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38.双子の上手な見分け方

 竜星がギルドに飛び込むなり、上のフロアにも響き渡るよう思い切り叫んだ。


「フォンファとフェンリーがきたぞーーっっ!」


「来たか……」

 落ち着きをなくすスタッフ、冒険者一同。倫子が入口に急ぎ、竜星と一緒に冒険者たちを次々と外に誘導していく。

「裏の緑地に移動してくださーい」

「アンディ、ユンユン、手と足一緒になってますよー。リラックスしましょうー」


 ギルドの中はもちろん、周辺にいた冒険者たちも続々と列をなして緑地へと向かう。

 その緑地では琥太郎と満がやってきた冒険者に一枚ずつカードを手渡し、腰を下ろして待機するよう促していた。



 全ての冒険者たちが緑地に固まりだした頃、フォンファとフェンリーがギルドに到着する。

「こんちゃ!」

「こんにちは。フォンファ、フェンリー」

 三毛と烈火が待ち構えていた。姉妹は不思議そうに顔を見合わせるが、思い当たることは何もない。こんな風に出迎えてもらうようなことなど。


「行こう! こっち!」

 三毛と烈火は説明もないまま姉妹を背中から押して歩き出す。戸惑いはしても抵抗はなかったので、緑地まではすんなりと辿り着くことができた。

 むしろ、抵抗を示したのは緑地に足を踏み入れてからだ。

 大勢の冒険者が座っている光景だけでも異様だというのに、彼らは一人の例外もなく姉妹を注目している。ネガティブに感じる視線はなく、温かさや期待に満ちた眼差しばかりだったことが余計に異様さを際立たせている。


「え? なに?」

「ミケ、レッカ、これってどういう……?」

 素材採集の依頼がないか見に来ただけのはずなのに。混乱を引きずったまま冒険者たちの前まで連れてこられてしまった。


 三毛と烈火は早々と姉妹の元から立ち去り、冒険者たちの固まりに混じってしまう。入れ替わりでゼニスが姉妹の隣にやってきて、そして申し訳なさそうに白状した。

「実は私たち……ふたりの見分け方がわからないんです……」

 生徒や冒険者たちも暗い顔で下を向きだす。

「え……?」

 声を揃えて開けっ放しにするフォンファとフェンリー。見分けがつかないことと、今のこの状況が全く結びつかない。


「なので」

 ゼニスは一拍おき、呼吸を整える。


「フォンファ&フェンリー! 失敗しない見分け方コンテスト! はじめますよー!」

「うおおおおおおおおおっ」

 沸き立つ聴衆。いや、彼らは参加者だ。


 鳴りやまぬ雄叫びに反比例して姉妹は急速に冷静さを取り戻していく。

「コンテストじゃなくても、答えれば終わるんじゃないの?」

 そんなまっとうな意見を呟いたのだが、野太い歓声で消し飛ばされてしまった。


 ゼニスももう姉妹を気にする素振りはまるでない。助手のターコイズが持ってきたガラガラ抽選器を受け取り、コンテストの進行を始めてしまった。


「さてみなさん、向かって左がフォンファさん、右がフェンリーさんです。そっくりな双子の姉妹ですが、うっかり間違えないためにも姉妹の見分け方を共有しましょう!」

「うおおおおおおおおっ」

 姉妹の頬をビリビリと震わせる熱気。臨戦態勢の参加者たちは戦闘開始を待ちわびている。


「ひとりひとりカードをお持ちですね? このガラガラ抽選器を回すと数字の書かれた小さなボールが出てきます。同じ番号の書かれたカードの方が回答権を得られますよ。一番最初に見分け方を当てた方が優勝です!!」

