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35.双子を探せ④

「なかなか見つからないね」

 万に一つもあるかもしれない。烈火は山ほど積まれたカボチャの奥を覗いてみたが、人が隠れている気配はしなかった。

 市場の中を手分けして探すこと20分。このエリアも頃合いだろう。

 他の面々も同じように考えていたのか、まずはセレスティナが烈火の元にやってきた。


「市場にはいなそうだ。次はどこがいいと思う?」

 そうだねー、と烈火は人差し指で下唇をなぞる。少し経つと、弾けるように唇が開いた。

「あ! ギルドに行くのは? 冒険者だし目印にするかも」

「らんちゃん……可愛い上にお利口か」

 もしかしたらもうすでに冒険者ギルドで待っているかもしれない。ささやかな期待に囚われたふたりは早速ゼニスたちを探し始めた。



 ゼニスとターコイズを見つけるのは容易なことだ。

 ターコイズは周囲の人々よりずっと高い位置に浮いているし、色もずっと派手だからものの数秒で居場所を把握できる。

 ターコイズと合流したら一種のテレパシーでゼニスを呼んでもらえばいい。

 この手順で烈火とセレスティナは早々に4人で固まることができた。残るはフォンファだが、これもターコイズに俯瞰で探してもらうのが近道だろう。



「フォンファさん見つけたみたいですよ」

 目論見通り、ターコイズからゼニスに連絡が入る。3人はターコイズの示す位置に向けて歩きだした。


 ゼニスに居場所を伝え終わったターコイズはふわりと獣人の目の前に降りていく。

「冒険者ギルドに場所を移すみたいですよーー。今ゼニス様たちがこっちに来るので、ちょっと待っててくださいねーー」

「え? え?」

 急に現れた妖精は人懐っこい表情をしていて、ずっと前から親しい仲だったかのように錯覚させる。神の使いとも呼ばれる妖精に知り合いなんていただろうかとフェンリーは一瞬考えてしまった。


 フェンリーが頭の中をぐるぐるとさせているうちに、烈火たちがぞろぞろと集まってくる。

「お待たせ。いこ」

「え? あ……え?!」

 そのままフェンリーは烈火に引っ張られていってしまった。



  ◇



 そろそろ市場周辺を捜索エリアにしてから15分。集合の時間だ。

 三毛はぼんやりと果物の山を眺めていた。マンゴーとアボカド、この世界では名前が逆なのだはないだろうか。見れば見るほど疑念は強くなる。

 とりあえず今は合流地点に向かおう。そう思って体の向きを変えると、フェンリーらしき娘が左右に大きく顔を動かしたり背伸びで遠くを確認している姿が映った。一緒に戻ろうと考え、三毛はすいすいと歩みを進める。


