチを終えてから、三毛がようやくストレッチと休業の意図を説明した。

 わかったような、わからないような。バジークとドゥレの反応は芳しくない。


「三毛さーん、琥太郎さーん。走るコースが決まったから説明するそうですよーー」

 出入口からまず声が、遅れてターコイズがふわわんと飛んできた。

「あっ。バジークさん、ドゥレさん、おはようございますーー」

「おう」

 バジークたちが挨拶を交わしている間に、三毛と琥太郎は軽く手を振りながらギルドの裏へ去っていってしまった。

「すみません、今日のギルドはお休みなんですーー」

 申し訳なさそうにするターコイズに、バジークが「気にすんな」と気遣う仕草をする。

「こっちも知らずに来たしな」

「決まったのは20分前ですよーー」

「……」

「……えーと。せっかくですから何か飲み物出しますねーー。お二人も中へどうぞーー」

 結局はターコイズが気遣う側になっていた。



 1階南側の研修室は長机やパイプ椅子を残していて、手続き待ちや一休み用のスペースと利用されている。

 窓に近い席でバジークとドゥレ、それにターコイズの3人がおしゃべりに興じていると、ユーインとエメリが並んで歩いてくるのが見えた。

「おーい!」

 バジークが手をゆっくり振りながらふたりを呼ぶが、そういえば休業日だったなと思い出す。何も知らないユーインたちは仔犬のように足早に研修室までやってきた。


「バジークさんとドゥレかー、あんま見ない組み合わせだなぁ。今日はやけに静かだけど何かあった?」

「今日は休みらしいよ」

 ドゥレがパイプ椅子の背もたれにぐったりともたれかかる。彼なりの冗談なのだろうかと思いユーインとエメリはバジークを窺ってみるが、彼は静かに頷くだけだ。

「冒険者ギルドに休日? 正気っすか? ……いや、正気だったことはないっすね」

「まあまあ、おふたりもお茶をどうぞーー」

「あ、どもっすー」

 取りなすようにターコイズが二人分のお茶を差し出し、ユーインとエメリは素直に同席することにした。



 それからまた5人で談笑していると、新たな人影が見えた。走って向かってきているが、見覚えのない顔なのでギルドのスタッフではないようだ。

 バジークがゆっくり手を振りながら、今度は

「おーい! 今日は休みだぞー」

 と正しく伝える。

 聞いた途端、走っていた男は力なく倒れてしまった。

「バジークさんひどいっす……」

「なんでだよ……」

 外の男はよろよろと上体を起こしていたが、よほどギルドに用事があったのだろう。見ている方まで憔悴してしまいそうな顔をしている。窓から臨む景色には重たすぎるから、5人は男の様子を見に外へ出ることにした。



 ドゥレが膝を折り、座り込んだままの男に事情を聞いてみると、この村へと到着する少し前、盗賊に襲われたという。幸い怪我はなかったものの行商人である彼は馬車の積み荷を奪われてしまっていて、そのことを抜きにしても被害が広がる前に捕えて欲しいということだった。


 盗賊なんて聞いてしまったら、冒険者としては放置するわけにもいかない。

「ターコイズ、その人にお茶でも用意してやってくれ」

「了解ですーー」

 バジークたちはすぐに身支度を整え、盗賊が出たという場所へ急いだ。



  ◇



 村を飛び出した4人が急ぎ足で現場へ向かっていると、前方でちんたら走る集団を発見した。

 遠目には三毛たちのようだ。


「ゴッサアァァアアム」

「チェン!」

「ソー!!」

 という変な掛け声が時々聞こえるから、間違いない。


 先を急ぐバジークたちと違って三毛たちは長時間走るためにペースを落としていたから、目視で捉えてしまえば追いつくのは簡単だった。追いつきたいわけではないのだが、方向が同じなので嫌でも追いついてしまう。