「うおおおおおおおおっ」

 轟音がさらに高まる。冒険者たちは血走った目で周りの番号を覗き始めている。いつ奪い合いになってもおかしくはない。


「今日のお昼ご飯は煮魚定食でした!」

「うおおおおおおおおっ」

 多分何を言っても沸き立つ。



「ではクジを回しますよー」

 ゼニスは抽選器をぐりんぐりんと回しだした。


 ガラガラガラ……コロン


「はい! 26番の整理券をお持ちの方!」


「はい!」

 倫子が嬉しそうに立ち上がると、周囲から拍手が送られる。恥ずかしそうにお辞儀を繰り返していた。

「さあ、最初の回答です! 倫子さんどうぞ!」


「フェンリーはつむじが二つあると思う」

 控えめな口調で答える倫子。言い終わった後は他の冒険者たちと一緒にゼニスを注視した。


「うーーん……」

 ゼニスは目を閉じて深く考え込む。

「えっ……。え? フォンファたちが答えるんじゃない……の……?」

 不安そうに見つめ合う姉妹。

 やがてゼニスがぱちりと目を開いた。

「頭の上は、ぱっと見でわかりづらいので不正解ですねー」

「残念……」

 倫子はさみしそうに笑いながら座り直した。周りから「ドンマイ」とか「ナイス回答!」とか優しい言葉が飛んでいる。



「次回しますよー」

 ゼニスは抽選器をぐりんぐりんと回しだした。


 ガラガラガラ……コロン

「8番でーす」


「き、きたっすー!」

 ドキドキいっぱい胸いっぱいの表情でエメリが立ち上がった。

「ではエメリさん! 答えは?!」


「見た目ですぐにわかりやすいものってことっすね! まつ毛の長さっす!」


 今度は実際に測定する気になったらしい。ゼニスは姉妹の顔を超至近距離から覗き込んだ。

「どうでしょうねー。んー……一緒なのかなぁ……?」

 長さを把握しやすいよう下から見上げるようにしてざっくりと観察してみたが、多少は違うかもしれない、という程度の差だ。

 遠目にはわからないし無理がありそうだとゼニスが考えていると、フォンファとフェンリーは顔を真っ赤にして抗議してきた。

「そんなに間近で見られると恥ずかしい……」

「ですよねー。じゃあ外れ」



「どんどん行きますよ!」

 ゼニスは抽選器をぐりんぐりんと回しだした。


 ガラガラガラ……コロン


「32番!」


「っしゃー! 俺だ! 自信あるぜ!」

 最後列の冒険者が両腕を天に突き出して喜びを表現し、ゆっくりと立ち上がる。

「これは期待大ですね!」


「うんこが長い方が姉! 長いっていうのは時間で、デカさではないぜ!」

「警備の方ー、お仕事でーす」


「なにを! や、やめっ……やめろおーーっ!」

 リッキー、オリバー、緩太の3人がどこからともなくやってきて、冒険者を抱えてどこかへ行ってしまった。



「次!」

 ゼニスは抽選器をぐりんぐりんと回しだした。


 ガラガラガラ……コロン


「6番!」


「きたきた!」

 回答者は三毛。6と書かれたカードを見せびらかしてブーイングを浴びている。

「煽らないでくださーい。回答をお願いしまーす」


「自分のことをフェンリーって呼ぶ方がフェンリーで、フォンファって呼ぶ方がフォンファ!」


 ブーイングは止まったが、会場も静まり返ってしまう。

 少しの静寂の後でフォンファとフェンリーがクスクスと笑い出した。

「えー? それ見た目じゃないよ」

「ミケはやっぱり変だね」


 おかしそうに笑い続ける姉妹。


 あっ、と全員が無言でその様子を見つめだした。



「あはははは、私わかったー!」

 麗央が真っ先に声を上げ、そこから波紋のようにさざめき立っていく。冒険者たちは隣同士顔を見合わせて「だよね?」と口々に確認しあっていた。

 双子の姉妹は全く同じ表情を並べて目の前の光景を見守るしかない。ついさっきを思い返してみても、きっかけになりそうなことは思い当たるものがひとつもないのだ。


 ゼニスは冒険者たちを見回してから、おしゃべりを控えるよう口の前に人差し指を立てる。そうして皆が落ち着いた後、抽選器を足元に手放した。

「みなさん答えが揃ってそうですねー。では、全員で一斉に答えて、正解したら全員優勝ということにしちゃいましょうー!」


「いきますよーっ? せーの!」



「かたえくぼで笑う方がフォンファ!!」



 笑顔にすれば一目でわかる、優しい見分け方が見つかった。


 優勝賞品は、千代紙を折ったちょうちょ。折り紙や千代紙は費用もかからず喜んでもらえるので贈り物に重宝しているが、今回は全員優勝としたせいで40個ほど急いで作らなければならなかった。


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