「どう? 見つかった?」

「え? え?」

 急に現れた相手は人懐っこい表情をしていて、ずっと前から親しい仲だったかのように錯覚させる。こんな知り合いいただろうかとフォンファは一瞬考えてしまった。

「って、見つかったら一緒にいるか」

 フォンファが戸惑っているうちに三毛は自己完結をすませ、油断しきっているその細い腕をなんなく捕えてしまう。

「この辺は一通り周ったから、他行こ」

「え? あ……え?!」

 そのままフォンファは三毛に引っ張られていってしまった。



  ◇



 冒険者ギルドの外で座り込むリッキーは、ただただ退屈そうに空を見上げている。


 ジャイアントスパイダーが大量発生したようで、今日はずっと鋏角の持ち込みばかりだ。蜘蛛のパーツすら見るのが嫌なリッキーは避難生活を強いられていた。


 目で追っていた雲はだいぶ流れていってしまった。

 次はどれにしようかと形の良いものを見繕っていると、視界にひょいと烈火の顔が割り込んできた。

「リッキー、ここにフェンリーっていう冒険者来てない?」

「多分来てないと思う」


「あ、あの!」


 意を決して、というには手遅れのタイミングでフェンリーが口を開く。とうとうここまで話をできないままギルドに到着してしまった。


「フェンリー……です。わたし」


 リッキーがちらりと烈火に視線を移す。

「良かったな。ちょうど来た」

 が、烈火はもちろん、その後ろにいるセレスティナたちにも喜んでいるような様子はうかがえない。リッキーとフェンリー以外は頭からはてなマークが絶えず浮き上がっている。


「え? フェンリー? フォンファじゃなくて?」

「え! フォンファを知ってるの?!」

 とっさに飛びついたフェンリーは勢いあまって烈火を押し倒してしまう。

「いたっ」

「殺そう」

 ゼニスはまずセレスティナを制して、それからフェンリーを烈火から引き離した。

 ミステリーの匂い。ゼニスの心が躍る。

「いつからフェンリーさんだったんですか?」

「え? 生まれてからずっと」

「え?」

 ゼニスとフェンリーは顔を見合わせる。見つめ合う時間が長くなるほど互いの混乱を高まってしまうばかりだ。


 状況がわからず置いてけぼりのリッキーだったが、トラブルの匂いを感じてすっかり瞳を輝かせている。

 セレスティナが誰にともなく

「つまりどういうこと?」

 と言うので、リッキーは自慢の推理力を働かせた。

「フェンリーは見つかったから、今度はフォンファを探す」

「双子だしな。それは言えてる」

 セレスティナは腑に落ちたようだ。


「手伝ってやるよ。依頼書を発行してここの冒険者を集めればいい」

 ギルドの中に入るのは気が引けるが、退屈しのぎにはもってこいの状況。リッキーは立ち上がり、「いろいろ準備するからその辺で休んでな」と言い残していった。



  ◇



 冒険者ギルドの外でリッキーは大きく背伸びをする。烈火たちの準備も一区切りし、あとはギルドの空き教室で休んでいる彼らを呼ぶだけだ。


「リッキー、ここにフォンファっていう冒険者いない?」

 聞き覚えのあるセリフに振り向くと、声をかけてきたのは三毛だった。

「またか。面倒な時の答えでいいよな。いない」


「あ、あの!」


 意を決して、というには手遅れのタイミングでフォンファが口を開く。とうとうここまで話をできないままギルドに到着してしまっ


「フォンファ……です。わたし」

「良かったな。ちょうど来た」

 これもデジャヴを感じつつ、リッキーはちらりと三毛に視線を移す。

 三毛はきょとんとして数秒固まった後、

「名前変えた?」

「え……? 3歳より前は覚えてないけど……たぶん生まれてからずっとフォンファ」

「俺は5歳からの記憶しかないなぁ。俺ってずっと三毛?」

 最後はリッキーを向いて言うので、リッキーはこれには既視感がないなと新鮮な気持ちになった。

「面倒な時の答えでいいよな。イエス」

 そう言って三毛の後ろに視線を移すと、麗央と緩太が頭からはてなマークを絶えず浮き上がらせている。

 緩太が数学の授業中みたいな顔で周囲に確認を求めた。

「いつの間にかフォンファ見つけてたってこと?」

「いつの間にかフェンリーいなくなってたみたい! あはははは」

 麗央がのんきに笑い転げる。フォンファは茫然とするばかりで、リッキーは交互にその顔を楽しんでいた。トラブルの匂いを感じてすっかり瞳を輝かせている。


「つまり、もしかしてまた人探し?」

「さすがリッキー! 冴えてるねー!」

「勘じゃないんだよな。これは経験だ、割と新し目の」


「えーと、じゃあフェンリーを探すってこと?」

 混乱気味な三毛にリッキーが「準備はできてる」と肩を叩く。

「捜索用の依頼書で冒険者も確保してるからいつでもいける」

「なにそれ! リッキー預言者じゃん!」

「馬車止めで待ちくたびれてると思うから行こうぜ」

 リッキーは4人を引き連れて揚々と歩きだした。



  ◇



「リッキーさーん」

 ターコイズが2階の窓からふよふよと降りてきた。

「それ、楽でいいな」

 また雲でも眺めようかと腰を下ろしていたリッキーは、半分不思議そうにターコイズを見る。

 続いて烈火たちもギルドから出てくるので、リッキーの顔はまるごと不思議そうなものに変わってしまった。

「三毛たちと一緒に行ったのかと思ってた」

「三毛?」

 烈火が首を傾ける。

 三毛が依頼を受けたという意味だろうか。というより、その解釈しかしようがない。


「待っていればフォンファさんを連れてきてくれるってことでしょうか」

 窺うようにリッキーと視線を合わせるゼニス。しかし、リッキーは同意どころか不審そうな目つきを返している。

「フェンリーだろ?」

「フェンリーはここにいる」

 リッキーの言葉は即座にセレスティナが打ち消した。フェンリーを指して証拠も示している。


「じゃあ何探しに行ったんだ……?」

 その場の全員が首をひねるが、答えは出そうもない。セレスティナがポンとリッキーの肩を叩き、

「仕方ない。もう一回準備して」

 依頼書の再作成を命じる。

「マジかよ……。あれ作るのすげー大変なのに」

 重いため息と共にリッキーは重い腰を上げた。またギルドに入らなければならない。


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