「あれ。バジーク……いや、他にもいっぱいだった」

 緩太がまず気付いて、それから他の生徒たちも続々と振り向き始める。そのうち、持久走組と追っ手組で並走する形になっていた。

「混ざりたかったの?」

 倫子が手招きして集団に組み込もうとするが、ユーインは横に距離を開いて拒絶の意向を伝える。

「この先に盗賊が出たって言うから捕まえにいくとこ」

「そうなの? じゃあ私たちこのままだと盗賊に襲われちゃうね」

 たしかにー、と周りの生徒たちが朗らかに笑いだす。しかし、足を止める気はさらさらないようだ。


「そこの4人! 後ろにおいでえぇぇええ」

 先頭を走る麗央がバジークたちに大きく声を上げた。

「スリップストリームってやつ! 空気抵抗が減るからあぁああ」

「なんて? 魔法か?」

 聞きなれない言葉に顔を見合わせるバジークたち。

「いいから後ろに行って ピッタリくっつくんだよ」

 雪祭にせかされて最後尾にポジションを移すと、

「これは!」

「空気抵抗が軽減されている! レオたちが風よけになってるんだ!」

 楽になった分酸素が頭に回ったのだろう。ドゥレは賢くなった。


「みんなあぁぁああ! ペースあげるよおぉぉおお」

 宣言と同時に麗央は少しずつ速度を上げ、集団を引っ張り上げる。


「ゴッサアァァアアム」

「チェン!」

「ソー!!」


 バジークたちも叫んだ。



  ◇



「リーダー、なんか来てますぜ」

「あん?」

 盗賊の一味が騒がしい掛け声のする方を見ると、よくわからない集団がまっすぐに自分たちに向かって走ってきていた。

「よくわかんねえが、こういうのは逃げたほうがいい」

 盗賊とはいえ、さすがはリーダー。判断力は悪くない。8人のグループは一斉に走り出した。



「こんちゃー」

「もう来た!」

 判断力は悪くなかったが、走力はそれほどでもなかったようだ。数分で追いつかれてしまった。

 並走しながら麗央が盗賊の人数を確認する。

「そこの8人! 後ろにおいでえぇぇええ」

 このセリフのために数えていた。

「ああ? 指図してんじゃねえぞ!」

 既に追いつかれてはいるものの、とりあえず走り続けることで逃げているつもりのリーダー。

「なんで後ろに付かなきゃいけねえんだよ!」

 という質問には、緩太がわかりやすく答えてあげた。

「後ろには追っ手がいます」

 盗賊の一味がチラリと後方を確認すると、武器を構えた冒険者たちが走っている。

 マジの追っ手だ。一味はなおさら止まるわけにはいかなくなった。




 それから30分。持久走組、追っ手組、逃走組は隊列を崩すことなく走り続けている。

 持久走組と逃走組が並走し、持久走組のすぐ後ろには追っ手組が張り付く。

「くっ…‥くそがああっ! 同じ! 方向に! 走ってくるなー!」

「追ってるから」

 緩太が悠々と答える。顔だけ見ると走っているのか止まっているのかまるで違いがなさそうだ。

 続いて満も「止まればいいのに」とそっけない態度をとる。

「止まったらあいつら! 絶対! 襲い掛かってくるだろ!」

 盗賊たちがチラリと視線を移すと、目の合ったドゥレが小さく手を振って応えてくれた。




 さらに30分後。ようやく事態が動き出す。


「ハァ、ハァ……。もう……無理……」

「お、おれ……も……ゼェハァ、ゼェ……」

 逃走組は脱落した。


「やつらバテたみたいっすね……ゼェゼェ」

「ひー……だめ限界……。死んだら腐る前にグリナドエルに拾ってほしい……」

 追っ手組も脱落した。



「根性なし」

 遠ざかる屍の固まりにセレスティナが小さくため息を吐く。生徒たちは誰一人足を止めなかった。

「私たち行くねー」

 倫子だけは声をかけていたが、気を失っている彼らに届くことはない。


 最終的に、盗賊とふがいない冒険者はドゥレを探しに来たグリナドエルとターコイズが回収した。


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